しかし、「会社を辞めてお笑い養成所に入るときにあれだけ勇気を要したのに、ちょっとやってみてダメだったからと言ってすぐに辞めてしまってはもったいない。少なくとも自分なりに出し切ったと思えるところまではやろう」と思うに至り、始めたのと同じくらい続ける勇気も振り絞り、ネタを作って若手芸人が誰でも出場できるお笑いライブに出たり、ブログを毎日更新したりと自分なりに「芸人を続けている」という状態を維持しました。そして、1年がたった頃、運良く初めてのテレビ出演が決まり、幸いにしてワタナベエンターテインメントに所属することができました。
成長し続ける者だけが生き残れる
ただ、事務所に所属できたからといって安泰ということでは全くありません。完全な歩合制なので収入面でということもそうですが、ワタナベエンターテインメントに所属する若手芸人は定期的に結果を出していかないと事務所に居続けることはできません。またコンビの芸人は解散したら事務所を離れないといけない、などの決まりもあります。とにかく、「成長しないと残れない」という良いプレッシャーが養成所のときから所属したあとにもずっと続いているのです。
「成長し続ける者だけが生き残れる」。このシステムは言うまでもなく、マッキンゼーでも機能していたシステムです。有名な「UP or OUT (昇進するか、さもなくば去れ)」です。「そうか。私はまたこういう世界に来たのか」とお笑い芸人に実際になって、その緊張感にさらされてやっと気づいたのでした。
マッキンゼーのコンサルタントのポジションは、新卒入社1年目のビジネスアナリストからパートナーと呼ばれる経営層まで、6つのポジションに分かれています。そして、それぞれのポジションごとに決められた数年の期間内に昇進要件を満たすことが求められます。「会社に行ったら自分の机が無くなっているんでしょ?」などと質問されることがありますが、いくら外資系の実力主義の会社だからと言って、そのような無慈悲な“肩たたき”は一切ありません。ただ、マッキンゼーの評価システム上、成長を続けて昇進できなければ、これ以上自分はここに居られないということが次第に分かってきます。
マッキンゼーではプロジェクトごとと半年に1回の評価システムで明確に分かるようになっています。実際は英語のしっかりした表現があるのですが、「いいです! 成長すごく速いですよ!」「このペースだと大丈夫です」「成長が追いついていません。今度またこんな具合だとアウトですよ」というように明確な4~5段階別の評価がかえってきます。その評価次第では、もう次のポジションには上がれそうにないから別の道を探そう、ということになります。もちろん、評価に関係なく自分のやりたいことを他に見つけて辞めていく人や、昇進するための評価基準に納得が行かずに出て行く人など、マッキンゼーを卒業するときの理由は人によってさまざまです。