日本人のための、日本人による、最上の仕事スーツ
セレクトショップ&百貨店の「高品質オリジナル」(上)
日常使いするうえで、しっかりした見栄えで手頃な価格のスーツを手に入れたいと思うビジネスマンは多い。高品質な一着を改めて検証したところ、ショップオリジナルという結論に達した。
上下2回にわたる徹底検証の第1回。
\ 私たちが徹底検証します /
オリジナルこそプロも恋する最上の仕事スーツなのです
末延 ビジネスパーソンにとってスーツは日常使いする仕事着。きちんとして見えて実用的、それでいて価格的にも手頃なものを探している方は多いはずです。
江利角 確かに、予算も限られているでしょうから、その中で最大のパフォーマンスを発揮してくれる一着を選びたいところでしょう。
末延ならば、日本人のために、日本人が手掛けたスーツという選択肢はアリでしょうね。
長谷川 そう。日本人体型を前提として作られているうえ、自身の体型に合わせた微調整も利きますから。そして何より、日本の気候や労働環境を一番良く理解しているのは、他でもない私たち日本人ですからね。
末延 確かに、仕事シーンにおけるあらゆる事情を考慮したうえで作られた最大公約数な作りが、ショップオリジナルの魅力。同じ有効成分、同じ効き目なのにお手頃な、ジェネリック薬のようなモノではないでしょうか。
江利角 それに加えて今、世界でもニッポンの高品質スーツへの評価が非常に高まっています。
末延 日本はそもそもモノを売るための法的なハードルが高いですよね。厳しい検品基準をクリアしたモノだけが良品とされてきましたから、それが技術の底上げをしている現状があるのだと思います。
長谷川 しかも、日本の作り手はとても探究心が旺盛で、研究熱心。世界中どんな小さな島にも脚を運んで買い付けをしているようで、取材先でよく現地の人との間で日本人バイヤーたちの話題になることがあります。そういった理由で、日本のメンズウェアストアでは高品質で高感度なモノが手に入るのでしょう。サヴィル・ロウに行っても10万円前後の中価格帯スーツがこの品質で揃うことは稀です。東京はまさにバラエティとクオリティの宝庫。
末延 長谷川さんから見て、どのあたりに多様さを感じますか?
長谷川 そうですね。この前合わせが比較的狭いダブル(下)なんかはその好例。スタイルのハイブリッド化が進む今、こんなデザインバランスも興味深いですよね。多様なイメージを手頃な価格で形にできてしまうところも、オリジナルスーツの魅力かもしれません。
江利角 確かに、ボディにも丸みがあってすごくモダンな表情です。
長谷川 現代版の"スタイリッシュダブル"とでもいえる一着です。
末延 江利角さんは、全体を俯瞰して今季のスーツの作りや傾向など、どのようにお感じですか?
江利角 我々を含め、全体的にクラシックな方向に寄せていますね。着丈が短く細身な上着は減っていますし、パンツもプリーツ入りの股上深めで腰回りに余裕のあるシルエットのモノが増えています。
末延 お店ごとの作りや方向性の違いなどは、どんな所を見れば?
江利角 例えば、シップスとビームスは、同じリングヂャケット製ですが、身頃の長さを前後で調整し、シップスらしい米国トラッドに、ビームスはイタリア的な見栄えにと、お店のカラーに合わせて、スタイルを演出しているようです。さらに、ユナイテッドアローズのオリジナルスーツは、店舗によってそのエリアのオケージョンに合わせ生地を変えていると聞きました。
長谷川 消費者目線の細やかな気配り。目に見えぬこだわりの数々が。
江利角 店頭で試着してもらえば、実体験としてその豊かさが間違いなく伝わってくるはずです。
末延 そうですね。実際に袖を通してみないと分からない魅力がたくさん詰まっています。ショップのオリジナルスーツこそ、いわば"日本クオリティの玉手箱"いえる秀作揃いですね。
[ 高品質スーツ #1 ] SHIPS
"シップス"が目指すのは「モダンな英国」
今季は、英国の伝統柄の生地を使いながら都会的な印象で着用できるスーツ作りを目指す。縫製は国内随一のスーツファクトリー、リングヂャケット。薄い肩パッドによるコンパクトな肩回りが、英国的な男らしさの中にも、軽さを感じさせている。ラッシャーミルズの生地は、ネイビーの濃淡で表現されたシャドウチェックが新鮮だ。7万4000円(シップス 銀座店)
〈 検証 〉シルエットはシャープな印象ですが肩はしっかり作ってありますね(長谷川さん)
「着丈が長く、縦のラインが強調されているので、構築的な作りのわりにシャープな印象です。裄綿を袖付けに入れることで、袖山にボリュームや柔らかさが生まれて、袖山の表情が整って見えるからなのでしょうね」
[ 高品質スーツ #2 ] TAKASHIMAYA
"タカシマヤ"が目指すのは「世界で通用する美」
国内外で活躍する30~40代のビジネスマンに向けたスーツを目指し、ファッションディレクター、干場義雅氏が監修する。肩パッドを排した柔らかなドロップトショルダーで、AMFステッチや台場仕立ても標準装備。シングルなら4万9000円~オーダー可能。5万6000円~〈オーダー価格〉(新宿高島屋 タカシマヤ スタイルオーダー サロン)
〈 検証 〉ボタン間隔が狭いので、シングル感覚で取り入れられるでしょう(江利角さん)
「ボディや肩回りにも丸みがある、いわゆる日本の伝統的工場生産スーツの表情ですが、デザインバランスが非常にモダンなのは、ディレクター干場氏によるものでしょう。打ち合わせの狭いダブルは、シングル感覚で羽織れそうなので、ダブル初心者にもぴったりです」
[ 高品質スーツ #3 ] UNITED ARROWS
"ユナイテッドアローズ"が目指すのは「振れ幅広い実用性」
手触り滑らかな光沢生地を多く採用することで、仕事からカジュアル寄りなフォーマルシーンにも馴染むスーツを目指した。一枚襟により重心を首の中心に据えることで軽い着心地とフィット感を実現。肩回りや袖付けに十分に入れたイセにより肩の可動域も広くなっている。7万2000円(ユナイテッドアローズ 六本木ヒルズ店)
〈 検証 〉アームホールがコンパクトだから肩の上げ下げがスムーズで快適(末延)
「しっかりした肩の作りが、余裕と落ち着きのある大人の雰囲気です。それでいて、着てみると肩がとても動かしやすいのは、小さめのアームホールとイセ込みをたっぷり取ったお陰でしょう。着用する人を選ばない、どんなビジネスシーンにも馴染みやすい仕上がりですね」
[ 高品質スーツ #4 ] EDIFICE
"エディフィス"が目指すのは「若さと色気」
35歳前後の若手ビジネスマンをターゲットに、上品さと渋さを重視。クラシックをベースにしつつ、時代感に合わせた短めの着丈、細シルエット、細ラペル、ハイゴージの採用で、モダンさを演出している。光沢の強い生地を使ったことで、シャープな見栄えをも叶えてくれる。7万6000円(エディフィス 丸の内)
〈 検証 〉胸回りが狭めで非常にコンパクト。シルエットも強調されています(江利角さん)
「肩の傾斜がなだらかで、前身頃を狭く設定することでシャープなフォルムを表現した作りです。がっちり体型で胸板がしっかりした方よりも、細身の方向けでしょうね。モダンかつ若々しさを意識した作りは、♯6のイセタンのスーツと方向性が似ています」
※表示価格は税抜きです。
撮影/野口貴司(San Drago)〈人物〉、若林武志、西山 航〈静物〉、長尾真志、椙本裕子〈取材〉 スタイリング/武内雅英、宮崎 司(CODE) ヘアメイク/松本 順(辻事務所) イラスト/千野工一 構成・文/伊澤一臣、小曽根広光 文/吉田 巌(十万馬力)、秦 大輔、竹石安宏(シティライツ)、礒村真介、安岡将文〈P94-99〉撮影協力/バックグラウンズファクトリー
[MEN'S EX 2018年10月号の記事を再構成]
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
※ NIKKEI STYLE は2023年にリニューアルしました。これまでに公開したコンテンツのほとんどは日経電子版などで引き続きご覧いただけます。