日経Gooday

以前、大腸がんの記事(「大腸がんのリスク、酒が確実に高める では許容量は?」)でも紹介したが、国立がん研究センターでは、日本人を対象とした、がんと生活習慣との関係を評価している。最新の研究結果を基に、がんのリスク評価を、部位別にホームページで公開している。このリスク評価では、「データ不十分」⇒「可能性あり」⇒「ほぼ確実」⇒「確実」の順に科学的根拠としての信頼性が高くなる。

国立がん研究センターの「科学的根拠に基づくがんリスク評価とがん予防ガイドライン提言に関する研究」の「エビデンスの評価」の一部。(国立がん研究センターのホームページより一部抜粋)

この評価で食道がんの項目を見ると、飲酒のリスクは喫煙と並んで「確実」となっている。そして、熱い飲食物が「ほぼ確実」となっている。まさに、井上さんが話した通りだ。

アルコールや熱い物による「やけど」ががんにつながる

しかし何故、お酒や熱い物を好むと、食道がんに罹患するリスクが高まるのだろう?

「食道がんを誘引する原因は『粘膜のやけど』です。お酒の場合はエタノール(アルコール)によって、粘膜の炎症、つまり“化学的なやけど”が起こっているのです。ウイスキーやウオッカなど高濃度のアルコールをストレートで飲んだ際、喉がチリチリっと焼けるような感じがする。それこそが粘膜の炎症なのです」(井上さん)

「もちろん、一回程度の急性の炎症なら、きちんとリカバリーされ、がんになることはまずありません。しかし、こういった炎症を日々繰り返し、慢性的な炎症になると、細胞組織が再生する過程で遺伝子のコピーミスが起きやすくなり遺伝子が傷つく機会が増え、がんにつながるのです」(井上さん)

「一方、熱い食べ物・飲み物は、高温による粘膜のやけどです。食道が高い頻度で熱い飲み物などにさらされると、慢性的な炎症状態になります。やはりこれががんにつながるのです。湯気が立っている味噌汁、お茶じゃないと飲んだ気がしないという方は注意が必要です」(井上さん)

あの「チリチリ」が粘膜のやけどだったとは。「喉が焼ける~」なんて、キャッキャッと喜んでいる場合ではない。本当に焼けているのだから…(しかもやけど)。

井上さんによると、胃の粘膜に比べ、食道の粘膜を覆う「扁平上皮(へんぺいじょうひ)」は非常に薄く、エタノールや温度によるやけどを繰り返すことで、扁平上皮のがんを引き起こす要因になるという。

毎日2合以上飲む人は、飲まない人より4.6倍もリスクが高い

アルコール度数が高いお酒で、食道にやけどが起こり、それが続くと食道がんのリスクが高まることはよく分かった。では、ビールやワインといった食中酒として選ばれる低~中程度のアルコール度数のお酒をチョイスすればいいのだろうか。

「ビールやワインなどアルコール度数がそこそこのお酒でも、飲み過ぎたらリスクは高くなります。トータルの酒量も問題となるのです。あるビール好きの患者さんに量を聞いてみたら、『一日に10缶くらいですかねえ』という返事がきたこともありました。いくらアルコール度数が低いビールでも大量摂取すれば同じことです」(井上さん)

なるほど。「低アルコールだから、いっぱい飲んでいい」というワケではないのか。国内のコホート研究でも、毎日日本酒換算で2合以上の飲酒習慣がある人は、飲まない人に比べ、食道がんの罹患率リスクが4.6倍高まるという報告も出ている(下のグラフ)。アルコール度数が低いからといって、安心はできないのだ。

国内の多目的コホート研究における飲酒と食道がんリスクの関係。40~69歳男性約4万5000人を対象に追跡調査したもの。飲酒しないを1とした相対リスク。酒量は1日当たりの日本酒換算量(Cancer Letters. 2009;275:240-246.)

顔が赤くなる人は要注意!! アルデヒドの影響がここにも

井上さんによると、アルコールによる食道がんリスクについて最も注意しなくてはならない人がいるという。それが「フラッシャー」、つまり飲むと顔が赤くなるタイプの人である。

「実は、食道がんは、お酒をたくさん飲む人より、フラッシャーの人が発症しやすい傾向があるのです」(井上さん)

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濃い酒注意! 酒量も抑える、休肝日も大事