魚は鏡に映る自分がわかる? 大阪市大が驚きの発見

日経ナショナル ジオグラフィック社

2018/9/29
ナショナルジオグラフィック日本版

ホンソメワケベラ(Labroides dimidiatus)には、鏡で自分の姿を認知する能力があるかもしれない。だとすれば、動物の知能や自己認識について多くの疑問が湧いてくる。写真ではフグのえらを掃除中(PHOTOGRAPH BY CHRIS NEWBERT, MINDEN PICTURES/NATIONAL GEOGRAPHIC CREATIVE)

鏡に映った自分の顔に汚れがついていたら、ほとんど無意識のうちにぬぐい取ろうとするだろう。簡単なことのようだが、これができるのは人間以外にはオランウータンやイルカなど、ごく限られた賢い種だけだ。だが、大阪市立大学の行動生態学者、幸田正典氏らが小さな熱帯魚のホンソメワケベラ(Labroides dimidiatus)も自分の姿を認知できるようだという驚きの結果を報告した。この行動が観察されたのは、魚類では初めてだ。

動物に視覚的な自己認知の能力があるかどうかを調べるために、科学者はこれまでミラーテストを用いてきた。視覚的な自己認知とは、自己の外見を理解する能力のことだ。

ミラーテストとは、研究対象の動物の体にマークをつけて鏡の前に置くと、その動物が自分の体でマークを調べたり、触ろうとしたりするかどうかを観察する実験だ。これに合格すると、その動物は鏡に映ったマークが別の個体ではなく自分の体についているのだと理解していることになる。

地球上で、人間以外にこのミラーテストに合格したのは、知能が極めて高い類人猿やイルカ、ゾウ、そしてカササギだけである。だが最新の研究結果は、自己認識が恒温動物の哺乳類や鳥類だけの特権ではないかもしれないことを示唆している。

研究は2018年8月21日付けで論文投稿サイト「bioRxiv」(バイオアーカイブ)に発表された。まだ初期段階の研究で、ほかの科学者による査読を受けていないが、もしこの結論が認められれば、「自己」を意識する高度に発達した能力は、これまで考えられていたよりもはるかに多くの動物に備わっているということになるかもしれない。

幸田正典氏が率いる研究チームは、最初カワスズメ科のシクリッドでミラーテストを試みた。シクリッドは、既にミラーテストに合格した他の動物に見られる高い知能と共通する特性を持っていると考えられていた。

「なかには、類人猿のように顔見知りの魚を識別する賢いシクリッドもいます。まさに、個体識別能力があるということです」と、幸田氏は説明する。

ところが、ミラーテストでは残念ながら、鏡のなかの自分の姿を認知できなかった。

そこで、氏らはホンソメワケベラで実験してみた。人間の指の長さほどしかない小さな魚で、インド洋と太平洋の温暖で浅い岩礁に広く分布している。自分よりもはるかに大きな魚の角質や粘液、寄生虫を取り除いてくれる掃除屋として知られている。

ホンソメワケベラには、ほかの魚と比べて高い思考力があると考えられている。できるだけたくさんエサを得るために、あの手この手で「お客さん」を満足させつつ、相手をうまく操る。数百もの異なる生物を見分けて、それぞれとの関係を記憶しているかのような行動も見せる。

「腰が抜けるほど驚きました」

幸田氏の研究チームは、野生で捕獲した10匹のホンソメワケベラを、鏡のある水槽に1匹ずつ入れた。ほとんどの個体は、最初鏡に映った自分の姿を見て、口を大きく開けて激しく反応した。自分の縄張りにほかのホンソメワケベラがいると思ったようだ。

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