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落語家と収入 その驚くべき仕組みとは

立川吉笑

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NIKKEI STYLE

今回は下世話な話を。

下世話な話の代表格といえば、当然お金の話だろう。落語家という特殊な仕事柄、落語会の打ち上げなどで「どれくらいもうかっているんですか?」と真っ向から聞かれることがたまにある。

当然ながら「月にいくらです」と具体的に答えられるはずもなく、「いやいや~」とやり過ごすばかりだけど、実際、僕も落語家になる前はネットを駆使して落語家の収入について調べ倒したことがある。

「落語家になりたい」と強く思ったのが25歳のとき。実際に弟子入り志願したのは26歳のとき。もともと心配性な性格だということもあり、1年間はひたすら落語や落語界について詳しく調べた。僕がこれから足を踏み入れようとしているのはどんな世界なのか。

落語にはどんな噺(はなし)があるのか、とにかくたくさん聴いて覚えたり、師匠方の名前を覚えたり、下積み期間である前座修業ではどんなことをするのか調べたり、今のうちに準備できることはあるのか考えたり。

アルバイトの経験なし

中でもずっと気になっていたのはお金のことだ。当時フリーターだった僕は、当然まとまった貯金などなかった。実家は京都だから、一人暮らしをするための家賃は毎月かかる。食費だって、光熱費だって。

修行中の期間だからお金がないのは当然として、実際にどれくらいないものなのか。アルバイトはできるのか?できないとしたら生活費はどうすればいいのか。

「面白い落語家になりたい」という夢を実現するためには、まずはちゃんと生活を維持できるかどうか、ということが最初の関門だと思った。

しかしながら、どれだけ調べてもお金についての詳しいデータと出会うことはなかった。ざっくりと「落語家はもうからなくて本当に大変なんですよー」という、『逆マウンティング』というか芸人特有の下に下に入り込もうとする言い回しはいくつか目にしたけど、実際にどれくらい稼いでいる、なんていうことをわざわざ口外するメリットなんかないし、そもそも自分のことを外向けに発信することすら「やぼったい」と考えるくらい粋な人間が多い落語界だから当たり前だ。

「前座生活のありのままのことをブログで発信しなさい」と師匠に指示された僕は、弟子入り志願する前の自分と同じような境遇のまだ見ぬ後輩のために、実際に入門してからの収入について一度詳しく書いたことがある。そのブログはまだ消さずに残っているはずだから、本気で落語家になろうか悩んでいる人がいれば、探してみると何かしらの参考になるはずだ。

さて、落語界のお金の回り方について書いていく。あくまでも「落語界の中の」「江戸落語の」「落語立川流の」「立川吉笑」についてだから、これが全員の落語家に当てはまるわけじゃない、というのは大前提として。

落語の道に入門して最初に驚いたのはその経済の仕組みについてだった。

僕は落語家になってから8年経つけど、これまで一度もアルバイトをしたことがない。ありがたいことに、落語家としての収入だけで何とか生活ができている。これって実は奇跡的なことだと僕は思っている。

 落語家になる前、お笑い芸人になろうとしていた時期がある。その時の僕は素人に毛が生えたようなレベルの芸人だったから当然お笑いの収入で生活することなんて無理だった。それはさておき、たまにライブで一緒になるテレビのネタ番組にもバンバン出始めているクラスの先輩も普通にアルバイトをされていたのだ。当時の僕の印象だと、結構テレビに出始めたとしても、まだ飯は食えないんだぁというものだった。

音楽をやっている友達も演劇をやっている友達も、ライブや公演をすればそれなりにたくさんのお客様を動員しているのに、みんなアルバイトをしていた。20代の頃、仲良くしていたそういう仲間のほとんどは30歳を過ぎたあたりでどんどん辞めていった。結婚をきっかけに就職したり、実家に帰ったり。まだ戦っている何人かの友達はいまだにあの頃のように夜勤バイトを続けている。

そんな中、我々落語家は(僕が知る限り周りの仲間も含めて)、まずアルバイトをしなくとも、何とか生活できている。入門したてで、面白い落語はおろか、下働きすら満足にできない新米前座の身分から、何とか生活できるくらいの稼ぎがある。

もちろん、普通に就職した同年代の稼ぎと比べると全然見劣りするし、米を実家から送ってもらったり、毎日ひたすらもやしいためを食べたり、共同便所のアパートに住んだりと、その生活水準は一般の方から見ると考えられないくらい低いものかもしれないけど、それでも何とかアルバイトはせずに暮らしていくことができる。それは、今、いずれ売れる日を夢見て日夜オーディションを受け続けているお笑い芸人志望の若者からしたら、羨ましいと思われる環境だと思う。

落語界がお笑いや音楽の世界に比べて全体的に生活しやすい理由として、僕は「相互扶助の精神」と「相場の維持」があげられると考えている。

落語家はキャリアに応じての相場を大事にしている。ざっくり書くと「前座は1万円、その上のランクは3万円~5万円、真打クラスになると10万円」という具合だ。

もちろん売れている方はもっと多くもらわれるだろうし、それこそ上限は天井知らずともいえる。また、大事な知り合いからのお願いなどで相場より安い額で仕事を受ける場合もなくはないけど、その場合も「この額で私が仕事を受けたことは内緒にしておいてください」とお願いするようにしている。後々「吉笑さんは1万円で出演してくれたので、あなたも同額でお願いします」と後輩に交渉されることがないようにとの配慮だ。

仕事を譲って「相場を守る」

僕はいま二ツ目という「3万円~5万円」のランクに属している。1席30分の仕事なのか、独演会で90分の仕事なのか。移動に時間がかかる場所なのか、近くの場所なのか。平日なのか土日なのか。などでもちろん上下はするけど、相場を下回る額の依頼は、よほど強い関係性があったり、社会貢献につながる仕事だったり、落語界の発展のためになる仕事でない限りは断ることにしている。

そして「相互扶助の精神」とでもいうのか、そういう仕事は後輩に譲るようにしている。例えば2万円の仕事依頼がきたとき。その日のスケジュールが空いていたら、引き受けたくなるものだ。どうせ休みにするくらいだったら落語を演って2万円もらえるのだったら、経験にもなるし、ちょっとした稼ぎにもなる。それでも僕は断ることにしている。そして、普段は1万円が相場の後輩にこの仕事を譲るようにしている。後輩からしたらいつもの倍の稼ぎになる良い仕事ということになる。

そのときは自分としては2万円を損した気になるけど、なぜそんなことをするかというと「自分も先輩からしてもらっている」からだ。ごくまれに10万円クラスの先輩から6万円くらいの仕事を譲ってもらえることがある。先輩からしたら相場以下の仕事だから受けることができないけど、僕みたいな若手からしたらいつもの倍の仕事ということになる。

こうやって、各自が相場を守りながら、それぞれに仕事を回しあっていく仕組みが落語界には定着している。

資本主義的に考えれば、自分がどれだけ稼げるか躍起になるべきである。ところが落語家はそうじゃなくて、落語界全体にとって良くなる方向を常に考えているところがあるように思う。狭い世界だからこそ連帯意識が高いのかもしれない。

こういう相互扶助的な価値観で業界が回ると、飛び抜けた金持ちは生まれづらくなるだろう。一方で、それぞれに少しずつでもお金が行き渡るから、お金を理由に落語の道を断念せざるを得ない事態というのは随分軽減できるはずだ。

別段ガツンと売れているわけじゃないけど、こうして34歳になった今でも好きなことをやりながら何とか生活できているのは、落語家になる前は想像すらできなかったし、大げさに言えば、もはやあの頃夢見た状況に今生きているのかもしれない。

立川吉笑
 本名、人羅真樹(ひとら・まさき)。1984年6月27日生まれ、京都市出身。180cm76kg。京都教育大学教育学部数学科教育専攻中退。2010年11月、立川談笑に入門。12年04月、二ツ目に昇進。古典落語のほか、軽妙かつ時にはシュールな創作落語を多数手掛ける。立川談笑一門会やユーロライブ(東京・渋谷)での落語会のほか、水道橋博士のメルマ旬報で「立川吉笑の『現在落語論』」を連載する一方、多くのテレビ出演をこなすなど多彩な才能を発揮する。著書に「現在落語論」(毎日新聞出版)

これまでの記事は、立川談笑、らくご「虎の穴」からご覧下さい。

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