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ローマ歌劇場来日 椿姫とマノン・レスコーの愛を知る

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イタリアの名門オペラハウス、ローマ歌劇場が9月に日本公演を行う。ヴェルディ「椿姫」とプッチーニ「マノン・レスコー」の2演目で、原作はともにフランス恋愛小説の古典。それぞれ華やかな裏社交界と破天荒な冒険の中に、胸をかきむしられる愛の叫びを秘めた悲劇をどう演じるか。ラグジュアリーな舞台で浮き彫りになる愛の素晴らしさと残酷さ、尊さを知る機会だ。

200年近くも人々に語り継がれる女性がいる。王侯貴族や芸術家ではない。人を愛したことによって歴史に名をとどめるその女性は「高級娼婦(しょうふ)」。フランスの文豪アレクサンドル・デュマの非嫡出子デュマ・フィス(小デュマ)が1848年に発表した小説「椿姫」は、実在の女性マリ・デュプレシをモデルにした。小デュマは彼女と恋愛関係にあり、ピアニストで作曲家のリストも恋人だった。

イタリアオペラになったフランスの恋愛小説

彼女は幼少時に母を亡くし、10代で囲い者にさせられ、後にパリの裏社交界でもてはやされ、結核を患い23歳で早世した。富裕層だけを顧客にし、夜ごとの観劇では普段は白、1か月に数日は赤のツバキを身に付けてサインを送ったという。小デュマは彼女の思い出として「椿姫」を書いた。イタリアの作曲家ヴェルディはその演劇を見て感銘を受け、オペラを構想した。こうしてオペラ史上最も人気のあるヒロイン、ヴィオレッタが生まれた。

4年ぶり4度目となるローマ歌劇場の日本公演が「椿姫」と「マノン・レスコー」の組み合わせなのは意味深い。「椿姫」の原作にはアベ・プレヴォーの小説「マノン・レスコー」が何度も登場するからだ。「騎士」と呼ばれる青年デ・グリューと美貌の女性マノンとの熱愛の物語。青年はマノンの自由奔放な生き方に翻弄され、抜き差しならない事件に次々と巻き込まれ、最後に2人はアメリカの砂漠に行き着く。

「マノン・レスコー」は「椿姫」の原型といえる。その破滅的な愛の形は「ベティ・ブルー」のような現代のフランス映画にまで受け継がれている。そしてオペラではフランスの作曲家マスネの「マノン」に続き、イタリアのプッチーニが2人の渡米後の運命まで描いた「マノン・レスコー」を作曲し、1893年に初演された。

「椿姫」「マノン・レスコー」のオペラを存分に鑑賞するには、どんな解説書よりも2つの原作を読み返したほうがよさそうだ。3時間ほどの舞台では描き切れない人物の心理や背景、何よりも当時の社会で「高級娼婦」がいかに弱く悲しい存在だったかが分かる。ヴェルディが題名を「椿姫」から「ラ・トラヴィアータ(道を踏み外した女)」に変えて強調した理由もそこにあるだろう。

今回の「椿姫」は映画監督ソフィア・コッポラさんが演出、伊ファッション界の大御所ヴァレンティノ・ガラヴァーニ氏が衣装を担当した。ラグジュアリーでファッショナブルな舞台と評判だ。しかし物語の背景を知れば、豪華で洗練された演出の背後から、ヴィオレッタの悲劇性がより強いコントラストで迫ってくるはずだ。

 9月5日、東京文化会館(東京・台東)で開かれた「ローマ歌劇場2018年日本公演開幕記者会見」の席上、芸術監督のアレッシオ・ウラッド氏は「今回の作品はイタリアオペラの二大柱。新しい方法でイタリアの伝統をより良い方向に継承していく」と上演の意義を語った。全7公演のうち前半を中心に4回が「椿姫」。数あるオペラの中でも上演回数の多い人気作だが、「若手歌手2人が作曲家の意図をくんで劇的表現をしてくれる」と語り、イタリアの伝統を新鮮な陣容で伝えたい考えだ。そこには現代社会に照らし合わせてこのオペラの意味を改めて問う狙いもある。

映画になったソフィア・コッポラ演出「椿姫」

コッポラさん演出の「椿姫」は彼女自らが監督し映画にもなった。今回の配役はその映画と同じで、ヴィオレッタ役(ソプラノ)がフランチェスカ・ドットさん、アルフレード役(テノール)はアントニオ・ポーリ氏。指揮者も映画と同様、ヤデル・ビニャミーニ氏だ。ハリウッドで多くの大作を手掛けるネイサン・クロウリー氏が美術を担当した。ローマ歌劇場の試写用DVDを借りて「椿姫」の演出や歌唱を点検してみた。

まず「前奏曲」でのローマ歌劇場管弦楽団の清澄で明瞭な響きが印象的だ。弦楽を中心に生真面目といえるほどきちんとした音の運びは、ヴィオレッタの理知的で誠実な本質を表すかのようだ。凜(りん)とした雰囲気がそのまま第1幕の裏社交界の場面に引き継がれる。大きな階段を病弱のヴィオレッタが孤独な様子で下ってくる。情事を求める貴族たちの宴会シーンがこれに続く。ヴァレンティノ氏による洗練された衣装デザインが本物の社交界のような高級感を醸し出す。

有名な「乾杯の歌」でポーリ氏の歌唱にまず圧倒される。伸びやかな声色と豊かな声量。舞台がパリであることを忘れるほどおおらかで朗々としたイタリアオペラならではの歌いっぷりだ。一方でドットさんの歌唱はこれに続く第1幕後半のコロラトゥーラ(装飾音を多用した速いフレーズ)で印象付けられる。非常に高い音域まで正確に発声し、か弱さも漂わす歌唱はヴィオレッタ役にぴったりだ。

「椿姫」は悲劇なのに全体として長調の明るい旋律が多い。ヴェルディの前向きな人生観と人々を励ます精神性の表れだろう。「アルフレードのセリフにはヴィオレッタを不幸な境遇から救い出したいという思いがある」とポーリ氏は説明する。だがヴィオレッタのぞっとするほどの悲哀を垣間見るフレーズが登場する場面もある。第2幕後半の賭博のシーンだ。

ヴィオレッタの裏切りを感じたアルフレードが賭けに興じるのを見ながら、彼女が「どうなるんだろう」などと短く間欠的に3回歌う。かつてマリア・カラスが底知れない不安と切実な愛を歌った箇所であり、名盤として残る。真っ赤なドレスを着たドットさんは、客席に訴えかけるようにして歌う。貴族らの快楽や家庭の幸福の犠牲になる彼女の純愛は、舞台では顧みられない。その愛を受け止めるのは客席の聴き手だ。

 「ヴィオレッタの境遇を自分に置き換えて演技している」とドットさんは記者会見後のインタビューで語った。第3幕の病床シーンでは、アルフレードと再会してからの演技も見もの。原作では2人が生きて再会することはない。オペラでも最後のシーンをヴィオレッタの幻覚と捉える向きがある。音楽も急に明るくなる。ドットさんの演技は錯乱の様相を呈しつつも、歌唱は2人の愛を確かめるように、吐息に近い高音域まで芯が通っている。「第3幕では大げさにせず、自然な声で歌うよう努めている」とドットさん。突然訪れる激烈な短調の終幕で、これが悲劇だったことを誰もが実感する。

愛も富も求めたマノン・レスコー砂漠の悲劇

もう一つの演目「マノン・レスコー」は題名役のソプラノ、クリスティーネ・オポライスさんが注目の的だ。「見たこともない美しい人」と騎士デ・グリューが歌うオペラで「絶世の美女」を演じる。女優といえる演技力にも定評がある。記者会見でオポライスさんはマノン・レスコー役について「どの時代の女性も犯してきた過ち、愛と富の両方を求める大きな過ちを表している」と語った。そして「真実の愛を知り、人生が分かったときには死を迎える」という悲劇を指摘した。

イタリアの伝統を継承し時代考証が行き届いたキアラ・ムーティさんの演出も話題だ。4年前にローマ歌劇場の日本公演を指揮した巨匠リッカルド・ムーティ氏の娘。記者会見で彼女は「マスネの『マノン』はフランス人、プッチーニの『マノン・レスコー』はイタリア人。プッチーニはこの物語を非常に大きな悲劇に変えた」と指摘した。愛も富もなくした女性が「砂漠の中で砂漠のように死ぬ」イメージを演出で重視したという。

「マノン・レスコー」は後期ロマン派の高度な管弦楽法を駆使したプッチーニの音楽自体がまず大きな魅力を持っている。美しい旋律の歌が、色彩感あふれる管弦楽に抱かれて全編に流れる。「トスカ」や「トゥーランドット」にも引けを取らないプッチーニの傑作だ。マノンに翻弄されながらも、どこまでも求愛を続ける騎士デ・グリュー役のテノール、グレゴリー・クンデ氏の歌唱も上演のカギを握りそうだ。

「ローマ歌劇場2018年日本公演」は「椿姫」が9月9、12、15、17日に東京文化会館で、「マノン・レスコー」が同16日に横浜市の神奈川県民ホール、同20、22日に東京文化会館で、いずれも午後3時に開演する。イタリアの伝統と現代のセンスを融合した舞台は、両作品の普遍的価値を聴き手にどう伝えるか。永遠の都ローマからのオペラに期待がかかる。

(映像報道部シニア・エディター 池上輝彦)

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