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厳寒の韓国でパトカーに乗せられた話

立川談笑

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NIKKEI STYLE

師弟で代わりばんこに連載しています。前回掲載の吉笑の話は赤裸々で良かった。落語家の収入(ギャラ)の話。読んでずいぶん笑いました。わはは。

さて今回はがらっと変わって「迷子」のお話です。

こつぜんと現れた謎の女子校

場面は私が高校に入って間もないころの東京都板橋区。日曜の朝、私は所属する海城学園柔道部が出場する柔道大会が開かれる高校を探していました。ひとりポツンと見知らぬ駅を出て地図を片手に見知らぬ高校に行く。というのも所用があった私だけが後から遅れて合流することになったためです。何とも心細い。大会はとっくに始まっている時間です。やおら校舎らしき建物が近づいてきました。予定の時間にはなんとか間に合いそう。

そして正門に近づくと、なんと!その学校は目指している城北学園ではありません。正門のプレートには「聖アントノフ女子学園」とか何とか。あっちゃー!間違った!見回せば制服姿の女子高生たちがにぎやかに会話をしながら、2人、3人と吸い込まれていきます。柔道の会場じゃ、ないじゃーーーん!!!

慌てる心を落ち着かせながら、地図を見直し、いったん来た道を駅の方向に戻り、もう一度やり直します。が、それでも一向に城北学園にはたどり着けません。もはや現在地すら分からない。

校門の前で地図を手にぼうぜんとしていたら、なぜかたった今登校したはずの女子高生たちがワラワラと一斉に門から吐き出されてきました。何だか奇妙な光景です。同時に建物の陰からラフな格好の男たちが現れ、ひとりが正門に近づくと「聖アントノフ女子学園」のプレートをガタンと外しました。出てきたのは「城北学園高等学校」!

なな、なななな、な、な?何だ?私の頭の中で時空がぐにゃりと曲がりました。頭をかすめるのは1960年代の米国映画『猿の惑星』でのチャールトン・ヘストンのセリフ。「ここは、地球だったんだー!」

ふむー。後で聞けば、テレビドラマのロケをしていたんだそうです。「撮影してたのはテレビ朝日の『特捜最前線』だってさ」って言った人がいたけど確かめようもない。

海外ロケの高揚感が…

「今はスマホのルート検索だとか地図アプリが充実してる時代だから、『迷子』なんてそうそうないでしょう」

と思ったアナタ。いやいや。最新の素晴らしい技術はできても、それを使う人はかなり古かったりするんです。旧式。私は、迷子になるクチです。

あれは一昨年の12月。テレビ収録のため韓国のプサン(釜山)を訪れました。「チョイ住み」というNHKの番組です。人気若手俳優の中村蒼さんと私が1週間共同生活をして、地元民にしか見えない景色を垣間見る、という企画です。

このロケが、すこぶる迷子の連続だったのです。なにしろ収録スタイルが、「ガチのドキュ!」。先回りして制作スタッフがあれこれと仕込んだりすることは全くなくて、本当に出演者の動き次第で収録をしていく。「ガチガチのドキュメンタリー」スタイルでした。

初日。まずは一足先にプサンに乗り込んだ中村さんが、繁華街にある宿泊予定のマンションを探します。ところがこれが見つからない。スマホの地図アプリでも分からない。現地の人たちに協力してもらっても分からない。それらしきマンションに行っても、違う。大きな荷物をかかえて狭い一角を行ったり来たりするばかりです。

ひたすら4階にある部屋を探してたんですが見つからないのも道理。実は、何度も目の前を行き過ぎていた3階建てのマンションが目的の物件だったのです。探していた4階の部屋とは、3階建ての屋上にペントハウスのように建て増ししたものでした。マンション入り口にある郵便受けが3階までしかなかったのが、迷子になる決定的要因。どうやら3階までは一般の住宅で、増設した4階は「民泊」よろしくツアー客しか使わない。だから郵便受けは3階まで、というからくりだったようです。そりゃ迷うわけだ。

中村さんがさまよいまくったプサンに私が乗り込んだのは翌日です。空港を出ると、年末の韓国はとにかく寒いったらない!

空港から地下鉄に乗って最寄り駅で降りました。そして私も、いいように迷いました。駅から街に出てみて、何が何だか分からない。道案内はあるけどハングルだから分からない。カメラマンや制作スタッフはまるで影のごとく、ひたすら無言でついてくるだけ。「海外ロケ、ひゃっほー!」という高揚感が、みるみるしぼんでいきます。

さんざんさまよった揚げ句、「POLICE」の文字にすがりつくようにして入ったのは警察署。数人いた警察官に英語で窮状を訴えると、中から日本語を話す警察官が出てきて言いました。

「連れていってあげますよ」

パトカーで送ってもらっちゃった。公務中なのに、申し訳ない。

この時私が迷った理由は、降りる駅を間違えたから。わはは。うっかり。

中村さんと合流してからも迷子イベントは続きました。韓国式あかすりを体験しようと、2人で銭湯を目指してマンションを出ました。たかだか徒歩5分くらいの距離。これが3時間もかかっちゃった。

「自分自身を見失う」

韓国の心細い体験から痛感したこと。

とにかく何よりも「いま、自分が、どこにいるのか」を知りたいのですよ、迷子の身としては。「あっちの道がどこに向かう」とか「こっちに行くとあれがある」なんて情報は、次の次。まずは、自分のいる場所。現在地を知らせてほしい。

全世界の様々な都市や施設の管理に携わる誰かさんへ。迷子になってぼうぜんとたたずんでいる私たちの、「ここ、どこ?」の叫びに耳を傾けてくれないか。

最後に、迷子のスペシャリストをご紹介します。小説家の浅生鴨さん。近著のエッセー集「どこでもない場所」でもたっぷりと楽しい迷子体験をつづっておられます。また彼は素性を明らかにしていない謎の人物でもあります。ツイッターで人気だった初代「NHKの中の人」の頃から私は大好きで、最近では小説「伴走者」を読んで感銘を受けました。要するに私はファンなのですよ。

この夏、ちょっとした偶然もあってそんな鴨さんと直接お会いすることができました。その時の鴨さんの第一声が、「おひさしぶりですー」。

んー?見たことのある顔だぞ。と思ったら、あのプサンのロケで影のごとくピッタリと私たちに寄り添っていたNHKの人じゃないか!!!これにはビックリ。

迷子の達人とは、偶然の出会いの達人でもあるのかもしれません。うん。迷子は、ちょっと楽しい。

立川談笑
 1965年、東京都江東区で生まれる。高校時代は柔道で体を鍛え、早大法学部時代は六法全書で知識を蓄える。93年に立川談志に入門。立川談生を名乗る。96年に二ツ目昇進、2003年に談笑に改名、05年に真打ち昇進。近年は談志門下の四天王の一人に数えられる。古典落語をもとにブラックジョークを交えた改作に定評があり、十八番は「居酒屋」を改作した「イラサリマケー」など。

これまでの記事は、立川談笑、らくご「虎の穴」からご覧下さい。

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