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嫁×姑や浮気 お茶の間が驚いた、テレビの奥のリアル 家族ドラマに歴史あり!(3)

2018/9/17

日常の小さな出来事をリアルに描いた

厚生省(現・厚生労働省)が毎年発行する厚生白書で、「核家族」の抱える問題がクローズアップされたのが、1970年代の半ばである。

核家族とは、夫婦のみ、もしくは夫婦と未婚の子どもだけの小家族のこと。60年代の終わりごろに脚光を浴び始め、70年代にかけて急速に増加した。

橋田寿賀子氏

俗に、ドラマは時代の鏡と言うが、そんな核家族化の波を反映してか、この時期、一風変わった2つのホームドラマが相次いで登場して話題となった。橋田寿賀子脚本の「となりの芝生」(NHK)と山田太一脚本の「岸辺のアルバム」(TBS系)である。ドラマに共通するのは、リアリティーだった。

まず1976年1月、NHKの銀河テレビ小説で「となりの芝生」が放送される。物語は、結婚して12年目の夫婦と子ども2人の平均的サラリーマン一家が、念願のマイホームを建てたところ、夫の母がやってきて勝手に居座ってしまい、嫁と姑(しゅうとめ)の確執が始まるというものだ。

山田太一氏

それまでのホームドラマは親子三世代の大家族を描くことが多く、同居する嫁と姑の関係は比較的良好だった。いさかいがあるにしろ、それは笑い話のレベルだった。ところが、同ドラマは違った。橋田寿賀子の書く姑は、嫁に対して辛らつだったのだ。

夫婦役を演じたのは、山本陽子と前田吟である。姑役には沢村貞子。この姑は、いちいち嫁の家事に干渉したがり、孫のしつけが悪いと文句を言い、彼女の内職にまで口を出した。

「私は、お父さんの顔をつぶすような内職なんかしませんでしたよ!」

だが、嫁も当初は素直に従っていたものの、次第にたくましくなり、姑に応戦するようになる。挟まれた夫は、オロオロするばかりである。お茶の間は騒然となった。嫁派と姑派に分かれ、大論争が起きた。NHKには連日、多くの投書が寄せられ、銀河テレビ小説の視聴率は、一気に跳ね上がった。

■家族の崩壊を描いた歴史的ドラマ

そして翌77年、今度はTBSの金曜ドラマで家族の崩壊を描いた歴史的ドラマが放映される。「岸辺のアルバム」である。

原作は、山田太一が東京新聞に連載していた小説だった。ドラマ化を打診され、彼は一つの注文をつけた。

「今までのホームドラマは嘘が多い。日常の小さな出来事の中にこそ、人間にとっての重大なドラマが詰まっている。そこをリアルに描きたい」。

かくして、脚本・山田太一、演出・鴨下信一、プロデュース・堀川敦厚(現・堀川とんこう)の座組で制作が決まる。堀川は同ドラマを「等身大ドラマ」と命名し、オープニングで1974年の多摩川水害の報道素材を流し、ジャニス・イアンの「ウィル・ユー・ダンス」をかぶせた。甘いメロディーとショッキングな映像のギャップに、お茶の間は震撼(しんかん)した。

ドラマは東京郊外の多摩川べりに住む、ごく普通の中流家庭の話である。ある日、八千草薫演ずる平凡な主婦のもとに1本のいたずら電話がかかってくる。それが元で、彼女は禁断の浮気の道へ踏み出してしまう。夫の会社は倒産寸前にあり、娘はアメリカ人の留学生にレイプされ、息子はそんな家族の秘密を知り、思い悩んで家出してしまう。一見平穏に見える家庭も、一皮むけば様々な歪みを持っている。それがドラマの伝えたいメッセージだった。

物語の終盤、台風で家族の象徴である白いマイホームが多摩川の濁流に流される。その寸前、国広富之演ずる息子が必死の思いで家から持ち出したのが、家族の思い出がつまったアルバムだった。すべてを失って始めて、一家はもう一度やり直そうと思い立つ。

■ホームドラマの旗手も動いた

向田邦子氏

くしくも70年代後半に相次いで放映され、「家族とは何か」をお茶の間に問いかけた2つのドラマ。これを機に、清く・明るく・あたたかいホームドラマの時代は終わりを告げる。

その波は、かつてホームドラマの旗手とうたわれた、あの脚本家の筆をも動かした。向田邦子である。1979年、彼女はある家族の物語を書き上げる。それは、四姉妹(加藤治子・八千草薫・いしだあゆみ・風吹ジュン)と、年老いた両親(佐分利信・大路三千緒)の日常をつづったもの。NHKの土曜ドラマ「阿修羅のごとく」である。

和田勉氏

物語は、ある日、三女が調査機関に調べさせ、父親に愛人とその子どもがいることが発覚するところから始まる。母を案じ、その対処を話し合う四姉妹だが、一方で、彼女たちもそれぞれ秘め事を持っていた。ねたみやそねみ、そして互いへの疑心暗鬼。平凡な日常の中に時おり顔をのぞかせる「阿修羅」の面。それは、悲劇と喜劇が入り交じる、向田流の秀逸なホームコメディだった。

演出は、NHK切っての奇才・和田勉。向田の世界観を表すのに、彼が選んだ音楽がトルコ軍楽の「ジェッディン・デデン」だった。ズルナと呼ばれる独特の管楽器の奏でる音色が、家族の悲喜劇を白日の下に浮き上がらせたのである。

指南役
草場滋 しなんやく・くさばしげる メディアプランナー エンターテインメント企画集団「指南役」代表。テレビ番組の企画原案、映画の原作協力、雑誌連載の監修などメディアを横断して活動中。「日経エンタテインメント!」誌に連載中の「テレビ証券」は18年目。

「岸辺のアルバム」 (C)TBS

[plusparavi(プラスパラビ) 2018年9月4日付記事を再構成]

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