2018/8/27

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進化と同時に手間や部材も増える

70年代に入ると集合住宅向けがマンションブームをとらえた。人が立つ床パネルに幅60センチメートルの標準タイプを作り、施工スペースに合わせて柔軟に組み合わせられるようにした。繊維強化プラスチックの油圧式プレス機も導入。金型を交換するだけで成型でき、手作業が不要になった。

バブル期にソニーと開発した音響システムなどを備えたシステムバスは870万円だった

90年代にかけては女性の社会進出を映し、長めのシャワーでマッサージ効果を得るシャワー浴や「足湯」が楽しめる浅い浴槽のバスルームも発売。AV(音響・映像)システムを備えた870万円のVIPタイプをソニーと開発するなど、バブルを感じさせるものもあった。

だが、空間を作り込む手間や部材が増え、競合他社の追随もあって事業の収益は一進一退が続いた。2008年に浴室事業部長に就いた喜多村氏は赤字で意気消沈気味の従業員と対話しながら、モデルごとにバラバラだった部材を可能な限り共通にする「プラットフォーム化」に着手。デザイン、開発、製造などの担当者が協力し、4年がかりで実現した。

14年にTOTOの社長になった喜多村氏は「部門横断で事業を革新する考え方は今も役立っている」と振り返る。今年3月、TOTOのユニットバスの出荷数は累計で1000万台を突破した。

湯を肩にかかる浴槽や間接照明など快適性と汚れにくさを追求した戸建て向けの最新バスルーム「シンラ」

近年は部材の進化が目覚ましい。水滴が流れやすい溝の形にした「カラリ床」や湯が冷めにくい断熱構造の「魔法びん浴槽」などだ。木村晋浴室開発部長(52)は「顧客の要望や考えていることを踏まえて商品化した結果が業界初になった」と話す。異例の短納期の要望に何としても応えようと生まれた初代からその遺伝子は受け継がれている。

TOTOは6月、中国・上海で開かれた水回り設備の国際展示会「キッチン&バス チャイナ」で高級システムバスルーム「ネオレスト コレクションズ」を披露した。

寝そべるような体勢で重力の負担を軽くする高級浴槽「フローテーションタブ」は脳科学に基づいて入浴中のリラックス状態を追求。温水洗浄便座「ウォシュレット」との一体型で白磁の器のように滑らかな形のトイレ「ネオレストNX」や蛇口などのデザインを高めた洗面台をそろえた。

気候や住宅構造が異なる海外ではタイル業者などとの分業が根付いており、ユニットバスの普及は簡単ではない。機能を追求してきた浴槽や部材で海外市場を切り開いていく思惑だ。

「安らぎや充実した暮らし、湯船につかる日本の入浴文化をユニットバスからも提供したい」と木村氏。TOTOは次の東京五輪を商機とみて「日本を世界のショールームに」との事業テーマを掲げる。海外の文化を取り入れて始まった世界初のユニットバス。56年の時を経て、日本の文化を発信しながらユニットバスで磨いてきた機能をもって次の飛躍を目指す。

(北九州支局長 山根清志)

[日経産業新聞 2018年8月27日付]