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インタビューに答える指揮者の三ツ橋敬子さん

インタビューに答える指揮者の三ツ橋敬子さん

人種、言語、思想、世代――。世界に存在する「壁」は、挙げればキリがない。音楽にそれを越える力がある、といわれても、実感を持ちにくくなっているのが現実かもしれない。欧州の主要なコンクールで上位入賞し、国内外の著名なオーケストラとの共演でも注目される指揮者の三ツ橋敬子氏は、そんな現状に異を唱える。身をもって経験してきた「音楽の力」への信頼が、そのキャリアを支えている。多様な個性を束ねるリーダーシップの原点とは。

東日本大震災の2カ月後、演奏会場の横断幕に涙

2011年5月。三ツ橋氏は、仙台フィルハーモニー管弦楽団とともに新潟市のコンサートホールにいた。東日本大震災発生から約2カ月のこの時期、同市内で予定されていた音楽祭では、海外アーティストの来日キャンセルが相次いでいた。オーケストラも、指揮者もいない――。開催が危ぶまれる中、急遽「ピンチヒッター」で参加が決まったのが仙台フィルと三ツ橋氏だった。

「仙台フィルの楽団員も被災者でした。自宅が損壊した人もいれば、知人を亡くした人もいました」

その日の演目は、ベートーベンの交響曲第7番。演奏を終えて指揮棒を下ろし、振り返って礼をする。割れるような拍手と歓声。顔を上げて見渡した瞬間、目に飛び込んできたのは観客が掲げる大きな横断幕だった。

幕いっぱいに書かれた「がんばれ仙台フィル」の文字。楽団員も三ツ橋氏も、こみあげる涙を抑えきれなくなった。

東北の被災地ではライフラインが寸断され、多くの住民が避難を余儀なくされる追い詰められた状況。震源地から離れた東京や関西でもさまざまなイベントが自粛される雰囲気の中、演奏に臨む楽団員の中にも当然、「観客の心に届くのか」という不安はあった。

「音楽は無力なんかじゃない。人と人をつなぐことができる。そう信じて音楽家を志した。だからこそ、それを目撃し、体感することができたあのときの光景は、一生忘れられません」

音楽には力がある。そう信じた原点は、中学時代にさかのぼる。習いごとの一つとして、ピアノと作曲の音楽教室に通っていた三ツ橋氏。1995年、教室の海外公演でイスラエルを訪問した際、首相官邸で演奏を披露する機会があった。

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