7割がパワハラ被害経験 セクハラは3割「相談せず」
昨年、世界的に「#MeToo」運動(セクシュアル・ハラスメント=セクハラや性的暴行の被害体験を告白・共有する運動)が起こり、今年に入ってからは、国内でセクハラやパワー・ハラスメント(パワハラ)などに関する「事件」が相次いでいます。妊婦に対する嫌がらせのマタニティー・ハラスメント(マタハラ)も社会問題となっています。職場において、セクハラ、パワハラ、マタハラ問題はどうなっているのか。日経DUALのアンケートでその深刻な実態が浮かび上がってきました。
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セクハラやパワハラは当事者間だけの問題ではありません。企業などの組織が対処すべき問題であり、第三者の対応により被害や二次被害を食い止めたり、解決につながったりすることもあります。そこで日経DUALでは「職場でのセクハラ・パワハラに関するアンケート」を実施し、被害者本人だけではなく、周囲の人々の対応についても聞きました。
半数以上が仕事関係でセクハラを経験
まずセクハラについての回答を紹介します。「仕事関係の人からセクハラにあったことがありますか」という質問には、「はい」が56%、「いいえ」が44%でした。
「誰からセクハラを受けましたか(複数回答可)」という質問への回答は下記のようになりました。セクハラをした相手に男性が多いのは、回答者に女性が多かったという理由もあると思いますが、全体として(直属の)上司からのセクハラが一番多いことが分かります。
セクハラ被害について誰かに相談したかという質問への回答は、「女性同僚」が36.7%でトップでしたが、「相談しなかった」も31.6%と2番目に多いことが分かりました。
相談相手の反応は、共感してくれたり、アドバイスをくれたりしたケースが多かったようです。
一方、相談しなかった理由としては以下のような声が集まりました。
やめてください、と直接言った。
早く忘れたかったから。
相談したところで解決するとは思えなかった。
お酒の入った時で大げさに言うことでもないと思ったため。
総務ぐるみで女性の評価に差を付ける考えなので相談する先がなかった。自身の社内人脈と職位をあげてから対処するしかないと考えた。
仕事や今後の昇進に差し支えると思い、相談できなかった。
地位の高い人間が守られる社風のため、自分が不利になる。
どこに相談すればいいか分からなかった。
セクハラを相談した結果、ハラスメントがなくなったという回答が20.4%に対し、なくならなかったという回答が42.6%とその数を上回りました。
7割がパワハラ被害を経験
次はパワハラについての質問です。「仕事関係の人からパワハラにあったことがありますか」という質問には、「はい」が70.2%、「いいえ」が29.8%でした。パワハラ被害は回答者の7割が経験していることが分かりました。
「誰からパワハラを受けましたか(複数回答可)」への回答は下記のようになりました。「男性上司」が72.7%と圧倒的でしたが、回答者を女性に絞ってみてみると、「女性上司」から22.2%、「女性同僚」からは18.5%、パワハラを受けた経験があり、同性からのハラスメント経験も多いことがうかがえます。
パワハラ被害の相談先としては、セクハラよりも「夫・妻」が多く、全選択肢のなかで一番でした。セクハラとパワハラで被害を受けた年齢や時期が違うことも背景にあるかもしれませんが、セクハラはその性質から、配偶者になかなか相談しづらいという側面も見えてきます。パワハラを「誰にも相談しなかった」は18.2%で、セクハラ(31.6%)よりは少ない割合でした。
しかし、パワハラの場合は周囲に相談しても、なくなったという数字は8.6%と低く、セクハラのような効果を期待するのは難しいようです。
被害者の声から浮かび上がるセクハラ、パワハラ、マタハラの実態
実際、アンケート回答者は、誰からどのようなセクハラ、マタハラ、パワハラを受けた経験があるのでしょうか。セクハラは「残業などで上司と2人きりになったとき」「飲み会の席や帰宅時のタクシー」などでのキス強要や体を触られるなどの被害、そして性的な言葉を掛けられたり、プライバシーをしつこく聞き出されたりするなどの被害が多いことが分かりました。またマタハラやパワハラも含め、脅迫や不当な解雇など、そもそも法律に違反していると思われる事案も多くありました。下記で実際の声を紹介します。
組織の代表から肉体関係を強要された。
一人で残業時、上司から受けました。ハグされたり、立っている時に突然引っ張られて手の甲にキスされたりした。
既婚者の男性先輩から。人生勉強だと言って深夜3時まで連れ回されたあげく、タクシーで送ると言われ、タクシーの中で手を握り体を触られた。振りほどいて帰ったが、今でも思い出すと虫酸が走る。
取引先担当者から、会食中にスキンシップを求められた。
女性の先輩職員から女性らしくしろと怒られた。男性の支店長におまえは処女だとからかわれた。
帰宅時に送ると言われ、車の中でキスをされた。会議室で打ち合わせの後に残るように言われ、体を触られた。私のパソコンのマウスを操作する際に、私の手の上に自分の手を重ねてきた。
交際を迫られ、拒絶すると一日中、何十回もメールを送ってきて、子どもに危害を加えることを示唆してきた。
新卒で入社し配属された部署で、部長から「彼氏いないの? 大学生のうちに捕まえておかなきゃ。それじゃ結婚できないな~」と言われた。なぜそんなことを決め付けられて言われるのか理解できず、ひどく傷ついたし怒りが込み上げた。それを聞いていた周りの人(当時の室長、グループリーダー)も、またやってるな的な空気で止める気配もなく、ショックだった。
新入社員研修で指導官から、彼氏はいるかとか好きな体位はとかを公然と聞かれた。今だったらありえない。懇親会では女子社員は幹部の横に配置され、お酌をさせられた。コンパニオン扱い。
官能小説のようなメールが送られてきた。
結婚したばかりのとき、朝席で眠そうにしていたら「旦那に可愛がられ過ぎてんじゃないの?」と言われた。
女性上司から、仕事上必要との名目でメールアドレスやLINEアドレスを教えろ、と言われた。女性同僚から聞こえよがしに「早漏っぽい」と言われた。
女性を理由に意見を取り下げられ、評価を下げられ、担当する業務に差をつけられる。子どもを早くつくるように指導され、それに向けて具体的な努力をしているか尋ねられる。共働きの子どもは犯罪を起こすと言われる。正しい母の在り方を指導される。
宴会の席で、常務からお酌を受けた。私が飲んだおちょこを、常務が大げさにベロベロと舌で3周ぐらいなめた。常務は酔っ払っていて、いわゆる宴席でのパフォーマンスのつもりだったらしい。常務は普段まじめなキャラなので、落差に驚いた。
過度な叱責、無視、仲間外れ…陰湿なパワハラ
話しかけても無視される。仕事をふってもらえない。質問をしても「知りません」と言われる。仕事を押し付けられる。
女性の先輩職員から無視されたり、ゴリラ呼ばわりされたり、郵便を配られなかったり、書類をしまおうとしたら引き出しを引き抜かれたりした。
私だけ会議の連絡が来ない。上司からチーム全員の書類処理を1人でやるよう指示され、毎日それで時間を使い切っていたら、アイデアを出さない、やる気が無いと人事へ話していたらしく評価を下げると言われた。
正規職員である男性上司が転勤してきて、私の職務を担当することになった。未経験で内容が分からないにもかかわらず、私より上位であることを誇示するため、情報を教えない、報告しても反応しない、職場のみんなの前で私に詰問するなど、嫌がらせを続けた。非常勤職員であること、女性であることで見下した態度を取るのは他の人から見ても明らかだった。
担当していた仕事を取り上げられ、「仕事をしないやつ」と言いふらしていた。状況を理解していた人は問題なかったが、うのみにしてしまった人からは仕事をお願いするのをちゅうちょされたりした。
自分が提出した仕事を全て否定される。グループメンバーだけの会議の場で大声で叱責。日常生活での無視。仕事中、私以外のメンバーのみを集めて盛り上がろうとする。私が受けた飛び込みの問い合わせ電話を他の人の担当にしてしまう。他部署へ異動後も私からの依頼業務は、絶対に理由をつけて受けない。
男性上司からは、仕事の引き継ぎやアサインが無く、確認をすると「そういう人はいらない」「間違えたら死んで下さい」と人間性の全否定。女性先輩からは、「見てるだけで、イライラする」「何にも知らないんだね」と、すること全てに関してチェックし、にらみつけてくる。もちろん、何が不快なのか聞いても言わない。
仕事を後回しにして休憩ばかりの上司と、それに従う先輩、同僚に対しおかしいと感じていたので、係長に相談すると、その返事すらなく、以後無視されるようになった。挨拶がないのはもちろん、机に私を含めて4人いても『今日は俺たち3人しかいないから』と言う。仕事の全容は係長が掌握していたので、何年経っても誰にでも分かるような業務を延々と続ける毎日。それを上司に相談するが、目の前で起きた出来事であっても知らないフリを徹底し、『仕事が分からないなら、聞いてきてあげる』と、真顔で謎の反応。私からすると、係長よりもそれから目を背けた上司たちの方がパワハラに感じる。
衣服の指摘、ハンドクリームの種類までダメ出し、仕事以外でのダメ出し。
自分のミスを部下である私のミスに仕立てたが、それを後日社長に追及され、上司自身が責められ減給となったとき以降、私がミスをしていなくてもミスをしたかのようなメールを業務上の指導の体裁を取り、送り続けるようになった。
直属の上司から継続的にパワハラを受け続け、ひどく追い詰められた。本人は利己的で直情的な性格で、感情の波がはげしく周りが常に気を使わざるを得ない。基本的に叱責され、社内でどうかつされ、取引先の前で罵倒され、業績評価も低く査定された。八方ふさがりを打開するため、自費で修士の学位を取得して報告したが、同上司がそれを認めずスキルアップ報告書を握りつぶされたので経営陣に自己啓発を報告してもらえなかった。
パワハラは上から下と考えがちであるが、下から上にもある。労働組合を盾に自由にふるまい、業務を妨害したりしている。
けがをして早く帰りたかったが、実績が上がったら帰ればいいと言われた。
子育てしながら土日祝日出勤の仕事をしていたが、バランスがとれなくなり、土日祝日休みの仕事に異動希望を出したら、嫌なら転職してください。あなたのように何の能力もない人にポジションはありません。ただ、求人をかけても土日祝日勤務は人が集まりませんから、やめるなら早く言ってください。と、言われた。
休日に働かされる。休日にしか返事ができないような締め切りの期限を設ける。長時間勤務、休日勤務を美徳としており、できない人を差別する。
休暇届が破棄され、無断欠勤として処理/妊婦の前で平然とタバコ
流産で数日入院し、経過が悪くその後約一週間休んだ。流産なんかたいしたことないのに、休みやがってと上司が周りに言い回っていると聞いて驚愕(きょうがく)した。
体調が悪いため休暇を取得させて欲しい旨を伝えるとその場では了承するが、提出した届け出書は、勝手に破棄され、無断欠勤として処理されてしまい、人事考課にも影響が出た。結果、本社より勤務状況が悪いため、産休は認められないとの通告、退職勧奨。これじゃ、出産後復帰は難しいなと感じ、退職した。
妊娠したことを告げたら、「で、どうするの?」と言われたり、別の人からは「そういう行為をしてるんだね」と言われた。
まだおなかが大きくない時期に、歓迎会に参加したとき、一人だけタバコをガンガン吸う社員がいた。周りの社員に「○△さん(私のこと)妊娠中ですよ」、と言われても、「別に俺の子じゃねーのになんで気を使わないといけないんだ?」と笑って言っていた。
妊活をしていたものの、予定外に早く妊娠がかなって「予定より早かったのですが...」といった旨をポロッと言ったら、「ちゃんと避妊しなきゃダメじゃないか」と言われた。セクハラと言うかマタハラというか・・・・・・。
育休後、職場復帰の相談に行ったら、上司から妊娠中の仕事の不手際を責められ、「もっとライフスタイルにあった職場を探したら?」と言われたり、職場に戻れるかどうかは会議で決める、などと言われた。
子どもがいる人は仕事を頑張らなくていい、子どもが0歳で職場復帰するやつなんかまともじゃない、女で役職つくやつなんて面倒なだけ、などの発言を繰り返し嫌みのように言われた。
子どもの体調不良で出勤できない時、女性社員は休みにされて、男性社員は「収入が減ってしまったら大変だから」と自宅作業のテレワークを認めている。
子どもがいる人間に対し嫌みを言う、私がお迎えで出られない時間に会議をわざと設定する。
妊娠の報告と、産休の後に数カ月育休を取りたいと伝えたら「え? 8週で復帰するんじゃないの? うちは子供3人いるけど僕の奥さんは3回とも8週で復帰したけど」と暗に育休を取るなと言われた。
※マタハラは個別の項目は設けませんでしたが、セクハラ・パワハラのなかからマタハラに該当すると思われるものを紹介しています。
効果的なハラスメント対策とは
「セクハラやパワハラなどのハラスメントの原因、予防、対策、二次被害などについて、考えていることを自由にご記入ください」という設問で、読者の自由な意見を聞きました。
コミュニケーションや理解不足が、ハラスメントの根本原因かと思う。ハラスメントに具体的にどのような事例があるのか、どんなことを不愉快と感じる人がいるか、具体的に話さないとわからない方は非常に多いため、定期的な研修と、内容のアップデートが必要と感じる。
この問題の根底には、色々な要因があるかと思いますが、相互尊重ということが重要なのかと思います。他者を認めるということが、欠けてしまうと全てがバランスを崩す気がします。働き方改革で、様々な働き方が生まれ、選択できるようになってきますし、このことによって、いままでとはまた違ったハラスメントの問題もおこりえるかと思います。
加害者自身がそうされてきた経験があるから、セクハラ、パワハラをすれば自分に罰が下るということを実感させないとなくならない。そんなつもりじゃなかった、合意の上だと思っていた、コミュニケーション不足だった、など都合の良い解釈で終わらされる。きちんと罰を与えるべきだと思う。
同じ社内で、互いを尊重する文化のある部署では厳しい仕事環境でしたがハラスメントはなく、仕事の質が低く負荷があまりない部署でも、互いに尊重する文化のない部署では、ハラスメントの嵐でした。
普段からの教育、グレーゾーンについても周知徹底が重要。
ハラスメントは、する側、される側だけの問題ではありません。性格や相性でもありません。ハラスメントが起こった場合、する側、される側の両方を離し、する側に監視体制を敷くことが二次被害対策となると考えます。
多面的評価をすべき。下→上への評価を匿名ですることによって、多くの意見が集まる。ハラスメントがまん延している会社は、上→下への評価しかない。
ハラスメントをする人は、対象を変えて常に行っている様子だった。人事部門への相談のハードルを下げるとともに、要注意人物へはしっかり、周囲の社員へも目配りしてほしい。
年齢に関すること、家族のことは聞かない、言わない。掲示されているポスターを自分の机の前にも貼っておく。
本人には自覚がないので、これグレーゾーンですよというのがあれば、アウトになる前に本人に伝えた方が良い。
ハラスメントを見ていて止めないのは、ハラスメントするのと同じくらい罪深いということ。それ以来、他人がハラスメントと思しき言動をしていたら「それはダメですよ」など、やんわりとでも間に入るようにしている。
多くの方が指摘しているように、周囲の人がハラスメントを見て見ぬふりをするのではなく、問題行動を指摘し、自覚を促すなど、積極的に介入していくことが大切といえそうです。
(文 日経DUAL編集部)
[日経DUAL 2018年8月16日付記事を再構成]
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
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