松本穂香 もらってびっくりした母の手作り巾着袋
ドラマ「この世界の片隅に」(TBS)の主演に抜てきされて注目された、21歳の新進女優・松本穂香さん。大切なものとして見せてくれたのは、動物柄の小さな巾着袋だった。
心配性の母が、作ってくれました
「これは、母が手作りしてくれた巾着袋です。私が『この世界の片隅に』の撮影に入るときに、『何もできないけど……』と言って、お守りとして渡してくれたんです。
もらったときは、びっくりしました。母は普段、こういうものを作るような人じゃないんです。基本、めんどくさがりなので(笑)。作ってくれたのは、幼稚園のとき以来じゃないかな。連続ドラマ初主演でしたし、私が演じたすずが巾着袋を作って子どもにあげるというシーンもあったので、こういうものを作ってくれたのかなと思います。
この中には、お守りをたくさん入れています。大阪の祖母が送ってくれたものや、年末年始に自分で買ったもの……5個は入っていると思います。
神様がケンカする? それは、あまり気にしないです(笑)。悪いものじゃないと思っているので、もうごちゃ混ぜにして入っています。
動物柄は、母の好み、センスなのかな。私が好きな動物がこの中にいる、ということではないです(笑)。かわいい、女の子らしいものを選んでくれたんだと思います。
この巾着袋を、撮影現場に毎日、持って行ってました。正直、それをじっと見るような余裕はなかったんですけど、パッと目に入ると、『がんばろう!』と思いました」
「お守り」に見守られながら撮影を乗りきった松本さん。彼女自身は、手作りのものをプレゼントしたことはあるのだろうか。
「モノじゃないですけど、お菓子を作ってプレゼントすることはあります。高校生くらいになると、バレンタインデーにみんな、友達のためにお菓子を作ってくるんですよ。そういうときにも作りましたし、誕生日にも作って、よくあげてました。
クッキー、パウンドケーキ、あとアップルパイも、簡単なものですけど作ります。一番得意なのは、チーズケーキ。と言っても、ネットで基本のレシピを調べて作るので、ごく普通のチーズケーキですけど(笑)。友達にあげると、みんな喜んでくれます。
お菓子は、自分で食べるために作ることはないです。人にあげるときしか、作らない。食べるのは好きですけど、自分で食べるときは買って食べます。買ったものの方がおいしいかなって……(笑)。でも誰かからもらうものは、気持ちのこもっているものなので、もっとおいしいなって感じます。
これからチャレンジしたいのは、マカロンです。実際に作るとなると、とてもめんどくさそうですけど(笑)」
キラキラ青春映画と猫グッズ
2018年10月5日公開の出演作は、台湾で大ヒットした青春映画のリメイク「あの頃、君を追いかけた」。松本さんは主人公の高校生・浩介(山田裕貴)の幼なじみで、ヒロインの真愛(齋藤飛鳥)の親友でもある猫好きなクラスメート・小松原詩子(うたこ)を演じている。
「私は今まで、そんなに多く学園ものに出たことがないんです。私だけ若くて、周りはみんな年上の方っていう作品が多くて。でも今回は同世代の人たちとがっつり共演できて、キラキラした青春映画が作れるということで、すごく楽しみでした。
演じるにあたって意識したことは、みんなの輪の中に入ること。私は普段、周りとそんなにワイワイできるタイプではないんですけど、詩子はそうじゃない。撮影の合間もできるだけ輪に交じって、話すようにしていました。
詩子は真愛のことも好きだし、浩介のことも好きだから、引かれ合う2人を見て、実は苦しんでいる。だけどそれがバレないようにしていると思ったので、演じるときは、あまり気持ちが出過ぎないように意識しました」
撮影で印象に残っているのは、ペンや筆箱といった学生らしいモノだという。
「授業中に、真愛が後ろから浩介をペンで突っついて、だんだんシャツにシミができていくんです。そういう行為が、かわいらしいなと思いました。
詩子は猫が好きな設定なので、筆箱をはじめ、いろんな持ち物が猫グッズになっている(笑)。スタッフさんがこだわって用意してくれたモノを見て、『こういう子なんだな』と役をつかむヒントになりました。
完成した映画は、私たちの世代はもちろん、大人の方たちにも懐かしく感じてもらえるような、爽やかな青春映画になっていると思います。私自身も撮影を通して、キラキラした青春を楽しめました」
コメディーもシリアスもこなせる女優になりたい
高校の演劇部で芝居に目覚め、15年に女優デビュー。17年のNHK連続テレビ小説「ひよっこ」などの作品で注目を浴びる。18年にはauのCM「意識高すぎ、高杉くん」シリーズに起用されて注目度を上げた。そしてオーディション参加者3000人の中から、「この世界の片隅に」の主人公・すず役を勝ち取った。
「私はもともと自分に自信がないタイプなんですけど、『この世界の片隅に』を経験した今、ちょっとは自信がついたかなと思います。戦時中の物語なので、つらい描写もありました。でも周りのベテランの方たちにいろんなことを教わって、なんとか乗り越えて。作品を通して、少しはメンタルも鍛えられたかなと思っています。
休みの日は、最近は買い物に行くことが多いですね。ドラマでお世話になった方々へのプレゼントを買いに行くついでに、自分の服を見て、ご褒美みたいな感じで、いくつか買いました。
服を買うときに重視するのは、着心地の良さです。派手だろうが地味だろうが気にしないし、ブランドにもそんなにこだわりがないんですけど、着心地は大事。だから試着して買えないネット通販は、まだ怖くて。一回買ったら、『あ、意外と大丈夫なんだな』ってなるのかもしれないですけど……」
「物欲も、同世代の女の子たちと比べて、ない方だと思います」と話す、そんな彼女が欲を見せたのは、「どんな女優になりたいか」と聞いたときだ。
「幅広い役柄をこなせる女優さんになりたいです。等身大の女性も、コメディーもシリアスもこなせる、自分をしっかり持った、強い女性になりたい。
女優の仕事の楽しさは、全部が作り物の嘘の世界の中で、本当の瞬間が生まれること。役を通して、本当に心が動いたり、温かい気持ちになったりする。そういう瞬間があると、このお仕事って楽しいなと思います」
1997年生まれ、大阪府出身。2015年に短編映画に主演してデビュー。16年に舞台に初主演し、17年、NHK連続テレビ小説「ひよっこ」でメガネの工員・青天目澄子を演じて注目される。18年はTBS日曜劇場「この世界の片隅に」の主演に抜てきされて注目された。そのほかの主な出演ドラマに「下北沢ダイハード」(17年)、「食い逃げキラー」(18年)など。映画は「青空エール」(16年)、「恋は雨上がりのように」(18年)などに出演。また、夜の連続YouTube小説「アスアブ鈴木」(18年)に主演している。
あの頃、君を追いかけた
地方都市のお調子者の高校生・水島浩介は、ある日、悪ふざけが過ぎて教師を激怒させる。浩介のお目付け役に任命されたのは、学校一の優等生・早瀬真愛。自由人の浩介と堅物の真愛は水と油のようだったが、幼なじみの詩子ら仲間とつるむうちに、2人の距離が近づいていく……。監督・長谷川康夫 原作・ギデンズ・コー(「那些年、我們一起追的女孩」) 脚本・飯田健三郎、谷間月栞 出演・山田裕貴、齋藤飛鳥、松本穂香、佐久本宝、国島直希、中田圭祐、遊佐亮介 2018年10月5日(金)全国ロードショー
(文 泊貴洋、写真 藤本和史)
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