ギターを始めて最初の2年間は「大して練習もせず、ただ習い事として続けていただけ」だった。小学5年のときに初めて学生のコンクールに出場し、「同世代の子供たちがあまりにも上手だったのに衝撃を受け、それからやっとちゃんと練習に励むようになった」。子供の頃から福田氏の講習会でもレッスンを受けた。こうして渡仏までに国内コンクールで入賞を重ねた。
■スペクトル楽派による倍音効果のギター曲
デビューCDの方針として「得意で好きな曲を必ず入れたかった」と言う。スペイン内戦で33歳にして殺された悲劇の作曲家アントニオ・ホセ(1902~36年)の「ソナタ」、フランスの現代作曲家トリスタン・ミュライユ氏の「テリュール」の2曲をまず選んだ。
徳永氏は「留学時代に最も研究し、論文も書いた」というほどミュライユ氏の「テリュール」に傾倒している。ミュライユ氏は音楽を音響現象と捉え、倍音を解析・合成する手法を作曲に用いるスペクトル楽派の代表的作曲家。日本人の作曲家では望月京さんがフランス留学時代にミュライユ氏に師事している。徳永氏はこの「テリュール」をCDのタイトルにし、締めの曲にした。
福田氏のCD解説によると「テリュール」はスペクトル楽派の作曲家が書いた最初のギター曲という。「小さな音、ノイズから始まって、倍音を増やしながら音響が膨れあがっていく過程を書いているので、ギター曲であることを忘れてしまう。音が大小変化していく様子を楽しめる曲」と徳永氏は説明する。フラメンコギターのラスゲアード奏法を使っている。指の爪側で弦を上から下へとかき鳴らす。「行き着くところまで音響が飽和したら、今度は再び下がっていくという明快な構成。徐々に変化する響きを常に耳で追いながら弾くよう心掛けている」と言う。
「テリュール」をCDで聴くと、ざわめきのような響きが次第に大きくなり、ついには生ギターとは思えないほどの大音量へと膨らんでいく。途方もないスケール感を聴き手に印象付ける10分ほどの曲だ。ギターの音色に特有の倍音の広がりを生かしている。「ミュライユは倍音成分を重視する作曲家。ハイレゾでそうした倍音による響きの膨らみと広がりを再現できるようにした」と録音を担当した平井氏は語る。