マネーコラム

カリスマの直言

投資で社会課題を解決 利益と両立してこそ(渋沢健) コモンズ投信会長

2018/10/1

当時私は半年前に独立して投資コンサルティング会社を興していた。出張先の米西海岸シアトルで当日の朝を迎えた。日本には連絡が取れない妻と幼い子どもたちがいる。空を見上げると飛行機が一機も飛んでいない。

私が携わっていた金融市場の仕事は電話一本で、何十億、何百億、ときには何千億円を取引するのが日常であった。しかし、飛行機が飛ばない、人は動けない、物流もとまっている。自分は、これから、どのように自分の家族を養うのであろうか。これからの生活の持続可能性が懸念された。

■将来世代に資金を循環させる仕組み

そんなとき、私はある人物の行動に大いに勇気づけられた。その人とは、私がかつて在籍した米ヘッジファンド、ムーア・キャピタル・マネジメントの創業者、ルイス・ベーコン氏である。1990年代には同ファンドをソロス・ファンド・マネジメントや、タイガー・マネジメントといった大手ヘッジファンドに次ぐ存在に押し上げた人物だ。

テロにより本社の近くにある消防署の隊員数名が亡くなったことから、彼は遺族を支援する基金を設立して寄付を募った。寄付は将来世代のために資金を社会に循環させる仕組みである。社会的課題に直面したときに、自分が何ができるのか主体性を持って考えるのが米国の社会である。こうした考え方に私は大いに感銘を受けた。

こうした良い仕組みを日本でも実現できないかと思い、当時の仕事の米国人パートナーたちに相談した。そして、日本の機関投資家向けに提供していたヘッジファンド運用の成功報酬の10%を日本の社会起業家を支援する寄付プログラムを立ち上げた。好調な運用成績のおかげで数年後には寄付財源はかなりの金額へと膨らんだ。

■信託報酬の1%を社会起業家に寄付

コモンズ社会起業家フォーラムは毎年10月に開催し、今回で第10回を迎える(写真は2016年の第8回フォーラム)

実は残念ながら、そのプログラムはリーマン・ショックで頓挫した。資産を引き揚げるために日本の機関投資家が契約を全て打ち切ったからだ。その後、プログラムは現在のコモンズ投信へと引き継がれた。「コモンズSEEDCap」という名称で、コモンズ30ファンドから信託報酬のおよそ1%を社会起業家への寄付に充てている。社会的課題の解決に向けて頑張っている若手起業家を応援する「コモンズ社会起業家フォーラム」も毎年10月に開催している。第10回を迎える今年は東京都内で10月14日に開く予定だ。

日本の資本主義の父といわれる渋沢栄一が100年ぐらい前、「論語と算盤」という講演集で残した言葉がある。それは「その経営者一人がいかに大富豪になっても、そのために社会の多数が貧困に陥るようなことでは、その幸福は継続されない」――というものだ。「論語と算盤」の名前通り、渋沢栄一が重視したのも倫理と利益の両立だった。

全ての人が幸せになるインクルーシブ(包摂)な経済成長がなければ、持続可能性が問われるという警告である。「今日よりも、よい明日」を築くため、微力ながらも投資活動を続けていきたい。

渋沢健
コモンズ投信会長。1961年生まれ。83年米テキサス大工学部卒。87年カリフォルニア大学ロサンゼルス校MBA経営大学院修了。JPモルガンなどを経て、2001年に独立し、07年コモンズ株式会社(現コモンズ投信)を創業、08年会長就任。著書に「渋沢栄一 100の金言」(日経ビジネス人文庫、2016年)など。

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