クラゲ この美しく奇妙で多様な生物

日経ナショナル ジオグラフィック社

2018/10/7
ナショナルジオグラフィック日本版

数億年前から水中を浮遊するクラゲ。ナショナル ジオグラフィック2018年10月号の「魅惑のクラゲ」では、『6度目の大絶滅』でピュリツァー賞を受賞したことで知られるエリザベス・コルバートが、この謎めいた生き物を取り上げた文を寄せている。山形県の鶴岡市立加茂水族館で撮影取材したデビッド・リトシュワガーの美しいクラゲの写真とともにお届けしよう。

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世界各地の水深の浅い入り江に生息するミズクラゲは、小さいがお化けのようで怖い感じだ。透明な傘の下から淡い水色の触手が伸びたミズクラゲが、体を拍動させて水中を浮遊する様子を見ていると、まるで海水そのものが生きているように思えてくる。

米国メリーランド州ボルティモアにある国立水族館では、来館者がミズクラゲに触れる機会を設けているが、最初は怖がって誰も手を出そうとしない。このクラゲは痛くないから大丈夫だと言われて初めて、来館者は恐る恐る水槽に手を伸ばすのだ。

「ぐにゃぐにゃしてる!」「冷たい!」子どもたちから歓声が上がる。「クラゲは本当に魅惑的な生き物だと思います」と、クラゲの飼育を担当するジェニー・ジャンセンは話す。

ゼラチン質の体以外は共通性がない

不気味、ぐにゃぐにゃ、冷たい、脳がない、魅惑的……。クラゲの不思議さを言葉で表現するのは難しい。体の構造を見ると、脳ばかりか血液も骨格もなく、原始的な感覚器官しかない。そして、分類学的に見ると、クラゲは種類の異なるいくつかのグループに分けられる。

「クラゲ」と総称される生き物は、互いに近縁関係にないものが多い。生物の系統樹において完全に異なる系統に分類されていて、生息する環境もさまざまだ。海面近くを好むクラゲもいれば、深海に生息するもの、さらには淡水域で暮らすクラゲまでいる。こうした異なる生き物をひとくくりに「クラゲ」と呼んでいるのは、ひとえに、水中を浮遊して生きていくのに適した進化を遂げた点で共通しているからだ。それが、ゼラチン質の体だ。

当然のことだが、進化の過程がまちまちなため、クラゲの体の形や大きさ、生態は実にさまざまだ。繁殖方法に関して、刺胞動物のクラゲは多様性を誇り、有性生殖でも無性生殖でも繁殖できる。有性生殖では、受精卵は「プラヌラ」と呼ばれる幼生となり、岩などに付着してイソギンチャクのようなポリプになる。

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