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現代音楽の藤倉大 人と会わずにコラボする作曲法

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現代音楽をリードする英国在住の日本人作曲家、藤倉大(だい)氏(41)が今秋注目されている。9月に最新CDアルバムを出したのをはじめ、10月20日には東京で「個展」を開き自作14曲を披露。同31日にはオペラ「ソラリス」を日本初演する。世界中で高い評価を受ける理由と作曲の秘訣は何か。一時帰国した藤倉氏に聞いた。

「彼とはまだ会っていない」。藤倉氏の口癖だ。作曲やレコーディングに協力してもらった演奏家についてこう言う。「会っていない人とのコラボレーションで録音した音源を僕が編集し、マスタリング(原盤作成)もしてCDを出すことが多い」。人と実際に会わずに協業し作曲を進めるのが藤倉流だ。

世界各地の演奏家と連携して進める作曲活動

「今はオーストラリアの演奏家とコラボしている」と藤倉氏は例を挙げる。「エレキギターとトランペットとトロンボーンのためのトリオ(三重奏曲)を書いている。英国とオーストラリアでは時差が大きいのでファイルの送受信やスカイプでのやり取りが大変。本番にはオーストラリアに行く。そこでやっと『初めまして』ですね」と語り、インターネット上での協業だけでも支障がないようだ。

「僕はロンドンに住んでいるけど、めったに外に出ない。人に会うのは娘の送迎のときくらい。ほとんど部屋にいる」。現代音楽の最先端を行く作曲家の生活がこれだ。しかし作曲家はそもそも一人で曲を書くものだろう。ネット上とはいえ、演奏家と連携して進める作曲法はむしろ新しい。藤倉氏の作曲の特徴は、演奏家と楽器をよく理解した上で、彼らの個性に合った作品を生み出す点にある。実際に会わなくてもネット上で音楽的に深い仲になってしまえるのだ。

9月19日には最新CD「藤倉大:ダイヤモンド・ダスト」(発売元:ソニー・ミュージックレーベルズ)を出した。それぞれ尺八、トロンボーン、バイオリン、ホルンのためのソロ4曲と、「ダイヤモンド・ダスト(ピアノ協奏曲第2番)」「コントラバス協奏曲」という協奏曲を2曲、計6曲を収めている。2つの協奏曲では特殊編成の器楽アンサンブル「アンサンブル・ノマド」が独奏者と共演している。

いずれの曲も藤倉氏がそれぞれの楽器の演奏家たちと実際に、またはバーチャルにやり取りして2010~17年に書いた作品だ。「デリクェス~トロンボーンのための」は無限音階のように音程を滑らかにスライドさせて猫の鳴き声のような響きを出すのが特徴。トロンボーン奏者数人と頻繁にセッションをして技法を探究したが「今回のCDでソロを担当したトロンボーン奏者(ウィリアム・ラング氏)とはまだ会ったことがない」と言う。

 演奏家との日ごろの付き合いから生まれた曲もある。「ライン・バイ・ライン~ヴァイオリンのための」は英国在住の世界的バイオリニスト、ヴィクトリア・ムローヴァ氏から「私にも曲を書いてほしいと言われて作った」と話す。「彼女の家で何度も奏法を試した」。2人のバイオリニストが弾いている錯覚を起こすハーモニー豊かな独奏曲。メロディアスで心地良い。

ニューウェーブやテクノも受容した現代音楽

「僕は現代音楽の作曲家と言われるけれど、子供も大人も楽しめる曲を書きたい」。最新CDはいずれも繰り返し聴きたくなる曲ばかりだ。メロディーがポップス風であるわけではなく、従来の長調や短調でもない。不協和音や無調風の妥協なしの現代音楽として響くのだが、新鮮なメロディーとハーモニーを感じさせる。親しみやすさも兼ね備えていることが、この作曲家が演奏家と聴き手の双方から支持される理由ではなかろうか。

9月24日、藤倉氏はアーティスティック・ディレクターとなって現代音楽祭「ボンクリ(ボーン・クリエイティブ)」を東京・池袋の東京芸術劇場で開いた。昨年に続き2回目。パーカッション奏者のイサオ・ナカムラ氏や東京混声合唱団ら多数の演奏家が出演。坂本龍一氏の合唱曲のライブ・リミックスでは藤倉氏もエレクトロニクスで参加。デヴィッド・シルヴィアン氏(1974~82年に活動した英国ニューウェーブバンド「ジャパン」のリーダー)の84年の名盤ソロアルバム「ブリリアント・トゥリーズ(輝ける樹木)」を想起させるアンビエントなアレンジぶり。藤倉氏がニューウェーブやテクノも受容したロック世代以降の現代音楽の作曲家であることを再認識させた。

「ボンクリ」では藤倉氏の「チェロ協奏曲」も日本初演された。オランダ出身のチェロ奏者カティンカ・クライン氏の独奏、佐藤紀雄氏の指揮によるアンサンブル・ノマドによる演奏。藤倉作品に特有の浮遊感、グリッサンド奏法を使った音程のゆがみ、多彩なビートを織り交ぜた疾走感あふれる響きを生み出した。最も安い2000円のチケットを買って3階席で聴いた。客席の半分も埋まっていなかったが、現代音楽の最前線を一通り見渡せる内容からして割安とも感じた。

さらに10月20日にはハクジュホール(東京・渋谷)で自作14曲を披露する「個展」を開く。ソプラノの小林沙羅氏、チェロの新倉瞳氏、クラリネットの吉田誠氏ら、若手・中堅の実力派演奏家が参加し、各楽器の特性を生かした独奏曲を中心にプログラムを組み立てている。特にNHK交響楽団首席ホルン奏者の福川伸陽氏の独奏による「はらはら~ホルンのための」はハクジュホール開館15周年記念作品として世界初演される。

 一連のイベントのトリは東京芸術劇場でのオペラ「ソラリス」日本初演だ。「僕は歌が大好き。ストーリー性のある音楽も合っている。だからオペラを作る」。「ソラリス」はポーランドの作家スタニスワフ・レム氏のSF小説「ソラリス」を題材にしたオペラだ。「この小説が大好きで、英訳本を読みふけってきた。ソラリスを題材にした器楽曲も書いたことがある」と話す。

23世紀に古典として残るオペラ「ソラリス」

藤倉氏はアンドレイ・タルコフスキー氏の有名な映画「惑星ソラリス」ではなく、あくまでレム氏の原作に触発された。日本語版では沼野充義氏がポーランド語原典から直接翻訳した「ソラリス」(ハヤカワ文庫)がある。オペラを聴く前に原作を読み、作曲家の創作ヒントを追体験しておきたい。

小説「ソラリス」は、意思を持つ海に覆われた惑星ソラリスを探査する人間の異常な体験を描いている。人間には海のように巨大な生命体に見えるだけで、本当は何なのか分からない。人間の理性を超えた絶対他者との遭遇という存在論的テーマを持つ。言葉で表現できず、意思疎通も不可能なのは、ヴィトゲンシュタイン著「論理哲学論考」の最後の命題「語り得ないことについて人間は沈黙するほかない」を地で行く全き他者だ。

レム氏は原作を人間のノスタルジーの物語に還元したタルコフスキー氏の映画に不満を持っていたという。レム氏はこの小説で絶対他者としてのソラリスの海を通じて、万物を人間的なものに擬態化するアントロポモルフィズム(人間形態主義)と理性のおごりを批判したといわれる。そこで藤倉氏がオペラで考えた編成は「十数人の器楽アンサンブルと、それと同程度のパワーのエレクトロニクス」を対峙させることだった。

「器楽奏者(人間)のエネルギーをリアルタイムで加工するエレクトロニクスが必要だ。普通のオーケストラが演奏したら地球上ではない感じにならない。地球で行われないことがあそこ(ソラリス)で起きるわけだから」。日本初演は佐藤紀雄氏の指揮によるアンサンブル・ノマドの器楽演奏に、永見竜生氏が担当するエレクトロニクスを対峙させる。ハリー役はソプラノの三宅理恵氏、ケルヴィン役はバリトンのサイモン・ベイリー氏。振付のない演奏会形式だが「音楽だけでも十分伝わる」と期待する。

現代の作曲家には珍しいほどオペラの創作意欲が旺盛だ。2015年にフランスのパリで「ソラリス」を世界初演したのに続き、18年3月にはスイスのバーゼルでエドガー・アラン・ポーの怪奇小説に基づく子供向けオペラ「黄金虫」も世界初演された。今は「僕の親友の詩人と協力して3作目のオペラを作曲中」と言う。

「『ソラリス』は23世紀に古典として間違いなく残っているオペラ」と東京芸術劇場の企画担当者は自信たっぷりに断言した。ソラリスの海のように人知を超えた全く新しい響きを探究し続ける藤倉氏。前衛なのに聴き手の耳には潮騒のような親しみを持って届く。現代音楽がワクワクする楽しみを新たに発信し始めている。

(映像報道部シニア・エディター 池上輝彦)

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