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「ブラジルは自身の一部を失った」 博物館火災の衝撃

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ナショナルジオグラフィック日本版

2018年9月2日夜、リオデジャネイロのブラジル国立博物館で起きた火災により、ブラジルの重要な科学的、文化的遺産が焼失した。

1818年に設立されたこの博物館は、ブラジル最古の科学機関で南米でも最大級の施設。科学的、文化的に貴重な2000万点の品が収蔵されていたが、当局によると、その90%以上が焼失したとみられる。死者は報告されていない。

収蔵品には、南米最古の人類化石とされる1万1500年前の頭蓋骨「ルチア」や、ブラジル固有の恐竜マシャカリサウルスの骨格などが含まれている。19世紀のブラジルの皇帝たちがオークションを好んだことから、南米でもっとも古いエジプトのミイラや工芸品などのコレクションも収蔵されていた。

建物自体も、歴史的に重要な意味を持っていた。もともとは、ナポレオンから逃れるために1807年にリオデジャネイロに渡ってきたポルトガル王家が、1808年から1821年にかけて暮らしていた邸宅だった。ブラジルの独立後、1889年まで皇帝の宮殿として使われ、1902年に収蔵品が運び込まれて博物館となった。

9月3日のインタビューで、ブラジルのエスピリト・サント連邦大学の古生物学者タイッサ・ロドリゲス氏は、金属製の化石保管棚の一部は被害を免れているかもしれないが、化石が無事かどうかはわからないと話している。リオグランデ連邦大学の生物学者デュアン・フォンセカ氏は、技術者が4万点以上の軟体動物の標本を救い出したことをTwitterで報告している。

しかし、化石、エジプトのコレクション、無脊椎動物の標本など、博物館の本館に収められていた多くの品々は焼失したものとみられる。魚、爬虫類、植物の標本や蔵書は別の建物に収められているため、難を逃れたようだ。

「ニュースでこの悲劇を知って涙がこぼれました。同僚やブラジルの考古学者仲間も、みな同じでした。これは全世界にとっての損害です」。サンパウロ大学の博士課程に在籍するブラジル人考古学者マリア・エステル・フランクリン・マイア・シルバ氏はそう述べている。

取り返しのつかない損失

出火の原因はまだわかっていないが、火が出たのは博物館が閉館したあとだった。今のところ、けが人は報告されていない。消防士は夜通し消火にあたったが、この火災はたくさんの科学者たちの仕事に大きな影響を与えることになる。

「失われた収蔵品の重要性は、どれほど大げさに言っても足りません」と、博物館で収蔵品を調査したこともあるブラジル人魚類学者ルイス・ロチャ氏は話す。「とても貴重な品々です。替えることができないものが多く、金銭的な価値をつけることはできません」

ブラジル人昆虫学者マーカス・グイドッティ氏は、「かなり途方に暮れています」と嘆く。同氏は世界に2000種以上が生息するグンバイムシという昆虫を研究している。ブラジル国立博物館には、世界最大級のグンバイムシのコレクションがあったが、今回の火災で、その他500万点の節足動物の標本とともに焼失した可能性が高い。「これらの標本は、生物を理解するうえで欠かせない、替えのきかないものです」

ブラジル先住民についての知識も被害を受けた。彼らの道具や、ブラジル全土から集めた先住民の言語を録音したコレクションは世界的に有名だった。焼失した記録には、すでに話されていない言語も含まれている。

オランダのライデン大学で南米先住民の道具について研究しているブラジル人人類学者マリアナ・フランソゾ氏は、「あまりのことで、言葉を失っています」と言う。「もう私たちの祖先が何をしていたのかを理解できなくなってしまったのです。とてもつらい気分です」

予算削減で補修が行えず

世界的に見れば、近年、自然史博物館が焼失したのはこれが初めてではない。2016年4月には、ニューデリーのインド国立自然史博物館が焼失している。ブラジル国内でも2010年に、サンパウロの主要な生物医学研究所であるブタンタン研究所で火災が起き、世界有数の規模を誇る毒を持つ動物の標本が焼失した。これにより、100年以上かけて収集された50万点以上のヘビ、クモ、サソリのコレクションが失われた。

前述の古生物学者ロドリゲス氏は、「これはブラジルだけの問題ではありません」と言う。「世界中のコレクションが危険にさらされています。きちんと管理しなければ、このようなことは何度でも繰り返し起こります」

ブラジルのミシェル・テメル大統領は、Twitterへの投稿で国立博物館の損害は「ブラジルにとって計り知れない」とし、「すべてのブラジル人にとって悲しい1日」だと嘆いた。しかし、この悲劇は防ぐことができたという批判が高まっており、ブラジル政府はそれに直面している。

国立博物館は、2014年以来12万8000ドルの維持費予算の全額を受け取ることはできておらず、2018年に受け取ったのはわずか1万3000ドルだった。2015年には、清掃員や警備員の給与を払えなくなり、一時的に休館に追いこまれたこともある。ザトウクジラとマシャカリサウルスの骨が展示されている人気のホールは、シロアリによる被害を受けていたため、博物館の学芸員たちがクラウドファンディングを行って修復工事の費用を工面した。

博物館設立200周年を間近に控えた2018年5月には、補修工事が行えないことにより、30の展示のうち10が閉鎖された。このとき、ブラジルの新聞「Folha de S.Paulo」は、博物館の壁は剥がれ、配線がむき出しになっていたと伝えている。また、博物館の近くにあった2つの消火栓は空だったようで、消防士は給水車や博物館があるキンタ・ダ・ボア・ビスタという公園の池の水を使わざるをえなかったとされている。

ブラジルは自らの一部を失った

ブラジル政府は、すでに国立博物館の再建についての調査を始めることを確約している。「Folha de S.Paulo」紙も、セルジオ・サー・レイタン文化相が他の博物館の防火システムの査察を求めたと報じている。

しかし、研究者たちは、建物を修繕するだけではブラジルの科学界にぽっかりと開いた穴を埋めることにはならないと指摘する。ましてや、国は研究費の削減を続けている。2017年3月、テメル大統領は科学分野の予算を44%削減し、10億ドルとした。これは2005年以降で最低の水準だ。それだけでなく、2017年後半には、さらに16%削減することを提案した。

「ブラジルでは、一般的に科学は投資対象と見なされていないのです」とロチャ氏は言う。「ブラジルの首脳陣の目が開き、再建だけでなく投資する価値があるものだと理解してくれることを期待しています」

フランソゾ氏はこう述べる。「そもそも、本当に博物館再建の費用を出してくれるのかという不信があります。その次に感じるのは怒りです。何年も前から、政府は博物館が資金を必要としていることを知っていたのです。灰になってしまった200年前からのコレクションを、どうやって『再建』するというのでしょう?」

その間も、地元の学生たちは復旧作業を始めている。博物館は、電子メールで次のように述べている。「このような悲劇を受けて、UNIRIO(リオデジャネイロ州連邦大学)の博物館学課程の学生たちは、国立博物館の記憶を残すための活動を始めています。コレクションや展示スペースの画像(写真や動画、自撮り写真でもOK)を持っている方は、ぜひ共有していただきたいと思っています」

米フロリダ大学の生態学者エミリオ・ブルーナ氏はよくブラジルに行き、生息地分断化の研究を行っている。「あの建物には、ブラジルという信じられないほど豊かで活気あふれる国の根源がありました。そこを歩くことで、この国にしかいなかった恐竜の化石を見て、誇りを感じることができました」

ブルーナ氏は続ける。「博物館は生きものです。私たちが何者であるか、どこからやってきたのか、そして私たちのまわりにある世界はどんなものかを教えてくれます。まさに呼吸する貯蔵庫なのです。引き出しにピンで留められた虫や、びんに入った魚、陳列ケースの中の鳥などは、人間として、そして大いなる世界の一部としての私たちを表しているのです」

「そういった標本が失われるということは、自らの一部を失ったということなのです」

(文 MICHAEL GRESHKO、訳 鈴木和博、日経ナショナル ジオグラフィック社)

[ナショナル ジオグラフィック ニュース 2018年9月5日付]

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