ローマ歌劇場来日 椿姫とマノン・レスコーの愛を知る

9月5日、東京文化会館(東京・台東)で開かれた「ローマ歌劇場2018年日本公演開幕記者会見」の席上、芸術監督のアレッシオ・ウラッド氏は「今回の作品はイタリアオペラの二大柱。新しい方法でイタリアの伝統をより良い方向に継承していく」と上演の意義を語った。全7公演のうち前半を中心に4回が「椿姫」。数あるオペラの中でも上演回数の多い人気作だが、「若手歌手2人が作曲家の意図をくんで劇的表現をしてくれる」と語り、イタリアの伝統を新鮮な陣容で伝えたい考えだ。そこには現代社会に照らし合わせてこのオペラの意味を改めて問う狙いもある。

映画になったソフィア・コッポラ演出「椿姫」

コッポラさん演出の「椿姫」は彼女自らが監督し映画にもなった。今回の配役はその映画と同じで、ヴィオレッタ役(ソプラノ)がフランチェスカ・ドットさん、アルフレード役(テノール)はアントニオ・ポーリ氏。指揮者も映画と同様、ヤデル・ビニャミーニ氏だ。ハリウッドで多くの大作を手掛けるネイサン・クロウリー氏が美術を担当した。ローマ歌劇場の試写用DVDを借りて「椿姫」の演出や歌唱を点検してみた。

ローマ歌劇場日本公演のヴェルディ「椿姫」でヴィオレッタ役のフランチェスカ・ドットさん(左)とアルフレード役のアントニオ・ポーリ氏(9月5日、東京・上野の東京文化会館)

まず「前奏曲」でのローマ歌劇場管弦楽団の清澄で明瞭な響きが印象的だ。弦楽を中心に生真面目といえるほどきちんとした音の運びは、ヴィオレッタの理知的で誠実な本質を表すかのようだ。凜(りん)とした雰囲気がそのまま第1幕の裏社交界の場面に引き継がれる。大きな階段を病弱のヴィオレッタが孤独な様子で下ってくる。情事を求める貴族たちの宴会シーンがこれに続く。ヴァレンティノ氏による洗練された衣装デザインが本物の社交界のような高級感を醸し出す。

有名な「乾杯の歌」でポーリ氏の歌唱にまず圧倒される。伸びやかな声色と豊かな声量。舞台がパリであることを忘れるほどおおらかで朗々としたイタリアオペラならではの歌いっぷりだ。一方でドットさんの歌唱はこれに続く第1幕後半のコロラトゥーラ(装飾音を多用した速いフレーズ)で印象付けられる。非常に高い音域まで正確に発声し、か弱さも漂わす歌唱はヴィオレッタ役にぴったりだ。

「椿姫」は悲劇なのに全体として長調の明るい旋律が多い。ヴェルディの前向きな人生観と人々を励ます精神性の表れだろう。「アルフレードのセリフにはヴィオレッタを不幸な境遇から救い出したいという思いがある」とポーリ氏は説明する。だがヴィオレッタのぞっとするほどの悲哀を垣間見るフレーズが登場する場面もある。第2幕後半の賭博のシーンだ。

ヴィオレッタの裏切りを感じたアルフレードが賭けに興じるのを見ながら、彼女が「どうなるんだろう」などと短く間欠的に3回歌う。かつてマリア・カラスが底知れない不安と切実な愛を歌った箇所であり、名盤として残る。真っ赤なドレスを着たドットさんは、客席に訴えかけるようにして歌う。貴族らの快楽や家庭の幸福の犠牲になる彼女の純愛は、舞台では顧みられない。その愛を受け止めるのは客席の聴き手だ。

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