2014年に見つかった中咽頭がんを克服した後、『レヴェナント:蘇えりし者』『母と暮せば』などの映画の音楽を担当し、17年は自らが出演したドキュメンタリー映画『Ryuichi Sakamoto: CODA』が公開されるなど精力的な音楽活動に取り組んでいる坂本龍一さんが、ニューヨークの個人スタジオで日本経済新聞の単独インタビューに応じた。
がんが創造活動や死生観に与えた影響のほか、自らの半生の足跡、アジア映画の台頭、恩人、家族、友人を巡る思い出などについて語っている。インタビューの内容を3回に分けて掲載する。
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コーヒー再開でがん抑制を期待、ガムで唾液腺を刺激
――仕事を再開して3年たちましたが、体調は完全に回復しましたか。
「完全に回復したというわけではないですが、気持ちのうえではかなり元の状態に戻ったという感じです。海外出張も病気になる前の7割くらいのペースに増えてきました。がんになる前よりも体重が一時期、15キロほど減りましたが、その後、3~4キロは増えたので、差し引きでまだ10キロ強ほど痩せている状態です。太り気味だったので、冗談半分で『がんのでおかげでいいダイエットになった』なんて話しています。まあ、誰も笑ってはくれませんが……」
「治療の影響で唾液の分泌も半分くらいになってしまったので、唾液腺に刺激を与えて分泌を良くするため、なるべくガムをかむようにしています。それから、気分転換としてコーヒーを飲むようになりました。コーヒーはもともと大好きだったんですが、健康に良くないと思って、ある時期からやめていたんです。でも適度な範囲内ならばがんの抑制効果が見込めるという研究もあることを知り、再開することにしました」
日本の黒々とした土が好き、理想は土葬されたい
――がんになって死をより身近に感じたんじゃないですか。
「自分に残された時間が確実に減っているという意識はあります。当然のことですが、自分の体の老化もどんどん進んでいる。体の老いに初めて気付いたのは40歳を過ぎた頃でした。遠くが見えにくくなり始めたので目の老化を自覚したんですが、耳も、若い頃に比べると明らかに高い音が聞こえにくくなっています」