「調味塩」に新顔続々 ハーブやスパイスで味付け絶妙
魅惑のソルトワールド(21)
最近、「シーズニングソルト」が熱い。盛り上がっている。塩にハーブやスパイスをブレンドした複合調味塩のことだ。
英語で書くと「seasoning salt」だ。「seasoning」の意味は「調味料」で、塩や砂糖、香辛料、薬味、ソース類などの味を付ける調味料全般を指す。「seasoning」は「season」に由来し、この語は「味をつける」という動詞としての意味もある。つまり、「味をつけてくれる(調味してくれる)塩」で、食品の品名分類では「調味塩」と表現される。
有名なところでは「クレイジーソルト」がある。米国産の岩塩にガーリックやオニオンなどの香味野菜と複数のハーブをブレンドしたものだ。1960年代に当時60歳だった女性が開発したこのシーズニングソルトはニクソン大統領夫人に認められ、ホワイトハウスに招待されたほどの一大ブームを巻き起こした。
日本に初めて紹介されたのは1980年。当時ハーブティーをメインに取り扱っていた日本緑茶センターが「ハーブつながり」で米企業から紹介を受けて、「クレイジーソルト」は日本に初上陸を果たした。「この1本だけで味が決まる」という使い勝手の良さと味わいが消費者に受け、瞬く間に日本各地に広がった。
一方の国内メーカー。エスビー食品やハウス食品といった大手食品メーカーから、「〇〇〇用」と個別メニュー向けのシーズニングソルトが発売されていたが、なかなか爆発的なヒットにはつながらなかった。
大きく市場が動き始めたのは2008年だ。エスビー食品が「マジックソルト」シリーズを発売し、大々的なプロモーション活動に取り組んだ。そしてハウス食品が2016年に「香りソルト」シリーズでテレビCMなどでアピールすると、2017年にはエスビー食品が「マジックソルト」シリーズでラインアップを拡充。さらに2018年にはキユーピーが「サラダソルト」シリーズを発売するなど、空前の盛り上がりを見せているといっても過言ではない。
シーズニングソルトは米国や日本だけでなく、世界各地で生産され愛用されている。私は国産、海外産含めておよそ200種類を所有している。用途は「汎用」か、〇〇用とメニュー名がついた「専用」に分かれる。もう少し細かく見ると、原料や製法によって3種類に分類できる。まず、シンプルに塩とハーブ、スパイスをブレンドしたもの。2つ目は塩とハーブ、スパイス以外に、砂糖やそのほかのうま味エキスなどをブレンドしたもの。そして3つ目は塩分濃度が高い液体やペーストを結晶化させたもので、徐々に品数が増えている。
詳しく説明しよう。1つ目のシンプルに塩とハーブ、スパイスをブレンドしたものの代表格は日本緑茶センターの「クレイジーソルト」だ。原材料を見ると、「岩塩、ペッパー、オニオン、ガーリック、タイム、セロリー、オレガノ」とある。味が比較的濃いのでうま味調味料が入っていると誤解する人も多いが、味の濃さを感じるのはベースの岩塩がしょっぱさに加えてうま味が感じられることや、ガーリックの香りのためであろう。甘味はオニオン由来だ。
こうしたシンプルな原材料を組み合わせたシーズニングソルトは全国の小規模生産者も製造しており、ご当地色が出て面白い。地域の名産野菜パウダーやハーブ、香辛料をブレンドしたものを始め、かんきつ類の果皮粉末や果汁パウダーを使ったものも多い。高知県ではユズやベルガモット、愛媛県ではミカン、宮崎県ではヘベスをブレンドしたものなどもある。
2つめの塩とハーブ、スパイスに砂糖やうま味エキスなどをブレンドしたものでは、キユーピーの「サラダソルト」がある。原材料は「サラダソルト バジル&オレガノMIX」では「塩顆粒(ドイツ産岩塩、乳頭、でん粉、デキストリン)、食塩、粉末油脂、バジル、乾燥たまねぎ、乾燥パセリ、オレガノ、バジル風味フレーク、ローストオニオン、デキストリン、こしょう、青じそ風味フレーク、ローストガーリック/酸味料、香料、香料抽出物」とある。もちろん分類としては「調味塩」であり「シーズニングソルト」なのだが、どちらかというと、「ドレッシングパウダー」とでもいうのだろうか。ドレッシングを粉末で表現しようとしている印象だ。
ちなみにエスビー食品の「マジックソルト」は「食塩、こしょう、砂糖、ごま、トマトパウダー、パセリ、フライドオニオン、ガーリック、タラゴン、その他香辛料、加工でんぷん」とあり、砂糖が入っているものの、分類としては1つ目のシンプルなものに限りなく近い。
3つ目の塩分濃度が高い液体を煮詰めて結晶化させたもので、「高濃度の液体やペースト」とは何だろう? 代表的なところで言えばしょうゆや梅酢、味噌が挙げられる。和風のだしなども、使用する塩の量を増やせば、塩分濃度の高い液体ができあがる。
このシーズニングソルトは製造方法が前の2つと異なる。前の2種類は素材をブレンドする作り方だが、3つ目は液体またはペーストを何らかの方法で乾燥させて水分を飛ばして結晶化させるのである。
私が最初に出合ったこの種類のものは老舗梅干しメーカーが作った「五代の梅塩」という商品だった。梅干しの副産物としてできる梅酢を乾燥させて結晶化させたこの種類では、まさに梅干しの風味がそのまま残り、「こんなのがあるんだ」と目からウロコの思いがした。その後、熊本の老舗しょうゆメーカーから「醤油からできた塩」が発売された。ただ現在は生産の難しさなどから終売となっている。
2012年には、当時天才こども料理人として人気があった「こごまちゃん」監修で「こごまのだし塩」(幻冬舎)という本も発売された。カツオと昆布の合わせだしなどベーシックなものから、野菜ジュースやコーヒー、ワインなど好みの液体に塩を多量に加え、よく溶かしてから鍋に入れて煮詰めるだけで、様々な味のシーズニングソルトができあがるのだ。実はこれはプロの料理人がよく手がけるやり方で、イタリアンやフレンチの店ではワイン塩を見かけることが多い。この塩に使ったワインと同じワインを飲みながら料理を食べれば、マリアージュもばっちりだ。
このタイプのシーズニングソルトを自分で作る場合の注意点としては「味を濃くしたい場合は、液体1リットルに対して、塩の量を300グラム以下にすること」「野菜ジュースや果汁などの糖分を含むものは焦げやすいので、結晶化が始まったらつきっきりで煎り続けること」「風味や色を残すためにはできる限り低温で加熱すること」の3点だ。これさえ気をつければ、家庭で様々な味のものを作ることができる。
ひとふりで味がしっかり決まり調味が簡単になることはもちろん、ブレンドする原材料によって味の広がりが無限大となるのも、シーズニングソルトの大きな魅力だ。商品数は多いが、簡単においしく食卓を彩る自分の相棒をぜひ見つけてほしい。
(一般社団法人日本ソルトコーディネーター協会代表理事 青山志穂)
<訂正>9月21日5:40に公開した「『調味塩』に新顔続々 ハーブやスパイスで味付け絶妙 」の記事中、「ハウス食品の『マジックソルト』」とあるのは「エスビー食品の『マジックソルト』」の誤りでした。本文は訂正済みです。
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