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サマータイムは健康に悪い? 余暇の拡大は「錯覚」

2018/8/31 日本経済新聞 朝刊

サマータイムでは起床が早まり、健康に影響を及ぼす可能性も(写真は東京・丸の内の通勤風景)

 夏に全国一律で時間を早める「サマータイム(夏時間)制度」。安倍晋三首相が2020年東京五輪・パラリンピックの暑さ対策として検討を指示し、是非を巡る論議がわき起こっている。余暇拡大への漠然とした期待がある一方、健康への悪影響を懸念する声は多い。大がかりなシステム改修が必要だとして、専門家は「2年での導入は不可能」と指摘する。

 「終業後に明るい時間が長ければ、平日の余暇の過ごし方が変わる」。スイスの金融機関に在籍していた1988~99年に夏時間を経験した男性(70)は「日本でも導入すべきだ」と訴える。

 夏時間の時期は仕事の後に職場の仲間とテニスやゴルフを楽しんだ。「お酒を飲むのではなく、健康的に過ごせたから仕事の効率もあがった」と肯定的だが、こうした声はさほど多くない。

 アフター5を楽しむ人々が集まる東京・新橋。ある居酒屋の男性支配人は「明るい時間に飲むビールの方がおいしいし、盛り上がるだろう」と期待する。だが、別の居酒屋店長は「うちの客はみんな常連さん。余暇が増えても客は増えないだろう」と突き放す。

 期待する声の中には「錯覚」もあるようだ。

 「早く帰宅して子供と遊んだり家事を手伝ったりしたい」。東京都江東区の男性会社員(41)は目を輝かせる。都内のコンサルティング会社で働く男性(36)も「週末にしか行けなかったフィットネスに通える」と、趣味に充てる時間を今から楽しみにしている。

 だが、夏時間でも1日が24時間なのは同じ。終業が今と比べて1~2時間早まっても、子供の寝る時間も同じだけ早くなる。終電も前倒しになる可能性が高そうだ。

 起床が早まったり、体が慣れた頃に夏時間が終わって元の生活に戻ったりすることによる健康への影響を心配する声は強い。東京都目黒区の男性会社員は「体調を崩してしまいそう。賛成する人はいるのだろうか」といぶかしむ。

 15年以上前から夏時間の問題を検討してきた日本睡眠学会は12年、「(夏時間が定着している)欧米に比べて国民の夜型化が進行している日本では健康への影響が大きく、不利益が大きい」と結論付けた。その欧州でも近年は健康面の懸念から夏時間の廃止を求める声が広がっている。

 日本でも戦後まもない1948年、「夏時刻法」を制定し、全国一斉に夏季の時計の針を1時間進める施策がとられた。資源不足対策だったが「労働時間が増えた」などと抵抗が強く、4年で終了。90年代以降、政府もたびたび導入を目指したが実現していない。

 北海道では2004~06年に、札幌商工会議所の旗振りで道内約700の事業所や官公庁が始業時間を1時間早めた。実施後の調査で参加者の7~8割が賛同し、道内の経済波及効果も約650億円と試算されたが、「本州との時差など一律導入でない難しさがあった」(同商議所)として3年間の実証実験のみで終わった。

■「あと2年では絶対に不可能」

 夏時間の実現をコンピューターシステムの面で疑問視する声もある。

 立命館大情報理工学部の上原哲太郎教授(サイバーセキュリティー)は「2020年までの実施は絶対に不可能」と言い切る。政府や企業、医療や金融などのインフラ・基幹系から家電や個人のスマートフォンまで、あらゆるシステムは時間が動作の基準で、更新や改修の必要が生じる。

 日本銀行の調査では、西暦の下2桁が「99」から「00」に変わることでシステムの誤作動が懸念された2000年問題のとき、国内の金融機関は4~5年がかりで改修を進め、計4552億円を費やした。

 夏時間の導入となればプログラムの書き換えやシステム更新などの手間は2000年問題の比ではない。上原教授は「本当にやるなら5~10年かかり、兆単位の費用がかかる」と話している。

[日本経済新聞朝刊2018年8月25日付]

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