中村倫也の演じ分ける力 「ジグザグ道」で身につけた
役柄ごとにガラリと印象を変える"カメレオン"ぶりが際立ち、注目を集めているのが31歳の中村倫也だ。今年に入って演じた役だけでも実に多彩。2018年1月期の連ドラ『ホリデイラブ』のモラハラ夫役で強烈なインパクトを残し、4月期の『崖っぷちホテル!』では競艇好きの料理人を演じてコメディを盛り上げた。さらにHuluで配信されたドラマ『ミス・シャーロック』では滝藤賢一とのコンビで刑事役を熱演。5月公開の映画『孤狼の血』では、ギラギラした狂犬ヤクザ役で圧倒した。
『孤狼の血』とは真逆とも言える役柄で人気を得たのが、NHK朝ドラ『半分、青い。』だ。ヒロインが恋する朝井正人役で魅了し、出演回がなくなると「マアくんロス」が巻き起こった。
「この間、舞台を見に行ったら、初老の男性に『朝、見てますよ』と握手を求められて。高齢の男性に話しかけられたことは初めてでした(笑)。電車で移動する時も、二度見されることが増えましたね。
朝ドラは、2年くらい前から『やりたい』と言っていたので、決まった時は『やったな!』と思いました。実は朝ドラは、デビューして半年くらいの時に『風のハルカ』(05年後期)に出たんですよ。その時も自分なりに頑張ってはいたんですけど、今思うと、求められていたことと僕の持ち込んだ演技プランは違ったのかなと。だから今の自分がどれくらい通用するのか、チャレンジしたいって気持ちがありました」
『半分、青い。』の演技プラン
「正人は東京編から突然現れる役で、登場からエッジの効いたことを言う。それでも視聴者に受け入れてもらえる愛嬌と、つかめそうでつかめない、その個性のさじ加減に気を使って演じました。
例えば登場シーンではインパクトが欲しかったので、猫を肩に乗せて出るというアイデアを出しました。あの猫のおかげでかわいそうに見えず、良いシーンになったなと思います。
『余白』も意識しましたね。話している最中に目線をずらしたり、声に緩急を付けたり、わざと棒読みっぽくするところを作ったり。『あの時、こう思っていたのかもしれない』と視聴者に自由に解釈してもらえるよう、本当に隅々まで気を使って演じていきました」
幅広い役柄を演じ分ける力は、13年のキャリアで培ったものだ。デビューは05年、18歳の時。映画出演に朝ドラレギュラーと、華々しいスタートを切った。
「17歳の時にスカウトされて、養成所で演技の楽しさを知って。人生2回目のオーディションで仕事が決まってデビューしました。
当時は、デビューしたらすぐに『あの子は誰?』となってスターダムにのし上がる…という夢を見てたんですけど、仕事を始めたら、アイドル誌の要望に応えられない自分がいて(笑)。でもやるからには一生かけてやりたい仕事だと思っていたので、40~60代で活躍中の先輩方がどんな仕事をしてきたのか、調べて統計を出したんですよ。そうしたら、若い頃からずっとスターの人と、35歳くらいまで小劇場とかで芝居をやってて、遅くに映像デビューした人が多いなと。僕は舞台もやってみたかったし、若い時にいっぱい失敗していろんな経験をしたかったので、コツコツ演劇をして力をつけていく、そっちの道を志しました」
06年に初舞台を踏み、年に2~3本のペースで舞台に出演。蜷川幸雄、いのうえひでのり、河原雅彦ら名だたる演出家のもとで、コメディ、シリアス、ミュージカルまで様々な芝居を経験して力をつけた。そして14年には初主演した『ヒストリーボーイズ』で読売演劇大賞優秀男優賞を受賞する。
「演劇では良い役をやらせてもらうことが多かったんですけど、映像は、マネジャーが営業に行っても門前払い。そのギャップに苦しんだり、同世代が売れる姿を見て悔しく思ったりもしました。
映像の仕事が増えたのは、連ドラの『闇金ウシジマくん Season3』(16年)が放送された頃からだったと思います。『洗脳くん』っていうけれん味の強い役だったんですけど、そういう役はやってて楽しいし、わりと得意ジャンル(笑)。『モノにしてやるぞ』という意気込みを持ってやったら、『あれ、見てました』と声をかけていただくようになりました」
脇も真ん中も見える自分に
今年は、すでに上半期だけで5本のドラマと2本の映画に出演。「中村倫也」がツイッターのトレンドワードにも登場した。今後は、映像でも主演級の俳優になっていきそうだ。
「今の状況に対して『よし!』とガッツポーズしてる僕が1いたとしたら、150ぐらいの僕はアワアワしてます(笑)。でも5年、10年前の自分に伝えたいです。『こういうこともできてるぞ』って。
最近よく『いろんな役をやってますよね』と言われるんですけど、自分の中では、役の幅は狭まったほうなんですよ。若い頃は女形とか、ハリネズミが進化した人間の役とかもやってたんで(笑)。セリフが1個の役もやったし、真ん中(主役)もやらせてもらった。その分、歩いてきた道がジグザグというか。脇道にも行きまくった分、役だけじゃなく、人としての幅みたいなものも広がったような気がします。それを狭めるのはもったいないし、知らないことを知ったほうが、人生楽しいとも思うので。これからもより挑戦的に、いろんな役をやっていきたいです」
(ライター 泊貴洋)
[日経エンタテインメント! 2018年8月号の記事を再構成]
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