五輪ボランティアは「喜び」か「搾取」か 論客が激突西川千春氏×本間龍氏 対談(上)

五輪が終わった後は、虚脱感から、なかなか社会復帰できません。廃人状態です。でも五輪はよくできていて、冬季も含めると2年おきに開かれます。その後のソチ大会、リオ大会とも、迷わずボランティアに申し込みました。

ボランティアを労働とみるかどうかで考えの違いが鮮明になった(9月17日、東京都世田谷区)

なぜ、そこまでしてやるのか。一つは自分の好きなオリパラに当事者の一人として参加できるからです。その満足感、達成感がモチベーションとなっています。

有償か無償かという議論がありますが、私からみると金銭が目的ではないので、どちらでもあまり関係ありません。10日間以上、活動してくださいというのも同じです。実際にやってみると、長い日数をやることで、将来の友達となる人に出会えます。これがボランティアを続ける理由の一つでもあります。

ただボランティアは大義に賛同し、そこで自分に何ができるかという自己実現が合わさって初めて成り立つと思います。東京大会はその大義について、もろ手を挙げて認められないような土壌があると、すごく感じています。それは組織委の方にがんばってもらわないといけないと思います。

商業イベントの五輪で、なぜ無償

本間 西川さんの楽しそうな話の後で気が引けるのですが、「ブラックボランティアに参加してはならない理由」ということでお話ししたいと思います。

西川さんの話の最後にでてきた、今回の東京五輪に果たして大義があるのかという点が、僕は非常にひっかかっています。東京五輪は様々な問題を引き起こしてきました。まず招致にあたって、IOCの有力者に賄賂が渡っていたのではという疑惑がありました。

それから五輪の予算の際限のない肥大化。最初は7000億円でやれるといっていたのが、今は1兆3500億円。(東京都の予測では)2兆~3兆円に膨らむともいわれています。その多くが税金なのに、みな鈍感になっています。

加えて、酷暑のなかでの開催。誘致の資料には「7月の東京は温暖でアスリートには理想的な気候」なんて書いてあります。そして10万人以上のボランティアのただ働き。組織委がつくった資料には、小学生、中学生、高校生まで参加とあります。

東京五輪は商業イベントですよね。だってスポンサーを50社以上集めています。これまで1業種1社だったのに、垣根をすべて取り払った結果です。大手メディアもそろってスポンサーになっています。それで合計で4200億円以上のお金を集めています。

そんな商業イベントを運営するのに、なぜ無償のボランティアを使うのですか。前回の東京五輪みたいに、まだ国が復興する途中でお金がないなら話は別です。でも、お金あるんです。それなら、ボランティアを有償にしてもいいじゃないですか。11万人に日当1万円、20日間働いてもらっても、わずか220億円で足りるんです。

ボランティアに「無償」という意味はひとつもありません。広辞苑でも、「志願者」とか「奉仕者」と書いてある。それなのに組織委はボランティアはただと思わせようとしています。

東京の夏は暑いです。一生に一度とか、感動を分かち合うとかいって、11万人のボランティアの命を危険にさらす。これは感動を売り物にした詐欺ではないか。詐欺のシステムがあまりに巨大になりすぎて、詐欺だと思えない。まさか国や組織委、コマーシャルに出てくるタレントが自分たちをだますなんて思えないですよね。

組織委は収入総額さえ明かしません。スポンサーからいくらもらっているか聞いても、「守秘義務がありますから」という理由で答えない。酷暑の下で働くボランティアの命と健康についてだれが責任を持つのか、組織名と名前を教えてほしいと頼みましたが、これについても答えません。

東京五輪のボランティアは、こういう無責任な人たちをお手伝いすることになるんです。皆さんの労働は、無責任な人たちにお金を差し上げていることと一緒です。

(文・構成はオリパラ編集長 高橋圭介)

西川千春
1960年生まれ。慶応大法卒。アメリカ国際経営大学院(現在のアリゾナ州立大サンダーバード国際経営大学院)で国際経営学修士(MBA)取得。90年、日本精工の駐在員としてロンドンへ。2005年、経営コンサルタントとして英国で独立。五輪ボランティアとして12年ロンドン、14年ソチ、16年リオの3大会に参加。東京五輪・パラリンピック競技大会組織委員会のボランティア検討委員。著書に「東京オリンピックのボランティアになりたい人が読む本」(イカロス出版)。
本間龍
1962年生まれ、著述家。89年博報堂に入社。2006年に退社するまで、一貫して営業を担当。その経験をもとに、広告が政治や社会に与える影響について著作を発表。最近は憲法改正の国民投票に与える広告の影響力について調べている。五輪ボランティアに関する著書として「ブラックボランティア」(角川新書)がある。

対談はイカロス出版とKADOKAWAの共催により、9月17日に東京都世田谷区の書店「本屋B&B」で開かれました。今回の連載では発言の内容をできる限りそのまま掲載しますが、一部を割愛したり、順序を入れ替えたりすることもあります。次回(「『ボランティア搾取』なぜ反論せぬ 五輪組織委に喝!」)からは2人の意見交換のもようをお伝えします。