躍進が止まらない 中高年の名脇役、なぜブレイク?
中高年のベテラン脇役俳優の躍進が止まらない。2012年に松重豊が『孤独のグルメ』に主演してシリーズ化に成功して以降、吉田鋼太郎が『東京センチメンタル』(14年~)に、遠藤憲一が『民王』(15年~)に主演するなどして潮流を作った。その流れを一気に広げたのが、17年の『バイプレイヤーズ~もしも6人の名脇役がシェアハウスで暮らしたら~』だ。遠藤憲一、大杉漣、田口トモロヲ、寺島進、松重豊、光石研という名バイプレイヤー6人が本人役で主演し、コワモテ俳優たちのチャーミングな姿に「ギャップ萌え」する女子が続出した。
その反響を受け、18年1月からは続編の『バイプレイヤーズ~もしも名脇役がテレ東朝ドラで無人島生活したら~』も放送。さらに6月には佐野史郎が63歳で連ドラ初主演を果たし(『限界団地』)、7月から放送の『探偵が早すぎる』では滝藤賢一が広瀬アリスとW主演する。彼ら中高年脇役俳優の活躍に拍車がかかったのは、なぜなのか。『バイプレイヤーズ』のプロデューサーで演出も手掛けたドリマックスの浅野敦也氏は、「視聴者層の変化」を指摘する。
「昔はテレビや映画が娯楽の王様だったので、若い方から年配の方まで、幅広い層の方がテレビや映画を見ていました。だけど今は、映画もテレビもシニア層の占有率が高い。忙しい社会人はテレビを見られないし、若い人には、そもそもテレビを持っていない人もいる。そうなると、若いスターを主役にドラマを作っても、視聴率が取りにくいんです。また映画でもキラキラした学園モノが下火になって、若いスターに頼れなくなってきている。テレビでも若い子の恋愛モノが減って、中高年の物語が増えています。そういう流れで、中高年のバイプレイヤーの方々がどんどん前面に出てきたという状況はあると思います」
演技力があり、人柄がいい
また近年は、視聴者が1~2話見逃しても楽しめる「一話完結」のドラマが増えている。代表例が、『相棒』『遺留捜査』などの刑事ドラマと『ドクターX』などの医療モノだ。これらのレギュラー出演者は芸達者なベテラン揃いで、各話のゲストでも名脇役が活躍する。
そのような状況下で制作者が起用したくなるのは、どんな脇役俳優なのか。頂点に立つ遠藤憲一、松重豊ら6人のバイプレイヤーズの共通点を浅野氏に聞いてみた。
「まずは演技力。『バイプレイヤーズ』の放送時にツイッターでは、『あれは演技なの?素なの?』という書き込みがありましたが、そんなふうに感じさせる自然な演技ができる、役者さんとしてのすごさがあります。例えば若い俳優さんだと、『こういうお芝居が欲しい』というレベルに到達するまでに、演出家がかなり頑張るケースもあるんです。でもあの方々は普通にそのレベルを超えて、さらに面白くすることができる。松重さんが『1つの芝居をするために、100考えて、一度全部捨ててから現場に行く』とおっしゃってましたけど、何通りものお芝居の中で、何が一番ベストなのかを議論できるところがすごい」
また、現場でスタッフに愛される、人間的魅力も大きいという。
「利己的な俳優さんは、パッと人気が出ても、スタッフから弾かれていってしまうところがあるんです。でも下積みが長くて、ずっと魅力を放ち続けている彼らは、みなさん人格者。若い新人のスタッフから年配のスタッフにまで優しく気を配って、現場の周りにいらっしゃる一般の方々にも、大人の対応をされます。人としての優しさがあるからこそ、視聴者も含め、みんなに愛され続けているのかなと思いますね」
芝居がうまくて、人もいい。さらに「その人ならではの個性がある」(浅野氏)ことから、制作者側は、再びその俳優を呼びたくなるようだ。また、優秀な俳優でありながら、法外なギャラを要求されないことも魅力だろう。
制作費の減少も追い風に
近年、テレビは番組制作費が減少傾向にあるといわれる。そんななかでギャラの高いスターを集めてドラマ制作を続けることは難しくなっており、例えば高額なスターを1人キャスティングしたら、あとはメインの役柄でも安くてうまい俳優で固める――という業界内のフトコロ事情があるとの声も聞かれる。
「今は、キャストや脚本の掛け合わせで面白いものを作る"企画性"の時代だと思います。それが多様化につながり、『おっさんずラブ』のような新しいドラマも生まれている。そういうなかで、キャリアを積んできた役者さんたちに光が当たるのは業界的にも喜ばしいこと。若い役者さんたちにも、ぜひ彼らに続いてほしいですね」
(ライター 泊貴洋)
[日経エンタテインメント! 2018年8月号の記事を再構成]
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