アラサー女子の東京一人暮らし ご近所と猫いれば満足
アラサー女子 素顔のライフストーリー[坂東綾乃さん(仮名)・後編]
ここは東京・門前仲町の駅前にある喫茶店。門前仲町は、富岡八幡宮と深川不動尊の門前町として古くから栄え、富岡八幡宮の祭礼である深川祭は今でも江戸三大祭に数えられるほど盛り上がる。氏子の各町会から50基以上のみこしが出て、沿道からは暑さよけの水が大量にかけられる勇壮な祭りだ。
「私も近所のお祭りで昨年、おみこしデビューをしました。担ぎ手が少ないので喜んでもらえます。私は背が低いので担ぎ棒まで肩が届かなくて、ほとんど役に立っていませんけど……」
人懐こい笑みを浮かべながら話してくれるのは、経営コンサルティング会社に勤務する坂東綾乃さん(仮名、30歳)。北関東出身で、現在は都内の賃貸マンションで猫を飼いながら一人暮らしをしている(前回記事:「年収700万円・30歳女子 リアル店舗で買わない理由」)。
綾乃さんが住んでいるのは門前仲町ではないが東京23区内で、地元の人が熱心に参加する小さな祭りが続いているという。
「20人ぐらいが参加するLINEグループもあって、お祭り前になると盛んにやり取りしています。おかげで寂しくありません。マンション相場が値下がりしたら、近所で中古マンションを買おうかと思っています。そうすればこのまま一人でも生きていけそうです」
ときどき合コンへ、でも収穫ゼロのときは疲れが半端ない
1年間ほど付き合った恋人と2年前に別れて以来、ちゃんと好きになった人はいないと告白する綾乃さん。出会いをあきらめたわけではなく、学生時代の女友達などと一緒にときどき合コンをやっている。
「きのうも新宿で合コンでしたが、あまり楽しくはありませんでした。相手の男性は、30代なのに毎日10時間もスマホゲームをやっているという博士課程の学生さんがいたり、なぜか二子玉川在住を異常にアピールする人もいて……。期待して参加しているだけに、収穫がなかったときの疲れ具合が半端ないです。これからは期待せずに済むゆるい飲み会だけに行こうかと思っています」
愛嬌(あいきょう)のある綾乃さんはモテないわけではない。行きつけの飲み屋では、常連仲間から30代の男性を紹介されたこともある。その場でLINEを交換し、都内にある水族館に遊びに行く約束をした。
しかし、その男性は寝坊して1時間も遅刻してきた。会話も盛り上げようとはしない。人気エリアでのデートなので、カフェはどこも長蛇の列。普段は元気な綾乃さんも「猛烈に家に帰りたくなった」と告白する。
「1を質問しても0.7ぐらいしか返答がこない男性が多すぎます。話を広げてくれないんです。私が広げてもいいのですが、『あまり反応が良くないのは、この部分は触れてほしくないから?』と考えると何も言えなくなってしまいます」
意外と受け身で慎重な姿勢に見えるが、綾乃さんには経験則がある。本当は好きな人に自分からアタックしたいけれどそれで成功したことがない。男性からアプローチしてもらって打ち解けていくほうが自分には合っているというのだ。
ただし、最近は「いいな。告白してほしい」とひそかに思う人すらいない。最後の恋人と別れたのは2年前だ。
「友だちと遊びに行ったクラブで声をかけてくれた1歳年下の人でした。私は面食いではないけれど、そのときは顔で選んじゃいましたね。カッコ良かったです。でも、中身はあまり面白くはありませんでした。特に悪いところはなかったけれど……。彼が留学をすることになって疎遠になり、それっきりです」
そのころは結婚願望も高まっていた。子どもに関しては「授かりものなので、絶対に子どもが欲しいという結婚相手では困る。私が原因で子どもができなかったら申し訳ない」という感覚だった。出産や子育てではなく、「結婚生活」というものを味わってみたかったのだ。
「最近はその気持ちは薄れました。奇跡的にいい人と巡り合えたら結婚したい、ぐらいです。子どもについては姉の子どもたちをかわいがることで満足しています」
周囲の「できる男性」は既婚者ばかり
綾乃さんによれば、コンサルティング会社の同僚や取引先は、男性のほうが結婚が早い。未婚の男性と一緒に働くことはほとんどないと明かす。いわゆる「できる男」が多い環境なのだ。彼らは早ければ学生時代から周囲の女性につかまっていて、30歳を超えるあたりまで独身のまま残っていることはまれだ。同じ理由で、学生時代の男友達もめぼしい人は既に結婚している。
「みんなで集まったときに、『坂東は男を選んでいるんじゃないの?』なんて言われます。(結婚相手なのだから)そりゃ選ぶわ!と言い返しています。『芸能人なら誰が好き?』と聞かれたら答えますけど、『あんなカッコいい人は実際にいないよ』なんていじってきたら許しません。『好きな芸能人を聞かれたから答えただけで、彼と結婚したいなんて言ってません』と口を封じます。こうやって、気心の知れた同級生のバカな質問を全部つぶしていくのはストレス解消になります」
筆者もかつては30歳だったので、同級生に代わって綾乃さんに解説させてほしい。「選んでいるんじゃないの?」という言葉は、「君ぐらいかわいければ引く手あまたのはず。それでもまだ独身なのは、男性を厳選している結果だから仕方ないよね」という意味だ。ほめながら慰めているのだ。芸能人みたいにカッコいい人は実際にはいないよ、という発言には「オレみたいに地味だけど誠実で優しい働き者にも目を向けてほしい」という真意が込められていると思う。分かりにくいだろうか?
綾乃さんが魅力的だからこそ、同級生たちは不器用な質問を繰り出しているのだ。同級生の〇〇くんと会う次の機会には、「〇〇くんみたいにいい男が残っていたら私もすぐに結婚したい。会社の人でいい人がいたら、今度一緒に飲まない?」とお願いしてみよう。3人ぐらいに頼めば1件ぐらいは実現するかもしれない。男2人と女1人の組み合わせで飲むのは意外と楽しいし、あまり女性慣れしていない男性もその構図であれば安心しやすい。会話が弾むかもしれない。
親しい女友達との3大話題は「仕事」「健康」「親の介護」
綾乃さん自身は、どんな男性を「いい人」だと感じているのだろうか。
「これから付き合って、いずれ結婚するのだとしたらサバイバルができる人がいいな。サバイバルスキルがあるという意味ではありません。例えば大地震が起きたとして、『困ったね』と言いながらもなんとか頑張って生きていく精神的な強さがある人です。何かを小手先でごまかすような人は嫌です。仕事でちょっとした穴を見つけたとして、それを見なかったふりをして流してしまうと次のフェーズを担当する人が困るのに、分かっていて何もしない人。うちの会社には少なくありません。そういう人に限って成果が上がると自分の手柄にしたがる。会社では出世するタイプかもしれませんが、結婚相手としては絶対避けたいです」
仕事熱心だけど損もできるし、いざというときに強さを発揮する男性。会話も楽しくて居心地のよさを感じられるパートナー――。これから見つけて結ばれるのは難しいと綾乃さんは感じているようだ。だから、一緒に合コンをしてきた学生時代からの友達との会話からは、恋愛や結婚は抜け落ちつつある。
「3大トピックは、仕事、健康、親の介護です。私は先日、子宮頸(けい)がんの種みたいなものをレーザーで焼く手術を受けました。お医者さんから指摘されていたのに放置しておいたら『子どもが産めなくなるよ』と叱られて……。学生時代の3歳年上の先輩は本当にガンにかかって進行してしまっているみたいです。私たちは独身なので、自分の健康は自分で管理しなくちゃと思っています」
愛情や尊敬の気持ちを抜きにした結婚は考えられない。ご近所付き合いも含めた友だちと猫がいれば寂しくはない。仕事を頑張って出世もしたい。綾乃さんは一人でも楽しく健康的に生きていくための準備を始めている。
(次回は新たなアラサー女子が登場します)
フリーライター。1976年埼玉県生まれ。一橋大学法学部卒業後、ファーストリテイリングに就職。1年後に退職、編集プロダクションを経て2002年よりフリーに。著書に『30代未婚男』(共著/NHK出版)、『バブルの遺言』(廣済堂出版)、『私たち「ユニクロ154番店」で働いていました』(ぱる出版)、『人は死ぬまで結婚できる ~晩婚時代の幸せのつかみ方~』(講談社+α新書)など。読者との交流飲み会「スナック大宮」を、東京・愛知・大阪などで月2回ペースで開催している。公式Webサイト https://omiyatoyo.com
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