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『半分、青い。』に見るNHK朝ドラの男優起用術

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NIKKEI STYLE

平均視聴率20%超えも珍しくないNHKの連続テレビ小説(朝ドラ)。男優の起用にはどんな"法則"があるのか。ヒロイン・楡野鈴愛(にれのすずめ、永野芽郁)を取り巻く面々にバラエティ豊かな男優を配置している『半分、青い。』の制作統括・勝田夏子氏(NHK制作局ドラマ番組部チーフ・プロデューサー)に聞いた。

朝ドラ人気を支えるのは、ヒロインを囲む男優たち。『半分、青い。』も魅力的な大人男優を起用している。高度成長期の終盤から現代を舞台に、鈴愛の成長を描く本作。鈴愛の人生に寄り添い続けるのが律(佐藤健)だ。勝田氏によると、佐藤は永野より先にキャスティングされたという。「佐藤さんクラスはどんどん仕事が決まってしまいます。そのため、先に押さえておく必要がありました」。

佐藤の起用には「ヒロインともども40代まで演じてもらう予定で、女優はメイクでいくらでも化けられます。特に永野さんはそういうタイプ。でも男優は難しい。ですから30歳前後で、高校生役ができる人、というのがキャストの条件でした」との理由もある。

勝田氏が本作の脚本を手掛ける北川悦吏子と組むのは初めて。北川からは当初、キャストを早く決めてほしい、とのリクエストがあった。「NHKのドラマは基本、脚本ありき。でも北川さんは、誰がそのセリフを言うのか分かったほうが、セリフをより生き生きとしたものにできます、とおっしゃいました。キャスティングは通常の朝ドラより早めに進めましたし、キャストがハマってからの脚本を読むと、確かにセリフに生きた感じが増している。脚本家の中には当て書きを希望される方もいますが、北川さんの脚本を読んで、その理由が腑に落ちました」。

当て書きならではの人物像

漫画家志望の鈴愛が上京してからは、人気マンガ家の秋風を演じた豊川悦司に注目が集まった。豊川と北川と言えば、大ヒット恋愛ドラマ『愛していると言ってくれ』(1995年)のコンビ。「豊川さんは朝ドラ初出演。北川さんの作品ということで朝ドラ出演がかないました。秋風は10代から30代女性のSNSでの反響も大きく、それ以外にも幼稚園児くらいの小さなお子さんが似顔絵を送ってきてくれました。それも何人も」。

鈴愛の初恋の相手・正人役の中村倫也も存在感を示した1人。

「正人は鈴愛だけでなく、律とのシーンも多いポジション。佐藤さんと同世代で大学生を演じられる実力派ということで中村さんにお願いしたんです」

7月からは鈴愛が新たな人生の局面に立つ展開となり、映画の助監督をする涼次(間宮祥太朗)、100円ショップの雇われ店長・田辺(嶋田久作)、芸術家肌の映画監督・祥平(斎藤工)が登場する。

「男たちは3人とも"だめんず"(笑)。そのダメさを魅力的に演じてくれる人にお願いしました。間宮さんは振り切れたトリッキーな役が多いですが、地に足の着いた演技を私自身が見たいと思ったんです。斎藤さんはご自身も役と同じ映画監督ということで、劇中で流れる短編映画のワンシーンをご自身で撮っていただきました。嶋田さんはプライベートで何度かお会いしたことがあり、素が本当にチャーミング。その部分が伝わる役になっています」

SNSが人気を"拡散"

朝ドラではヒロインの相手役が"イケメン枠"と呼ばれ、ブレイクする男優も少なくない。実際、勝田氏が演出を担当した『ゲゲゲの女房』(2010年)では向井理が、『梅ちゃん先生』(12年)では松坂桃李が飛躍した。勝田氏は男優をどんな基準で選んでいるのか。

「まずは演技。役を理解し、考え、膨らませられる読解力のある人です。かといって、頭でっかちはダメ。誠実かつ柔軟でないと。ビジュアルがどうこうというよりも、役を魅力的に生きられる人は画面でキラキラして見えるものです」

勝田氏の朝ドラ以外の作品に大河ドラマ『軍師官兵衛』(14年)がある。この作品には、いま大人気の高橋一生も出演していた。「高橋さんも中村倫也さんも、脇を引き締める実力派として活躍すると思っていました。アイドルのような騒がれ方は予想外でした」。

では、このような人気を博したのはなぜか。勝田氏はSNSの存在を挙げる。「以前なら彼らは、ファンのオタク心に訴えるというか、私だけが良さを知っている、という形で愛されてきたタイプだと思います。でもいまはSNSでファンにとってのツボや隠れた魅力が拡散され、共有されます。結果、大ブレイクにつながったのでは。いつ誰の人気に火がつくか分からない世の中ですが、いい役者さんがブレイク後、役の選択肢も広がるのはいいことだと思っています」。

SNSが引き金となり、俳優が"旬"を迎える時期に期限がなくなった今の時代。朝ドラには旬の男優も、これからさらに輝きを増しそうな男優も出演している。その魅力や持ち味を堪能したい。

(ライター 田中あおい)

[日経エンタテインメント! 2018年8月号の記事を再構成]

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