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キャットスーツ・チュチュ… 装いでも戦うセリーナ 服飾史家 中野香織

2018/9/18 日本経済新聞 夕刊

全仏オープンでキャットスーツを着てプレーするセリーナ選手(5月29日、パリ)=ロイター

 5、6月のテニス全仏オープンにおいて、セリーナ・ウィリアムズ選手の黒いキャットスーツが議論を巻き起こした。フランステニス連盟のベルナール・ジウディセリ会長が、「選手は試合と場所に敬意を払わなければいけない」と発言、来年以降は体に密着したキャットスーツを禁じるドレスコードを発表したのである。

全米オープンでは一転、バレエ衣装のチュチュのようなウエアを選んだ(8月29日、ニューヨーク)=AP

 ウィリアムズ選手は昨年、第1子出産の際に血栓ができて命の危険に陥り、キャットスーツも血栓予防で着用していた。多くの観客の目にはブラックパンサーのようなスーパーヒーローのスタイルに見えたはずだが、古い家父長的な視点から見ると「度を越している」らしかった。

 その後の全米オープンでは、アリーゼ・コルネ選手が、シャツを前後逆に着ていたと気づき、ベンチで脱いで着直した。この行為に対し、主審は規則違反として警告を与えた。上半身裸でベンチで休憩している男性選手はおとがめなしなのに。これは性差別だとしてペナルティーは科されなかった。

 女性選手は「女らしく」装い振る舞え、という旧時代の家父長的なコントロールはバドミントンにおいてもみられた。2011年に世界バドミントン連盟が、女性選手は「魅力的に見せるため」スカートかワンピースを着用と定めたことがあった。これは世界中から反発された。

 ビジネスにおいても、女性は男性社会の視点から好ましく見えなくてはいけないが、あまりにセクシーでも嫌われる。政治の世界でも、女性らしさは決して失ってはならないが、色気がありすぎると信用されないという。女性は男性を不快にさせず脅威も与えない、ほどよい中間にある「女らしさ」を求められ続けたのだ。

 ウィリアムズ選手は全米オープンでは一転、バレエの衣装であるチュチュを着て戦い、決勝まで勝ち進んだ。スーパーヒーローであろうと超フェミニンなバレリーナスタイルであろうと、圧倒的な強さを見せつけた。「ほどよい中間」などに気をとられていては能力の解放などあるはずもない。女性たちが熱狂のうちに「度を越した」向こうに、本物の「女性の活躍」の時代が待っている。

中野香織
 株式会社Kaori Nakano代表取締役。服飾史家として研究・執筆・講演活動にあたるほか、企業の顧問教授を務める。東京大大学院修了。ケンブリッジ大客員研究員、明治大特任教授を歴任。著書「紳士の名品50」「モードとエロスと資本」ほか多数。公式HP www.kaori-nakano.com

[日本経済新聞夕刊2018年9月8日付を再構成]

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