綾瀬はるかさん 『ぎぼむす』をヒットさせた求道力
綾瀬はるかさんが主演を務める火曜ドラマ『義母と娘のブルース』(TBS系)が完結、最終回(第10話)は平均視聴率が19.2%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)と、2018年夏の民間放送の連続ドラマで1位となりました。ネット上では省略した番組のタイトルで「ぎぼむすロス」なる言葉も出ています。このドラマがヒットした最大の理由は義母・亜希子役を演じた、綾瀬はるかさんの好演だったように思います。
綾瀬さんの演技力に称賛の声
約10年におよぶ義母と娘のハートフルな触れ合いの物語がクールにそして時に熱く描かれたこのドラマで、綾瀬さんは娘を持つ男性と結婚し、キャリアウーマンの道を捨てて畑違いの家事や育児に奔走する義母役を演じました。難しい役どころだったと思いますが、その演技に対して「キャリアウーマンの立ち居振る舞いと所作が美しい」「綾瀬さんの演技力恐るべし」など、視聴者からは称賛の声が上がりました。
もともと綾瀬さんは美しくて清潔感のある女優さんとして好感度が高く、『日経エンタテインメント!』の「タレントパワーランキング」で総合2位、女優部門では1位となっています。そのイメージに加え、今回のドラマを通して演技力に対する評価も加わり、女優としてさらなるステージアップを遂げたと言えるのかもしれません。
綾瀬さんと言うと、どうしても天然キャラのイメージが強いのですが、実は以前から役者としてプロフェッショナルな求道心で演技に臨む姿勢に対する評価の声が上がっていました。
芝居で手を抜くことはしたくない
2013年に放映されたNHK大河ドラマ『八重の桜』で、綾瀬さんは「幕末のジャンヌ・ダルク」と呼ばれた主人公の山本八重を演じています。ドラマ関連のインタビューで、綾瀬さんは「私にとっての『ならぬこと』は、手を抜くこと。自分が思う限りでは、お芝居で手を抜いたことは今までないですけど、それでも後になってこうしておけば良かったということはあるんです。お仕事に限らず、日々の生活でもそう。辛いと思ってもそこをぐっとこらえて頑張ると自信になったりもするので、手を抜くようなことはしたくない。あとで、ああって思いたくないんです」と語っています。
ドラマでは男まさりの役どころで、その時代ならではの鉄砲の使い方やなぎなたの所作を求められたそうですが、毎日120回の腕立て伏せをするなどの筋トレで乗り切ったことで知られています。いまでもアクションシーンのある出演依頼があった時に備えて、毎日のトレーニングを怠らないそうです。
この何ごとにも手を抜かないという姿勢、まさに『ぎぼむす』の主人公である亜希子に通じるところがあるように思います。亜希子は様々な困難に直面する場面でこの求道心と探求心あふれる姿勢で物事と向き合っていました。
演じていた綾瀬さん自身も、生きている環境は亜希子とは違っていても、同じような求道心で仕事をはじめとする目の前にある物事と向き合ってきたのでしょう。だからこそ、今回の好演なのだと思われてなりません。
人はどうしても自身の長所や魅力に気づくと、その資質に甘えたままで過ごしがちです。
例えば、ビジネスシーンにおいて企画書を作成するのが得意であると自覚した途端に、一日あればなんとかできるとばかりに、さらなる創意工夫を試みることなく予定調和でまとめてしまったり、笑顔がかわいいと称賛されたら、笑顔を振りまけばどの場も乗り切れるとばかりに業務上の作業を雑なままおろそかにしてしまったり……資質に甘えた姿勢で仕事に臨んでいる人の姿を見受ける場面も多いのではないでしょうか?
実際、私自身も評価をいただいた業務において、すでに合格点に到達しているという気のゆるみが生じ、手を抜きたくなってしまうことがあります。
ただ、そうした気のゆるみは、必ずその後にしっぺ返しがあり痛手を被るものです。自分自身の長所を見つけることができたならばそこに甘んじることなく、その利点を生かしつつ真摯に鍛錬を積んでいくことで、ビジネスシーンにおいても一歩突き抜けることができるでしょう。
自分に厳しくても周囲に愛される人柄
さらに、求道的に努力し続ける過程では、これ見よがしに頑張っている感を出さないことも大切です。
綾瀬さんの場合は、素の人柄の良さもあるのでしょうが、撮影現場などで周囲との環境づくりがとても上手のようです。努力家の一面を圧迫感なくさりげなく表現できているのだと思います。
是枝裕和監督は映画ニュースのサイトで綾瀬さんの人柄について次のように語っています。「(『海街diary』の)あの現場はね、綾瀬さんの人柄ですよ。彼女がいかにいろんな人たちから愛されているかというのを、目の当たりにしました。お芝居も素晴らしかったけれど、とにかくみんなが綾瀬さんのことが大好きなんだよね。(中略)風吹ジュンさんが現場にいらした時も、『はるかちゃん!』と言って、撮影していない間はずっと綾瀬さんの手を握っているんですよ。親戚のおばちゃんみたいに(笑)。『この世界でこんなにいい子はいない』と言って、めいっ子を人にすすめる感じでしたね。あんな風に、他の女優さんから思われることってそんなにないんじゃないかなあ」
どの職種や現場においても、同業の同性の実力派の先輩からかわいがられることはとても大切です。なぜなら、同業でしかわからないキャリア構築に加え、同性でしか通じ合えない苦労も理解し合うことができ、大事な場面で味方になってくれる関係性が築きやすいからです。
綾瀬さんは自身のキャリアを築いていく上で必須となる要素を手にし、着実に積み上げているように感じます。
今後、綾瀬さんは2019年の大河ドラマ「いだてん」への出演が決定しています。「いだてん」は、「オリンピックの歴史」を題材に中村勘九郎さんと阿部サダヲさんがW主演を務め、リレー形式で進行する物語。
綾瀬さんは前半の主人公・金栗四三の妻となる春野スヤ役で出演します。軽快なかけあいや巧妙な駆けひきを得意とする宮藤官九郎さんの脚本のもとで、綾瀬さんの新たな求道力がどのように発揮されるのか、プロフェッショナルな仕事人の見本として観察しつつ「クドカン×綾瀬はるか」の世界観を味わいたいと思います。
経済キャスター、ファイナンシャル・プランナー。日本記者クラブ会員。多様性キャリア研究所副所長。TV、ラジオ、各種シンポジウムへの出演の他、雑誌やWeb(ニュースサイト)にてコラムを連載。主な著書に『デフレ脳からインフレ脳へ』(集英社刊)。株式市況番組『東京マーケットワイド』(東京MX・三重TV・ストックボイス)キャスターとしても活動中。
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
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