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2020年から見える未来

車いすに乗って「滝行」 障害あっても旅行を存分に

2018/10/4 日本経済新聞 朝刊

バリアフリーツアーで滝行を体験する参加者(石川県中能登町)

障害者も楽しめる旅行「ユニバーサルツーリズム」を広げようとする取り組みが盛んになっている。健常者と同じようにアクティビティーを体験し、旅館でくつろぐ。海外旅行のプランも豊富に用意され、障害者が立案に携わるツアーもある。2020年東京パラリンピックを控え、バリアフリー化が余暇の領域でも進んでいる。

8月27日午前、石川県中能登町にある名勝、不動滝。横浜市の池崎恵さん(41)は、白装束をまとって車いすに乗ったまま滝行をしていた。白装束は負担の大きい着替えをせずに済むように防水で、車いすは両脇に浮きが付いた水場専用。池崎さんは3分ほど滝に打たれ、上がってくると「空気がすがすがしく感じる」と笑みをこぼした。

2004年に足に痛みを伴う神経線維腫症を発症して車いす生活になった池崎さん。旅行をしたくても「周囲に迷惑をかけてしまう」と控えていたという。障害者を対象にした旅行ならば、気兼ねすることはない。「まさか車いすで滝行ができるとは思わなかった」と喜ぶ。

滝行はNPO法人「石川バリアフリーツアーセンター」(金沢市)が企画した旅行プランの一部。旅館の大浴場にはシャワー用の車いす、和室には特別に簡易ベッドを置いてバリアフリー対応にした。坂井さゆり理事長は「健常者と同じように障害者も進んで旅行ができる環境をつくりたかった」と話す。17年には120人が同センターのツアーに参加した。

障害者向けツアーの商品化は海外旅行でも進む。旅行大手エイチ・アイ・エスは聴覚障害者などを対象に手話通訳者が同行するツアーを展開。ペルーのマチュピチュなどの世界遺産を巡ることもできる。

同社ではバリアフリー対応ツアーを年70種類ほど用意するという。同行する健常者も含めておよそ800人が利用する人気ぶりだ。

NPO法人「カムイ大雪バリアフリー研究所」(北海道旭川市)は視覚障害者を対象にしたツアーを計画中だ。19年2月に開催予定の「旭川冬まつり」について、市など主催者側と同法人に所属する障害者らが協議。ソリ滑りなどを視覚障害者も楽しめるよう安全対策を進める。「とにかく障害者も普通に旅行ができると体感してもらいたい」と同法人の只石幸夫会長(65)。

ユニバーサルツーリズムを掲げる旅行プランは続々と登場しているが、課題もある。パラリンピックのアイスホッケー銀メダリストで障害者と健常者の交流事業を手がける上原大祐さん(36)は「まだ個人での旅行となると難しい。多くの宿泊施設や交通機関で障害者目線の配慮が足りない」と指摘する。

パラアイスホッケーの試合のため、車いすで各地を巡ってきた。スロープがあっても急すぎたり、列車の障害者対応座席を健常者も予約できたりと「健常者が考える範囲のバリアフリーが目立つ」と訴える。

多くの国の障害者が訪れる20年の東京パラ。上原さんは「施設や仕組みをつくる段階から障害者を加え考えてほしい」と話した。

◇   ◇   ◇

■観光庁も支援、窓口など整備

観光庁は「ユニバーサルツーリズム促進事業」の関連予算として2019年度の概算要求で2割増となる2200万円を計上した。相談窓口の整備や観光案内所でのツアー情報の提供を進める考え。

18年度はツアーを企画する6事業者を選定してツアー終了後に参加者らにアンケートを実施している。ユニバーサルツーリズム普及に向けた課題などの洗い出しを進めている。

8月には宿泊施設向けにマニュアルも作成。補助犬用トイレの有無や客室のベッドの高さといった高齢者や障害者が求める情報についてまとめ上げ、宿泊施設での活用を促す。

[日本経済新聞朝刊2018年9月15日付]

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