2010年、マックス・プランク進化人類学研究所のスバンテ・ペーボ氏が率いる国際チームが、シベリアのアルタイ山脈のデニソワ洞窟で発掘されたヒト族の小指の骨と親知らずの歯から、未知のヒト族のDNAが発見されたと発表した。新たに発見されたヒト族は、洞窟の名称にちなんでデニソワ人と名付けられた。
その後の研究により、デニソワ人がネアンデルタール人と近縁で、約39万年前に共通の祖先から分岐したことが明らかになった。彼らは、ネアンデルタール人が絶滅に向かいはじめた4万年前頃まで生きていたようだ。
では、デニソワ人は、どんなヒトだったのだろう。外見は? 何人ぐらいいたのか? 発見されたシベリアの洞窟のまわりだけに生息していたのか? 疑問をあげればキリがない。一番の問題はデニソワ人の化石が非常に少ないことだ。科学者がデニソワ人について知るためには、同じ洞窟から発見された4人のデニソワ人の3本の歯と1本の小指の骨という、ごくわずかな手がかりに頼るほかないのだ。
動物の骨に紛れて放置されていた少女の骨片
今回の研究に使われた骨は、2012年にデニソワ洞窟で発見されたもの。分析の結果、約9万年前に13歳前後で死亡した少女の腕か脚の骨の破片であることがわかった。
幅が5ミリ程度しかないこの骨片は、見た目からはヒト族のものとはわからない。実は、同じ洞窟で発見されたライオンやクマやハイエナなどの数千個の骨片と一緒に置かれ放置されていたものだった。

数年後、英オックスフォード大学のサマンサ・ブラウン氏が、放置されていた数千個の骨片に含まれるコラーゲンペプチドを調査して、それぞれの骨がどの動物かを分類した。その過程で、今回調査されたヒト族の骨片が見つかったのだ。