特にそれなりの役職ポストで迎え入れる場合、経営層の仲間入りをするだけに、見識や能力を一段と厳しく問われる。「別の会社での実績アピールよりも、新天地での業績アップの可能性を打ち出したい」(伊藤氏)

勝負プレゼン、分厚い資料は最悪

プレゼン能力は、日ごろの仕事の成否をも左右する。伊藤氏は大きなプロジェクトを提案する「勝負プレゼン」への助言を求められることが少なくないが、しばしば気になるのは「詰め込みすぎ」だという。熱意のあまり、資料を丁寧に作り込んだ結果、できあがるのが読むのもつらいような分厚い資料だ。

資料が多いと、参加者はスピーカーの目を見なくなり、全員がうつむき加減で時間が流れる。こうなってしまうと、提案者の熱意は伝わらず、結果的に「説明会」レベルの共感しか得られない。「スピーカーと参加者が互いに目を見て話すには、資料から目を離してもらう必要がある。作り込みすぎた資料はかえってプレゼンの成功を妨げる」(伊藤氏)

むしろ、簡潔すぎるぐらいのシンプルな資料のほうが、提案者の肉声を引き立ててくれる。プレゼンで同意や決定を引き出すのは、提案者の言葉への共感や支持であり、資料の厚さではない。「ゴールを事前にしっかり見定めておけば、ポーズのような資料づくりにエネルギーを割かずに済む」(伊藤氏)。ただ、上の世代には成果を「努力量」で推し量る傾向があり、薄い資料は「手抜き」と誤解される心配が残る。プレゼンの席では概要版を配って、別途、詳細版を届けるといった折り合いの付け方もあるだろう。

プレゼンの魅力を高めるには、「いくらか常識やセオリーを超えていきたい」と、伊藤氏は約束事から半歩踏み出すアレンジを提案する。「ポイントは3つあります」といった、聞き慣れた束ね方はそれ自体に陳腐なイメージがあるせいで、その先に示される内容が斬新であっても、全体を古くさく感じさせてしまう。つまり、プレゼン形式の悪さが提案内容までだめにしてしまいかねないのだ。時系列で流れを整理する手順や、課題を示して解決策に導くような手法も古典的であるがゆえに、平板にみえがちだ。

キャッチフレーズを考え抜く

伊藤氏がすすめる、チャーミングなプレゼンは「ストーリー重視型」の構成だ。結論に向かって、物語を編むような構成を指す。エピソードや実例、私的体験などを織り込んで、共感や納得を引き出しやすい流れを演出すれば、スピーカーの存在が生きて、単調な「見取り図提示型」や「グラフが主役型」のプレゼンとの違いを際立たせることができる。プロジェクト内容だけではなく、提案者自身の評価も高まるのが、この形式のよさだ。

キーワードやキャッチフレーズを印象づけるのも、理解を助ける。「たくさんの情報が示されると、かえって聞き手は情報の整理に困ってしまう。象徴的なキーワードを用意して、提案内容をイメージしやすくするのは、賛同を引き出すうえでメリットが大きい」(伊藤氏)。効果的なワーディングには普段からの訓練が欠かせない。今、取り組んでいる事業の広告コピーを考えるつもりで、端的な表現を日ごろから心がけておくのは、プレゼン本番でとっさに切れ味の鋭い言葉を繰り出す下地になってくれるという。自分自身のイメージも言葉にしておけば、昇進や転職の際に役立つ。

「プレゼンは宣伝や企画といった一部の特殊な職種だけの業務」というのは、間違った思い込みだと、伊藤氏は言う。近ごろは社外の企業や個人と組んで事業を進めるケースが珍しくない。きちんと事業内容や趣旨を説明できないと、プロジェクト自体が危うくなりかねない。自分が属するチームを成功に導くうえでもリーダーにふさわしい説明能力が求められる。

誰もが年功序列でポストを用意してもらえる時代ではなくなった今、「限られた出世のチャンスをつかむうえで、自分の価値を正しくアピールできる能力は、自分のキャリアを左右する」(伊藤氏)。家族や仲間と気持ちを共有するのにも役立つ「伝え方」は出世や転職にとどまらない「人生の基本スキル」ともいえそうだ。

伊藤誠一郎
 プレゼンテーション講師。ナレッジステーション代表取締役。企業での研修や商工会議所でのセミナーや講演のかたわら、プレゼンテーション個別指導塾を運営。昇進試験や企画発表を控えた会社員を中心に、転職希望者、受験生などの指導、コンサルティングに当たる。

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