
欧州には中世と変わらぬ姿を残す美しい小さな村々がたくさんある。ローテンブルク、コッツウォルズ地方は、日本でも人気だ。私たちが小さな村に引きつけられるのはなぜか、ナショナル ジオグラフィックに寄稿するトラベルライターが自身の体験からその理由を語る。おすすめの美しい村々を写真でご覧いただこう。
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私が4歳のとき、米国からオランダに家族が引っ越した。移り住んだのは、フリースラント州にあるヒンデローペンという小さな村だった。

村の家は、古い童話に出てくるような、ゆるやかに傾斜した三角屋根だった。ヤネケという近所の女の子は、水路には人魚がいて、牧場にはお腹を空かせたトロールが子どもを狙って隠れていると言った。怖がったふりをして学校まで走った。真っ赤なチューリップの花や草を食む羊たちを見ながら、低地の牧場を駆け抜けた。
小さな村を愛するようになったのは、それが始まりだ。そしてやがて、小さな村を巡る旅をするようになった。ヒンデローペンのような魔法の村を探しつづけた。電気もないような秘密のお気に入りの村の名前を、ほかの旅人たちと交換した。それぞれが、田舎の宿泊地のリストを大切に管理した。大人になってヨーロッパ中を巡るようになると、そのリストは増えつづけ、フォルナルッチ、アピランソス、ファール、ドッツアなど、さまざまな国の美しい情景を集めた詩集のようになっていった。

そのなかでひときわ目を引くのは、ローテンブルク・オプ・デア・タウバーというドイツ、バイエルンの小村だ。この村が中世の舞台装置に似ていることに気づいたのは、私だけではない。19世紀の画家たちから21世紀のインスタグラマーまで、多くの人々がそう考えている。あのウォルト・ディズニーも、この村をピノキオの村のモデルとした。

なぜローテンブルクはそのような村になったのだろう。それは貧しさのせいだ。ルネサンス時代に繁栄していたこの村は、三十年戦争とペストのダブルパンチを受けて衰退していった。それがよく知られている村の成り立ちだ。金のある町は未来に向けて絶えず脱皮して進化していくが、開発や成長の余裕すらない困窮した片田舎は、過去にしがみつくしかない。そしてそれこそが、この村の魅力なのだ。