10代に人気の「ゲーミングPC」 中古市場も急成長
西田宗千佳のデジタル未来図
沈み続けてきたパソコン市場の中で、唯一大きく伸びているジャンルがある。それが「ゲーミングPC」だ。少し前までは海外だけの流れだったが、いまや日本でも確固たるジャンルを築きつつある。なぜゲーミングPCは伸びているのか? 実は「スマホネーティブ世代」の趣向と大きく関係しているのだ。
パソコンの成長をけん引する「ゲーミングPC」
ゲーミングPCとは、その名の通り「ゲームをするためのパソコン」のことを指す。
ゲームにもいろいろあるが、3Dグラフィックスを多用した今どきのゲームでは、高いCPU性能と、描画を高速化する「GPU」の性能が必要になる。一般的なパソコンにもGPUは搭載されているが、ウェブや動画を見たり、ちょっとした3Dグラフィックスを表示する程度の目的にしか使えない。ゲームの求める描画性能を実現するには、高価で高性能なGPUを搭載する必要がある。
ゲーミングPCに必要な要素はほかにもいろいろある。
高性能なGPUは消費電力が大きく、発熱も大きい。それをゲーム中安定的に動かすには、高度な空調能力も必要になる。メモリーも大量に搭載したいし、ストレージもハードディスクではなく、アクセスが速いSSDが望ましい。
そうして、ゲームに必要な要素を積み上げ、「ゲーマーが求める性能を持つパソコン」を作り上げたのがゲーミングPCである。デスクトップ型だけでなく、ノートパソコンでそうした性能を実現した製品も多い。
ゲーミングPCに代表される「プレミアムパソコン」の出荷の伸びは、パソコン市場回復の原動力になると期待されている。市場調査会社の調査による2018年第2四半期の全世界パソコン出荷台数は、ガートナーでは1.4%、IDCでは2.7%と、わずかではあるがともに増加傾向を示していた。四半期ベースで前年同期を上回るのは2012年第1四半期以来6年ぶりである。そして、その伸びをけん引しているのが「ゲーミングPC」に代表されるプレミアムパソコン、と分析されている。
日本でも、主要量販店・ネットショップの実売集計データを扱う「BCNランキング」にて、GPUやメモリーなど、ゲーミングPC向けの高性能パーツの需要は前年度を数十%上回る数値で伸びている。ヨドバシカメラやビックカメラといった量販店でも、店舗内に「ゲーミングPCコーナー」を設けるのが当たり前になっている。
派手な外観が10代に受け入れられる
ゲーミングPCは、外観も特徴的だ。従来のような素っ気ないデザインのパソコンは高性能であっても人気はなく、LEDによる装飾やキーボードの使い勝手にこだわった、非常にとんがった製品が増えている。デルの「Alienware」やHPの「OMEN」のような大手メーカーのブランドもあれば、「Razer」のように、キーボードやマウスなどのゲーム用デバイスからパソコン本体へと進出する企業もある。自作系パソコンを売るメーカーが、ゲーミングPC向けにパーツを厳選した製品を売る場合もある。
派手な外観は、昔からのパソコンを見慣れた目にちょっと驚きである。だが、こうしたパソコンは若い層、特に10代にかなり人気がある。これは世界的な傾向だ。
海外のゲーミングPCストアは、いつもゲームをプレーする10代でいっぱいだ。日本でも、ゲーミングPCにあこがれる10代は増えている。
eスポーツがゲーミングPCへの「憧れ」を産む
なぜゲーミングPCはヒットしているのだろう?
ゲームといえはもはや中心はスマートフォン向け……という印象の方もいるだろう。PlayStation 4やNintendo Switchのようなゲーム専用機でプレーすれば、ゲーミングPCほどお金もかからない。ゲーミングPCはどんなに安いものでも10万円以上。20万円を超えるものも珍しくない。ゲーム機なら数万円以内で済む。
だが、ゲーミングPCを求める人々、特に「あこがれ」を持つ十代の生理は、そうした機器とは少し違うところにある。
背景には、ゲームを巡る価値が「プレーするだけで終わらない」ところに広がっていることがある。
一番わかりやすいのは「eスポーツ」に絡む部分だろう。eスポーツの本質のひとつは「ゲームをプレーすることだけでなく、プレーの観戦が産業価値を生む」ことにある。ゲームプレーを鍛えたプロが対戦する様子を見たい、と思う人が増えること、そうしたプレーヤーに憧れてゲームをプレーする人が増えるということが産業になり、お金を生むという構造がスポーツと似ているから「eスポーツ」なのだ。
eスポーツにはゲーム専用機も使われるが、メインストリームはゲーミングPCである。高い性能のゲーム機と使いやすいキーボードやマウスを用意するのは、テニスラケットやゴルフクラブを突き詰めることに似ている。快適であることが価値になるわけだ。また、強くて人気のあるプレーヤーがどんな道具を使っているか、彼らをどんな企業がサポートしているかには、スポーツと同じように注目が集まる。
そのため、多くのゲーミングPCメーカーは、eスポーツで活躍するプレーヤーをスポンサードするようになっている。多くは機材の提供を中心としたピンポイントな支援だが、海外には長期的スポンサード例も多い。日本でも、2018年9月4日にデルのALIENWAREが、国内eスポーツチーム「CYCLOPS athlete gaming」へのスポンサードを発表するなど、例が増えている。
こうした活動を通し、eスポーツに興味がある若者は、eスポーツプレーヤーだけでなく、彼らが使う「ゲーミングPC」という存在にも憧れを抱くようになっている。彼らは、生まれたときからケータイとスマホがある「スマホネーティブ世代」。スマホは当たり前の存在であり、すでに特別なものではない。大人世代は、iPhoneやハイエンドスマホに対して「特別なもの」というブランドイメージを(人によって差はあれ)持っている。だが、スマホネーティブ世代にはiPhoneは当たり前の製品で、特別なブランドイメージを持っているわけではない。
だが、ゲーミングPCは、「身近にない」「彼らにとってヒーローといえる人々が使っている」道具は、それだけで特別なものに見える。しかも、日常にはない「お父さんが使ってるパソコンとは違う」ものなのだからなおさらだ。
中古も含め「成長率の高さ」が目立つ
若い層にとってゲーミングPCは高価な製品であり、誰でも買えるわけではない。ゲーミングPCを買っているのは、海外でも日本でも、相応の収入があり、趣味にお金を使う大人が中心であることに違いはない。
中古パソコンの流通などを手がけるマーケットエンタープライズのデータによれば、2017年度のゲーミングPCの中古市場は、前年比130%増という、大幅な成長を示している。一般的なパソコンのリユース市場は前年比30%増であることと比較すると、成長率は極めて高い。
同社の発表によれば、ゲーミングPCは高性能なものを求める人が多いため、買い換えサイクルが短い。中古市場でも比較的新しいものが出回る。中古ゲーミングPCは低価格なので入門者や若年層には手頃で売りやすい。両者の相乗効果によって、ゲーミングPCの中古市場が活性化しているわけである。
「伸びるのはゲーミングPC」という状況は、当面日本でも続くことになるだろう。
フリージャーナリスト。1971年福井県生まれ。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、ネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。
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