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誰にも起こる「危険運転」 睡眠不足は飲酒に近い

日経ナショナル ジオグラフィック社

2018/9/25

ナショナルジオグラフィック日本版

写真はイメージ=PIXTA

飲酒運転での傷害事故は、無免許と同じように、危険運転致死傷罪の対象だ。実は、実は睡眠障害が原因の危険運転致死傷罪もある。居眠り運転による事故は全国で起こっており、過失致傷で起訴されるのが普通なのに、なぜなのか? 今回は睡眠と危険運転の関係を説明しよう。

2018年5月、私たち睡眠医療の従事者が「あー、ついに出てしまったか!」と思わず声に出して嘆息してしまうニュースがあった。睡眠障害による居眠り運転で事故を起こした男性(60歳)が、危険運転致傷の容疑で逮捕されたのだ。

容疑者は18年1月に軽ワゴン車を運転中、睡眠障害が原因と思われる居眠りをして男性をはね、全治約6カ月の重傷を負わせた。報道によれば、2014年以降、19件の交通事故(うち7件は人身事故)を起こし、これまでに3度、免許停止処分を受けていたというから相当悪質である。

容疑者は、厳罰のある危険運転致傷罪で起訴された。その理由の解説に加えて、酒を飲んでないのに「酔った状態」に近いほど判断能力が低下したまま運転しているアブナイ人々がたくさんいることも指摘しておきたい。交通事故を減らしたいのであれば、こちらの方もなんとかすべきなのだが……これは後ほど。

■自動車運転処罰法で厳罰化

さて、逮捕容疑となった危険運転致死傷罪はもともと2001年に制定されていたのだが、法施行後も、運転手のてんかん発作のためにクレーン車が暴走して児童6人が死亡する痛ましい事故や、脱法ドラッグによる危険運転など社会を揺るがす出来事が続き、被害者の遺族や国民感情を考慮して厳罰化と適用拡大を求める動きが加速した。

この流れを受けて、2013年に自動車運転処罰法(正式名称「自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律」)が新たに制定された。この法律によって、危険運転によって被害者が死亡したときは最高で20年間の懲役を、ひき逃げなど他の罪と重なると最高で30年の懲役刑を言い渡すことが可能になるなど刑罰が格段に重くなった。

自動車運転処罰法は医療関係者の耳目も集めた。処罰対象となる持病の範囲が広がり、また治療薬が原因で起こった事故も厳罰の対象になったからである。例えば、患者さんが睡眠薬やアレルギー治療薬(抗ヒスタミン薬)など眠気の出る薬を服用し、その眠気が原因で人身事故を起こした場合、運転者は死亡事故で最高懲役15年、負傷事故で最高懲役12年の刑罰が科せられる可能性がある。

そのため、医師はこれらの薬で眠気が出る可能性があること、眠気がある場合には運転を控えることを患者に指導しなくてはならないことになっている。事故が起こった後に、眠気の副作用について「説明した」「聞いてない」などの押し問答になるケースも出てくるかもしれない。

また、思いがけない薬も処罰対象になり得る。例えば、血圧降下剤、鎮咳剤・去痰剤(咳たん止め)、整腸剤、一部のホルモン剤、胃潰瘍薬など多数の治療薬が「自動車運転等危険を伴う作業について指導が必要な薬剤」として挙げられている。

国内には睡眠薬を服用している人だけで500万人以上いる。上に挙げた眠気の出る薬剤を服用している人の総数たるや膨大で、一律に運転を控えてもらうことは、かなり難しいのが実情だろう。自分の担当患者から治療薬による自動車運転処罰法違反の事例が出てこないか精神科医や睡眠専門医はヒヤヒヤしている。一方で、服用しなければ大丈夫かと言えばそうではない。例えば、不眠症状があるとそれ自体が交通事故の危険性を高めることも明らかになっているから話は複雑である。

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