東京五輪・パラリンピックのボランティアを巡っては、「一生に一度の感動体験」という前向きな評価がある一方、酷暑のもとでただ働きさせる「搾取」との指摘も根強い。9月17日に東京都内のイベントで、それぞれの論客が対談したもようを3回に分けて紹介する。ロンドン、ソチ、リオという3つの大会でボランティアを経験し東京大会のボランティア検討委員にも就いている西川千春氏と、博報堂出身の評論家で五輪ボランティアのあり方を批判してきた本間龍氏だ。
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司会 対談に入る前に、まず西川さんから五輪ボランティアのいいところを話していただき、その後に本間さんから問題点を指摘していただきます。
参加することに楽しさ、労働と思わず
西川 ボランティアはやってみないと分からないところもあるので、自分のやってきたことのなかでお話しします。
それは自分の人生を変える出来事でした。2005年7月6日、国際オリンピック委員会(IOC)が12年のロンドン大会の開催を決めたのです。私は1990年からロンドンに住んでいます。自分の街でこういう大きなイベントがあるなら、どうしてもそこに参加したいと思いました。
何より私自身、スポーツが好きで、五輪・パラリンピックは楽しそうだというのが最初にありました。ボランティアのことを批判している方は、労働と考えてしまうのかもしれません。私はスポーツを見に行く、参加するという意識からボランティアに応募しました。
大会では選手が試合を終えた後のインタビューの通訳などをしたのですが、そこで歴史的な瞬間に立ち会いました。女子団体の卓球でメダルをとったのです。石川佳純ちゃんも福原愛ちゃんも、監督までみんながんがん泣いていました。
実は私は卓球部の出身で、卓球への思い入れがすごくありました。仕事だったら自分の感情を抑えますが、このときは感情をそのまま出して、一緒に泣きました。通訳としてはあまり出来がよくなかったですが、私にとって非常に大きな出来事でした。
大会が終わった直後の英国選手団の祝勝パレードで、ボランティアは選手のすぐ後ろを一緒に歩きました。選手と同じように、沿道のみんなから応援してもらいました。選手が国のエリートとしての代表であれば、ボランティアは普通の人の代表だと感じることができました。