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タイ洞窟救出劇で考える マインドフルネス瞑想の効用

こちら「メンタル産業医」相談室(26)

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NIKKEI STYLE

ようやく残暑も和らいできましたが、あなたの心と体はお元気でしょうか? こんにちは、精神科医・産業医の奥田弘美です。今回から2回にわたり、近年話題になっているマインドフルネス瞑想(めいそう)について、タイの洞窟救出劇の振り返りとともに考察してみたいと思います。

世紀の救出劇で再注目されたマインドフルネス瞑想

日本でマインドフルネス瞑想が注目され始めて数年がたち、急速に過熱したブームも若干鎮静化しつつあるようです。

集中力がつく、雑念に惑わされず仕事力が上がる、心が穏やかになる、体の健康にも良いなどとメディアや本で紹介される中、興味をかき立てられてセミナーに出たり書物を読んだりして、「実践してみた」という方も多いでしょう。しかし「何日かやってみたが、効果が実感できないので中止した」「毎日早起きして瞑想しようと意気込んでいたが、忙しさに取り紛れていつの間にかやめてしまった」という人も実は少なくないようです。

筆者自身も「メディアが騒ぐほどミラクルな即効性のある自己実現スキルじゃないんですね」というような声を何度か耳にしたことがあります。確かにその通りであり、マインドフルネス瞑想は「心の筋トレ」と表現されるように、コツコツと継続していくことで効果がじわじわと出てきます。筆者もすでに3年以上毎日瞑想を継続していますが、その効果は「牛歩のごとし」。ゆっくりと確実に良い変化は起こってくるのですが、とにかく根気と時間が必要な心のトレーニング法なのです。多忙な人が挫折してしまう気持ちもよく理解できます。

さてそんな中、2018年7月、タイの洞窟の中に2週間以上にわたって閉じ込められていたサッカーチームの少年12人と25歳のコーチ1人の世紀の救出劇が報道され、再びマインドフルネス瞑想が注目を集めました。6月23日に閉じ込められ7月2日に発見されるまでの間、少年たちは真っ暗闇の洞窟の中、壁を伝って流れてくる水だけを飲みながら空腹に耐え、コーチの指導する瞑想によって平静を保っていたというのです。

筆者もイギリス人ダイバーたちが発見時に少年たちと会話している動画を見ましたが、11~16歳という多感で不安定になりやすい年ごろの少年たちが誰一人としてパニック状態に陥らず、落ち着いた表情で時には笑顔を見せながら、ダイバーたちと会話している様子に驚きました。

仮に閉じ込められたのが大人だったとしても、救助が来るかどうか分からない文字通り「一寸先は闇」の状態の中で何日もの間空腹にさいなまれながら心を平静に保つのは非常に難しいと思います。私がもし同じ状態に置かれたらと想像するだけで、ゾゾゾーッと背筋に恐怖が走り心臓がバクバクしてきます。

様々なメディアでは、サッカーコーチのエカポン・チャンタウォーンさんが少年たちに仏教式の瞑想を教え実践していたことによって、彼らが平静を保つことができたと報道されました。

ご存じの方も多いと思いますが、マインドフルネス瞑想のルーツは2500年前にブッダが編み出した瞑想法にあります。ブッダが創造した瞑想法はその教義とともにタイやミャンマーといった上座仏教国で主に受け継がれてきましたが、1960年代にその瞑想法が欧米に伝わり、医療やビジネスの現場で活用されたことで広く認知されるようになりました。

このエカポンコーチが少年たちに指導したのは、本家本元の上座仏教国タイの仏教式瞑想法であったため、マインドフルネス瞑想が一部のメディアで再注目されたようです。

サッカーコーチがなぜ瞑想を素晴らしく指導できたか?

さて筆者は自分自身がマインドフルネス瞑想を愛好していることもあり、このコーチがどのような人で、どんなふうに洞窟で瞑想を指導し、少年たちの心を平静に保っていたのだろうと非常に興味を持ちました。そこで、様々な国内外のウェブサイトを個人で調べられる限り検索したところ、次のような情報が得られました。

まずはコーチのエカポン・チャンタウォーンさんの人物像について。

●エカポンコーチは子供の時に病気で両親を失った。その後は祖母に育てられながら、少年修道僧として出家していたことがある[注1]。

●タイは上座仏教国であるため、出家期間中はヴィパッサナー瞑想を日々実践していた[注1]。

●現在は清掃員として働いているが、今も人々に瞑想を指導している[注2]。

●彼は酒を飲まず、タバコも吸わず、代わりに空き時間を活用して、サッカーチームの少年たちの心身のトレーニングを行い、練習後は少年たちを家まで送り届ける[注2]。

タイやミャンマー、スリランカなどの上座仏教国では信心深い在家の仏教徒はブッダの示した五戒(盗まない、殺さない、ウソを言わない、邪淫しない、酒・ドラッグをやらない)という戒律を守りながら生活しています。その仏教徒の上に立つ僧侶は五戒だけではなく、もっと多い227もの戒律を守ってストイックな修行生活を行っています。上座仏教の僧侶は妻帯をせず私有財産も持たず、すべて民からの布施によって生活を賄いながら、瞑想を中心とした厳格な修行生活を送ります。そのため民衆からも非常に尊い存在として崇められているといいます。

エカポンコーチは、現在は僧侶ではないものの、素晴らしく高潔でかつ強靭(きょうじん)なマインドの持ち主であり、思いやりにあふれた人徳の高い青年であることが、上記の人物像からうかがえます。

エカポンコーチが真っ暗闇の洞窟の中で、自分自身の冷静さを保つだけでなく少年たちに瞑想を効果的に実践させることができたのは、長年にわたる仏教への深い造詣と僧侶時代の修行によって培った高潔な人間性と忍耐力が背景にあったからだと思われます。

つまりただ単に瞑想の実践だけで、あの少年たちのメンタルを安定させる効果を得たと捉えるのは間違いであり、彼の仏道修行によって形成された人徳と少年たちとの強い信頼関係があったからこそ成功したと考えるべきでしょう。

もちろんエカポンコーチが少年たちを洞窟に連れて行ったという点では、リーダーとしての安全配慮に関わる判断ミスがあったことは否めません。しかしながら少年たちの親族は誰一人として彼の非を責めないどころか、レスキュー部隊に「自分を責めないでください」というコーチに宛てた手紙まで託したという報道もありました。こうしたエピソードは、いかにエカポンコーチが日ごろから子供たちを親身に誠実に指導し、親たちにも感謝されていたかを物語っています。

彼らがやったであろう「ヴィパッサナー瞑想」とは?

8月22日に米国のABC Newsでは、エカポンコーチと少年たちのインタビューが公開されました。その中でエカポンコーチは、次のように語っています。

"洞窟の中に閉じ込められたと悟ったとき、私はまず自分自身の落ち着きを回復しようと努めました。そして子供たちには『閉じ込められた』とは話さないようにして、ポジティブなことだけを言いました。私は彼らに『洞窟の中の水位が下がって外に出られるようになるまで、私たちは少しだけ長く待たないといけない』と伝え、彼らがパニックにならないようにしました。もし『閉じ込められた』と言えば、彼らはパニックになっていたでしょう"[注3]

しかしなかなか水位が下がらず時間が刻々と過ぎていく中で、エカポンコーチは、彼らに祈りと瞑想を行うようにいざなったようです。彼は同じインタビュー記事の中でこう語っています。

"祈りは、少年たちが私の家に泊まるときのお決まりの行為になっていて、就寝前には私は彼らを祈りにいざないます。祈りは私たちに良い眠りを与えてくれますし、私たちが他のことを考えることをストップさせてくれます"[注3]

またエカポンコーチは祈りと瞑想だけではなく、少年たちと交代で壁に穴を掘って脱出口を作る作業を行ったり、「頑張れ、頑張れ」と声を掛け合ったりしたとも話しています。

日ごろから信頼しているコーチが誘導する祈りや瞑想と、希望を紡ぐ効果のある共同作業との相乗効果によって、少年たちの心は過剰な心配や恐れに支配されずに済んだのでしょう。

エカポンコーチが洞窟の中で少年たちと実践していた祈りについての詳細情報は取得できませんでしたが、瞑想はエカポンコーチの人物像のところでも触れた「ヴィパッサナー瞑想」のようです。

ヴィパッサナー瞑想は、マインドフルネス瞑想の一つとしてもよく紹介されている瞑想法で、そのやり方を簡単に説明すると次のとおりです。

(1)床に座布団や布を敷いてあぐら座に座り、背筋を伸ばす。あぐらがかけない環境のときは、椅子に背筋を伸ばして座る。手は膝の上にそっと重ねて置く。

(2)目を閉じて、鼻から息をゆっくり吸い込みながら、鼻先を意識する。空気が鼻腔を通る「感覚」を最も感じやすい場所をひとつ決めて、そこで呼吸の空気の流れを感じる。

(3)空気が入ってきたこと、そして出ていくことを鼻先の一点で「感じ」そして「呼吸をしていることに気づく」。

(4)途中で思考や感情が湧いたら、「考えた」「感じた」と気づいて、また鼻先の呼吸に意識を戻す。

あとは、この作業をひたすら繰り返していきます。雑誌などのメディアでもよく紹介されているやり方ですので、ご存じの方も多いでしょう。

しかし冒頭にも書いたように、この瞑想をひたすら続けていても、なかなか目立った効果が感じられないという人も少なくありません。それどころか「無になることができない」と自分を責め、瞑想が苦痛になってくる人もいるようです。

筆者は、やはりこの瞑想法を創造したブッダの思想体系をある程度理解しつつ、瞑想を実践していくことが、瞑想を長く継続するためのポイントだと考えています。

実はヴィパッサナー瞑想は「無になること」を目標とする瞑想ではないのです。なぜ思考や感情に気づくたびに、鼻先の呼吸に意識を戻すのか? これらはブッダの思想体系をある程度理解しておくと、非常に腑に落ちます。そうすることで、なぜ瞑想を継続することで心が成長し精神力が形成されていくのかも、実感することができます。

次回はこのヴィパッサナー瞑想の詳しいやり方とともに、瞑想効果を高めやすくなるブッダの「苦を滅するための思想体系」を心理学的観点から探ってみたいと思います。エカポンコーチが少年時代から実践してきた本格的な瞑想修行には到底及ばないとは思いますが、私たちもマインドフルネス瞑想の実践と理解を通じて彼の発揮した精神力やリーダーシップ力の片鱗でも身に付けていくことができたらいいですよね。どうぞお楽しみに。

[注1]参考サイト:サンガブログ「タイからの便り いのちの危機を心の危機としない ~洞窟に閉じ込められたサッカー少年たちからの学び~」(https://samgha.co.jp/blog/)
[注2]参考サイト:ABC News Australian
(http://www.abc.net.au/news/2018-07-13/thai-cave-rescue-buddhist-leader-praises-assistant-coach/9989640)
[注3]ABC Newsより引用
(https://abcnews.go.com/International/young-soccer-players-rescued-thai-cave-world-teaching/story?id=57331218)
奥田弘美
 精神科医(精神保健指定医)・産業医・労働衛生コンサルタント。1992年山口大学医学部卒。精神科医および都内20カ所の産業医として働く人を心と身体の両面からサポートしている。著書は『1分間どこでもマインドフルネス』(日本能率協会マネジメントセンター)、『心に折り合いをつけて うまいことやる習慣』(すばる舎)など多数。日本マインドフルネス普及協会を立ち上げ日本人に合ったマインドフルネス瞑想の普及も行っている。

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