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東京・石川酒造 土蔵が並ぶ「酒飲みのテーマパーク」

ぶらり日本酒蔵めぐり(4)

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NIKKEI STYLE

東京都福生市。多摩川にほど近い住宅街に白壁の土蔵が立ち並ぶ一角がある。石川酒造の社長、石川彌八郎さんが「酒飲みのテーマパーク」と称する、創業155年の酒蔵だ。樹齢が700年を超える大きなケヤキが酒造りやビール造りに精を出す人々、レストランを訪れる客らを見守り続けている。

「多満自慢」の看板をくぐると、「酒飲みのテーマパーク」が目の前に広がる。正面には酒造りの拠点である本蔵がそびえ、そばには売店「酒世羅」の玄関がある。かつて玉川上水から水を引いた熊川分水のせせらぎを挟んで、樹齢400年の「夫婦欅(けやき)」の根元にコメの神、大黒天と、水の神、弁財天をまつった祠(ほこら)が建つ。

テーマパークを構成するそれぞれが酒造りの心と歴史を表現している。石川酒造の歴史を示す資料が展示されている「雑蔵史料館」、イタリアン・レストラン「福生のビール小屋」、1960年代まで仕込み水に使われていたという手掘りの井戸と、アトラクションは続く。年間延べ10万人が食事や買い物をし、1万人が見学に訪れる。

「見学者の2割くらいが訪日外国人ですね」と石川さんは話す。特に何度も訪日している人が、より日本らしさを感じさせるスポットを求めてやってくるらしい。確かに、敷地内は周囲の景色からは隔絶され、時代を遡った雰囲気を味わえる不思議な空間になっている。本蔵など、土蔵のいくつかは国登録有形文化財として、酒造りや接客に日々活躍している。

7月下旬、全国燗(かん)酒コンテスト2018の審査結果が発表された。251社が838点を出品、4部門で評価を競った。石川酒造は「お値打ち燗酒 ぬる燗部門」で「多満自慢 純米無濾過」が、「プレミアム燗酒部門」で「純米大吟醸 たまの慶」が、それぞれ金賞を受賞した。ちなみに「お値打ち」は720ミリリットル瓶で1100円以下、「ぬる燗」はセ氏45度が基準だ。

「純米無濾過」は原料米に新潟県産コシヒカリを使っている。「コメのうま味と甘みを際立たせる」(石川酒造営業部)ことを狙って仕込んだ。精米歩合は70%(コメの表面から30%を削る)で、酒は山吹色を帯びる。「新酒では酸と甘みを感じさせ荒々しさをみせる」一方で、熟成させて楽しめる性格の酒だという。酵母は香りがよく発酵力が強いとされる「きょうかい701」を使っている。奇をてらっているわけではない。

精米歩合が50%の「たまの慶」は冷やとぬる燗で異なる表情を見せる。「冷やせばりんとした大吟醸らしさを味わえる」のに対して、ぬる燗では風味が丸みを帯び、コメのうま味が広がる。自身も燗酒が好きだという石川さんは「大吟醸でも香りを抑え気味のものは、温めてもおいしく飲めます」と説く。

「たまの慶」を造る過程に、石川酒造の酒造りの特徴が垣間見える。やや細かい話になるが、高級酒造りの最終過程で石川酒造は「瓶(びん)燗火入れ」と呼ばれる殺菌法を採用している。通常は酒を65度に加熱して殺菌、その後急冷して瓶詰めする。瓶燗火入れは低温で瓶詰めしてから瓶ごと加熱して低温殺菌する。

かつては手作業で瓶を湯煎していたが、今はパストライザーと呼ばれる、瓶にお湯のシャワーを浴びせる機械を導入、殺菌工程を自動化している。「瓶詰め前に加熱すると、加熱後、瓶詰めするまでに吟醸香が揮発してしまいます。瓶詰め、打栓してから加熱すれば香りを逃さなくてすみます。この差は意外と大きいんですよ」と石川さん。

原料処理にも神経を使っているそうだ。「自家精米していますが、精米から浸漬(コメを蒸す前に水に浸すこと)にかけて、注意して作業しています。例えば急いで精米するとコメが乾燥しすぎて、浸漬の際に吸水率が上がってしまうなど、時間と手間を惜しまないのが肝要です。温度にも影響を受けますので、気を抜けない日が続きます」

こうした作業を「4、5人でやっています」という。杜氏(製造責任者)も蔵人も社員。少数精鋭で15種ほどの原酒を造る。杜氏の前迫晃一さんは34歳。今冬(平成30酒造年度)が杜氏として3季目となる。前迫さんは東京農業大学で醸造学を学んだが、入学前から、石川酒造でアルバイトとして働いていた。杜氏就任時にすでに10年以上にわたって酒造りを経験していた。

「生え抜きどころか、種からうちで育ったようなものです」と石川さんは笑う。かつては越後杜氏の製造チームを受け入れていたが、徐々に社員との混成チームとなり、約15年前からは製造現場はほぼ社員が占めるようになった。杜氏集団の時代とは異なり、製造計画や商品企画について社長と現場の意思疎通の機会が増えたという。

ところで、「山廃仕込み」という仕込み方法がある。山廃仕込みは、酵母が働きやすくするために雑菌を除く作用のある乳酸菌を、人工的に添加しないやり方で、味わいは酸味が際立ち濃厚で芳醇(ほうじゅん)になる。自然界の乳酸菌を取り込み、時間をかけて酵母を繁殖させるので、造り手は長い間、緊張を強いられる。

「うちは『山廃』が得意なんです。古くから手がけていますから。取引先などの評価も高いし、自分でもできがいいと思っています」と石川さんは胸を張る。今年、前迫さんが杜氏として初めて仕込んだ山廃が発売される。「山廃は二冬寝かしますから。十分熟成をきかせて売り出します」。ただ、「来年出すものの方ができがいいかな」と石川さん。前迫さんも杜氏就任2季目の山廃が自信作なのだそうだ。

石川さんが思い描く理想の酒は「料理を食べながら楽しめる酒」だという。「酒は引き立て役でいいんです」とも。原料処理や殺菌、山廃仕込みへのこだわりからは、自然体で酒造りに取り組む姿勢が伝わってくる。日本酒の味わいのトレンドはこの30年間をみても、淡麗からうま味重視へとシフトしている。しかし石川酒造の酒造りは目先の流行に惑いはしない。

石川彌八郎という名は代々受け継がれてきた名跡で、今年54歳になった現当主は18代目だ。1863年に酒造業を始めたのが13代目当主だから、石川家としては酒造業を営む以前の歴史が長い。約1万3千平方メートルの敷地内に、土蔵に囲まれるようにして当主の居宅がある。その入り口に建つ長屋門は240年以上前に建築された。

江戸期には名主総代として地域社会を束ねる役割を担っていたようだ。多摩川の氾濫対策の責任者を務めた記録もあるという。石川家がある多摩川左岸の旧熊川村は江戸中期まで畑作中心だったが、多摩川の治水工事が進んだ結果、江戸末期に稲作が広がった。酒造創業の背景には、そんな事情もあった。

「多摩川河川敷の荒れ地で稲作ができるようになりました。それがなかったら、あるいは味噌屋をやっていたかもしれませんね」。仕込み水は1960年代まで、手掘りの井戸からくんでいた。今は深さ150メートルの井戸で多摩川の伏流水をくみ上げている。水系をさかのぼると秩父山系に行き着くそうで、水質はミネラルを含む中硬水に分類される。

当初から、地元の消費に応える地酒だった。約1000石(一升瓶10万本、180キロリットル)を造る石川酒造の出荷先の多くは今も地元が占める。石川家は檜原村に山林も持っている。そこで育ったスギのチップを使って企画した商品もある。のどごしにスギの香りが漂う「多満自慢 東京の森」だ。

1998年からは地ビールを生産している。「生産量は180キロリットル。ちょうど日本酒と同じくらいですね」。実は明治の半ばに一度、ビール造りに挑戦したことがある。100年以上を経て、再参入したわけだ。クラフトビールブームを追い風に売り上げは伸びているという。「多摩の恵」は酒蔵の売店を中心に販売、2015年発売の「TOKYO BLUES」は都心などで流通させ、「地元比率は半分以下になりました」。

売店「酒世羅」には石川酒造が造る各商品が並ぶ。毎月、第4週目の週末には感謝デーイベントを催している。9月22~24日はたる酒の量り売りと、吟醸プリンや酒かすメロンパンなどオリジナルスイーツを販売する。10月にはハロウィーンや新酒発売にちなんだ内容を計画している。

 石川酒造はJR・西武線の拝島駅から歩いて15分ほど。経路はわかりやすい。近傍にはゴルフ場があり、レストランは週末、ゴルフ帰りの客でにぎわう。春秋の観光シーズンは予約が必要だろう。史料館が入る「雑蔵」の1階ではそば店を運営していたが、昨年いっぱいで閉店し改修中だ。

(アリシス 長田正)

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