投資初心者から上級者までの老若男女が訪れ、盛況だったイベント(8月25日、東京・六本木)日本最大級のお金のイベント「ライフ&マネーFesta 2018」(日経BP社主催)が8月25日、東京・六本木で開催された。投資初心者から上級者までの老若男女という幅広い層が対象で、「人生100年時代に必要なお金の知識が1日で学べる」とあって一部の講演では立ち見が出るほどの盛況だった。どんな内容だったのか、数多い講演メニューの中から6本をリポートする。
■「本気で遊べば仕事が広がる」コシノジュンコさん
コシノジュンコさんは仕事と人生を楽しむ秘訣を語ったまずはファッションデザイナー、コシノジュンコさんの基調講演。1960年代からのファッションシーンや手掛けたショーを映像や写真で振り返りながら、仕事と人生を楽しむ秘訣について語ってくれた。
コシノさんが東京・青山に初めてブティックを構えたのは66年。人気絶頂だったタイガースの沢田研二さんの衣装を手掛ける様子を撮影した写真を投影しながら、「音楽とファッションが一体化した時代のど真ん中にいた」と振り返った。
また、ミュージシャンのムッシュかまやつさん、作詞家のZUZUこと安井かずみさんらと連日ディスコで交流した当時を振り返り、「昔は人が集まるところに文化があった。おしゃれをして出かけると、すごくかっこいい人と出会える。それが後の仕事につながった」とコメント。「本気で遊ぶこと」によって仕事が広がってきたと話した。
ほかにもアサヒビールの名物経営者だった樋口広太郎さんとの親交から学んだ彼の決断の速さ、歌舞伎役者の四代目中村雀右衛門さんの意外なちゃめっ気と「おもてなしの精神」などのエピソードも披露された。コシノさんによれば、おもてなしには「思ってもみなかったことを成し遂げる」という意味もあるそうだ。
講演の最後には、いつも心に留めているという「カキクケコ」を披露。「カは常に感謝の気持ちを持つこと。キはいつも希望をもって。クはくよくよしないで、ケは絶対に健康でいること。そして、思ったらすぐ行動する(コ)ことが大事です」と締めくくった。
■「誰の投資法も全員正解」井村俊哉さん
左から桂さん、小森さん、井村さん。爆笑もまじえながら熱い株談議が繰り広げられたもう一つの基調講演の講師は、現役の噺家(はなしか)で世界初の株式落語・相続漫談などを手掛ける桂茶がまさん、年収2万円(!)のお笑い芸人を卒業して億万投資家になった井村俊哉さん、株主優待が好きで100以上の優待銘柄を持つ個人投資家の小森美紀さんの3人。
それぞれの株との出合いから人生の節目と株がどう関わっていたか、投資手法の違いや成功・失敗談、10倍株(テンバガー)をつかむにはどうすればいいか、来年の相場予想と注目銘柄まで、爆笑もまじえながら熱い株談議が繰り広げられた。
3人は投資手法や持っている銘柄数、投資の目的がまるで違っているが、井村さんいわく、「株式投資は懐が深いので、誰の投資法も間違いではなくて全員正解」。そうした中で大事なのは自分に合った株式投資の方法を見つけていくことだという鉄則を確認した。
■「iDeCo、使わないのはもったいない」大江英樹さん
大江英樹さんは「資産運用では税金と手数料を抑えることが重要」と説明したマネー研究所でも連載中の経済コラムニスト、大江英樹さんは『サザエさん』の波平さんが実は54歳という設定だというエピソードを紹介しながら、この漫画が描かれた頃に比べ平均寿命ははるかに長くなっていること、とはいえ伸びているのは収入の少ない「老後」の部分なので、資産運用など何らかの自助努力なしには乗り切っていくのが困難であることを示した。
そのうえで大江さんは、資産運用で失敗するのはコントロールできないもの(リターン、もうけ)とできるもの(資金の置き場所、リスク、コスト)を間違えてしまうためだと指摘。中でも重要なのが確実にマイナスに作用するコストである「税金」と「手数料」を抑えることで、そこで役立つのがiDeCo(個人型確定拠出年金)とNISA(少額投資非課税制度)だと説明した。
とりわけiDeCoは掛け金が全額所得控除されることをはじめ、運用益が非課税になることや低い運用コストなど大きなメリットがいくつもあるので、「使わずに終わるのはもったいない」とも。60歳まで引き出せないのも「老後資金づくりという意味では、むしろプラスだ」とした。
■「何かひとつでも実行を」横山光昭さん
横山光昭さんは「出費の中身を浪費、消費、投資の3つに分けて考えたい」と持論を展開した同じくマネー研究所の連載でおなじみの家計再生コンサルタント、横山光昭さんは、人生100年時代を豊かに生きるための家計のあり方をテーマにさまざまなヒントを教えてくれた。
多くの人が漠然としたお金への不安を抱えている現状について、「不安を解消するには、足元の家計をしっかり把握することと、お金の使い方について自分なりの価値観を持つことが大事」と指摘。具体的な手法として、「出費の中身を、日々の生活に必要な消費、無駄遣いである浪費、将来リターンが期待できる投資の3つに分け、どれに当たるのかを意識してお金を使うといい」と話した。
6人の子供の父親でもある横山さん。重い教育費負担に悩む家庭も多い現状については、「親だけで考えないで子供とよく話し合うべきだ」と助言した。そのために横山家では毎月1回の「家族マネー会議」で、その月の我が家の収入やお金の使い方について家族全員で話し合っていること、子供への金銭教育の一環としてお小遣いを外貨(米ドル)で渡していることなどが紹介された。
最後に「今日聞いたことのうち何か一つでもいいので実行してほしい」とアドバイス。「行動を起こせば、家計は変わる。1日100円でも1年で3万6500円。ちょっとした差だが、小さなことをコツコツやることが大切」とエールを送った。
■「オーストラリアで伸び伸び」小島慶子さん
小島慶子さんは日本とオーストラリアを行き来しながら働く今の暮らしについて語ったエッセイストの小島慶子さんは、日本とオーストラリアを行き来しながら一家の大黒柱として働く今の暮らしについてユーモアを交えて語った。50歳を前に夫がテレビ制作会社を退職したのを機に生活環境を見直し、14年にオーストラリア・パースに家族で移住。現在は小島さんが毎月1人で日本に「出稼ぎ」に来て、テレビや講演、イベントへの出演と執筆活動で家族の暮らしを支えているという。
自然に囲まれた暮らしは豊かで、2人の息子は伸び伸び育っている。「自然があり英語も身に付く。日本で認められる『いい学歴』や『いい会社』への就職は手放したけれど、そうじゃないものを子供たちに与える選択をした」と振り返った。
今は人生設計にもマネープランにも正解がない変化の時代だ。「今、家族と幸せに暮らしていけることを最優先に、その中でできるベストな選択を重ねていくことで、次のマネープランも見えてくると思う」。その言葉に、多くの来場者がうなずいた。
■「特殊詐欺の入り口は電話」夏原武さん
夏原武さんは「いかに詐欺師にだまされずに今ある資産を守るか」を重点に置いた作家で漫画原作者の夏原武さんの講演は、お金を増やす話ではなく、いかに詐欺師にだまされずに今ある資産を守るか、に重点を置いた内容。これは夏原さんが漫画『クロサギ』の原作者であり、詐欺や闇金融など裏社会について長年取材してきているため、普段あまり聞けない「だます側の事情」を熟知しているからだ。
夏原さんによれば、まっとうな金融商品や投資案件の「すぐ横」には大量の投資詐欺が控えているという。例えばFX(外国為替証拠金取引)がはやれば、その必勝法を教えると称する詐欺業者が現れるといった具合だ。この結果、毎年のように大量の投資詐欺事件が起きているが、これらの真贋(しんがん)を見抜くのは情報収集が必要で簡単ではない。
一方、「おれおれ詐欺」など特殊詐欺を避けるのは実は簡単で、「入り口のほとんど全てが電話経由。従って電話に出ないのが一番の対策」という。具体的にはナンバーディスプレーと留守番電話を使い、一日中留守電状態にしておくこと。事実、夏原さんが特殊詐欺グループに取材したところ、「我々は留守電になっていたら絶対に声(証拠)は残さず、効率重視ですぐ切って次の番号にかける」と話したそうだ。この他、投資で失敗しないための情報の見極め方も解説された。
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人生の時間(特に老後)が伸びて自助努力が必要になる中、欠かせないのは情報収集と「自分の頭で考え、実際に行動に移すこと」。こうしたイベントに参加し、多くの人の話を聞いて刺激を受けるのは非常にいいことだが、聞いて終わりにはせず、横山さんが言うように何か一つでも現実のアクションにつなげてもらえるとなおいいだろう。
(日経マネー 佐藤珠希、大口克人)
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