ブランド企業の「アンバサダー」って、何する人なの?
ブルガリや資生堂、こぞって有名人を起用
国内外のブランド企業が近年「アンバサダー(大使)」なる役回りに有名人を次々と起用している。8月には伊宝飾品のブルガリが木村拓哉さんの次女でモデルのKoki,(コウキ)さんを選び話題を呼んだ。ブランド価値を消費者に広く伝える広告塔ではあるが、プロモーション戦略に沿い大物俳優がブランドをアピールするような、従来の「アイコン」とは在り方が違う。アンバサダーに期待されるものとは?
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Koki,さんは5月発売のファッション誌でデビューした15歳のモデル。木村拓哉さんと工藤静香さんの娘とあって注目を浴び、インスタグラムのフォロワー数が急上昇、現在125万を超す勢いだ。
ブルガリは近年、若手アンバサダーを次々と起用。英ヘンリー王子とメーガン妃の結婚式で注目を集めた、ダイアナ妃のめいでモデルのレディ・キティ・スペンサーさんもその一人。Koki,さんは9人目で、最も若い。
ブルガリ最高経営責任者(CEO)のジャンクリストフ・ババンさんは「大切な日本市場のアンバサダーを探していた」。かつては広告で、知名度の高い俳優やトップモデルら強烈なキャラクターを、グローバルな「ブランドの顔」として打ち出す手法が一般的だった。それに対しアンバサダーは、国や世代に合わせて、アイコンを細分化して指名するケースが多い。
Koki,さんの起用には「若すぎる」との声も上がったが、結果として今夏のジュエリーの話題はブルガリがさらった。「15歳のデビューは早すぎない。次世代のアイコンになるのを確信している」とババンさん。
アンバサダーの報酬は数千万円規模ともいわれるが「ブランド離れが進む20代に、爆発的な影響を与えられるなら安いもの。ブランドを知ってもらえるだけで大成功」(仏宝飾品)。大学生の娘を持つ50代の会社員女性は「私はバブル期にブルガリに憧れて時計を買ったが、娘は興味なし。でも、キムタクの娘を見たいと検索していた」と話す。
SNSで発信。詳細規定なし
Koki,さんの最近のインスタではブルガリのバッグやジュエリーを身につけた姿がアップされている。若者に影響力を及ぼすSNS(交流サイト)でのアピールはブルガリが大いに期待するところだが、情報発信の綿密なプランは立てていない。
この「役割の緩さ」もアンバサダーの特徴だ。「基本的にはメディアに出る際、商品を身につけてもらうが、その限りではない場合もある」(ブルガリ)。日常のつぶやきで商品を「おすすめ」する自然体の発信が売り物になる。
資生堂は8月、「SHISEIDO」ブランドのメーク商品のグローバルアンバサダーに、平昌冬季五輪フィギュアスケート女子の金メダリスト、ロシアのアリーナ・ザギトワ選手を起用した。ブランドを統括する執行役員の岡部義昭さんは「女性が活躍できる社会を応援したい会社の姿勢と、ザギトワさんの生き方がマッチした」ことを理由に挙げる。世界戦略ブランドゆえ知名度がカギとなるが、秋田犬をペットにする「日本大好き」も重視した。
公式競技では資生堂のメーキャップアーティストが世界各地に赴き、演技やコスチュームに合わせてメークを施す。オフシーズンには商品発表会などに参加してもらうほか、10月にもザギトワさんのSNSコンテンツを開設する。内容の細かな規約は決めない方針。「今の消費者は、メーカーが透けて見えるコメントには共感しない。ありのままの声が一番効果的」(岡部さん)と考えるからだ。
特定層に照準、顔ぶれ多様化
テレビや雑誌の広告効果が薄れるなか、企業は特定層にターゲットを絞ったアンバサダーの起用に力を入れ、顔ぶれは多様化の一途をたどる。3月、パルファン・クリスチャン・ディオールはアジア初のビューティーアンバサダーに、女優でモデルの水原希子さんを起用した。父が米国人、母は日本生まれの韓国人で「私自身が独自のバックグラウンドを持ち、いろんな人が勇気をもらえる」。
米化粧品エスティローダーはグローバルアンバサダーとして、モデルのカーリー・クロスさんや女優ヤン・ミーさんら年齢や人種において多様性に富む10人を起用した。ダイバーシティーの進展を反映する顔ぶれは、社会の変化に敏感にならざるをえないアンバサダーの役回りの象徴だ。
(編集委員 松本和佳)
[日本経済新聞夕刊2018年9月15日付]
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