閑古鳥からほぼ満席へ 横浜スタジアム7年間の大改革
横浜公園の中にあり、3つの最寄り駅からのアクセスはいずれも5分以内。12球団有数の好立地でありながら、横浜スタジアムは7年前まで座席稼働率は50.4%で、閑古鳥が鳴いていた。
2011年、親会社がDeNAになって以降、観客動員数は順調に伸び、17年度は座席稼働率96.2%。ファンクラブの会員は現在は14.4倍になっている。
一体経営で飲食が充実
DeNAが球団を引き継いで最初にしたことは、「来場者データを分析するという基礎的なマーケティング」と、経営・IT戦略部部長の林裕幸氏は説明する。チケット販売チャネルを自社でも持ち、他の購入方法よりもインセンティブを付けて誘導することでデータを蓄積。行動属性などの外部調査も行い、20代後半から30代の男性アクティブサラリーマンをターゲットとした。
具体的な人物像を想像し、提供すべきサービスを考案。スポーツ界のみならず、アパレルや流通など他業界を参考に、彼らに人気のアイテムや体験を分析し、球界の常識にはなかったサービスをどんどん取り入れた。
象徴的なのが、昨今のトレンドのクラフトビールを自ら作ったこと。球団オリジナル醸造のビールは球場内でも売り上げトップで、試合前に球場の外で飲む姿も目立つ。コンコースで行列ができる独自メニューは、横浜中華街の老舗やミシュランの星付きレストランと開発。株式公開買い付けで横浜スタジアムを子会社化し、球団と球場が実質一体経営になったことで、飲食の内容も向上できるようになった。
もう一つ力を注ぐのは、球場に入らない人にも一体感を感じさせる工夫だ。試合前にはグラウンドの扉を開け、公園を行き来する人も練習風景を見られるようにした。試合開催日には公園内に大型ビジョンを設置し、夏はビアガーデンを設営。「野球をこれまで見ていなかった人にも、球場から漏れてくる歓声や光で、盛り上がりを身近に感じてもらえるようにした」(林氏)
イベントは多彩だ。試合中は、ほぼすべてのイニングの合間にイベントが行われるほか、勝った試合の後は花火にムービングライトを織り交ぜたショーを開催。選手、コーチのサインボールの投げ込みなどもある。こうした取り組みは、早く球場に来て最後まで試合を見るファンを増加させる。滞在時間を長くして収入増につなげる狙いだ。
横浜スタジアムの隣には、1階にカフェとグッズショップ、2階にコワーキングスペース、地階にフィットネススタジオなどがある複合施設「THE BAYS」をオープンした。スポーツを核に街のコミュニティーを育て、産業を創出していく「横浜スポーツタウン構想」の中核施設と位置付けている。大人が入りたくなるおしゃれな店構えだ。
球団が着目するのが試合開催日以外の球場の活用だ。9月11~13日は、広島で行われる試合のライブビューイングを横浜スタジアムで開催。新しい球場の生かし方を模索している。
(文 中城邦子、写真 古立康三、佐藤正純)
[日経トレンディ 2018年10月号の記事を再構成]
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