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すごいぞフィンランド 夏の終わりに巨大ロックフェス

ヘルシンキのFlow2018、8万4千人を動員

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NIKKEI STYLE

日本から欧州への玄関口に当たる北国、フィンランド。首都ヘルシンキで毎年夏の終わり、大規模な野外ロックフェスティバルが開かれている実態は日本でほとんど知られていない。「Flow(フロー=流れ込む)フェスティバル・ヘルシンキ」。2004年に始まった。世界一流のアーティストと地元の新鋭が同時に多数のライブを行い、毎年8万人以上が訪れる。森と湖、ムーミンとシベリウス……。フィンランドに対するステレオタイプのイメージ一新を迫る、とんがった「お祭り」だ。

 ◇   ◇   ◇

フロー・フェスティバル・ヘルシンキ2018は8月10~12日の3日間、ヘルシンキのスヴィラハティ地区で開かれた。同地区は東京の天王洲アイル、横浜の本牧などに似た往年の工場&倉庫地帯。高層住宅の建設も進むなか、かつて発電所だった一帯に10のステージ、65の飲食&バー・コーナーなどを仮設でしつらえ、144の音楽公演、18のアートプロジェクトを盛り込んだ。ライブは正午過ぎから深夜0時台まで続き、市営の地下鉄やバスが終車を延長して対応する。

チケットは3日通し券が215ユーロ(1ユーロは130円弱)、2日券が159ユーロ、1日券が99ユーロで、すべて売り切れ。過剰な混雑によるトラブルを避けるため、1日当たりの入場者数をきっちり2万8千人にコントロール、3日間合計で8万4千人が入場した計算になる。アルコール類を販売するので18歳未満は入場禁止だが、最終日の日曜(12日)は午前10時から午後5時までを家族タイムとし、子ども連れの入場を促す。宮崎駿監督のアニメ映画「となりのトトロ」のフィンランド語吹き替え版上映まで、盛り込まれていた。

20代から80代まで、世界のアーティストが集結

目玉のライブステージはとにかく、アーティストの顔ぶれがすごい。ただ有名どころを並べるのではない。女性ボーカルなら71歳の大御所で作家の村上春樹と親しく、詩人の貫禄も漂わせるパティ・スミスから新進気鋭のアフリカ系シンガーのノーネーム、ジョージャ・スミス、ノルウェー出身で世界に羽ばたいたジークリッド、輝きの絶頂にあるセイント・ヴィンセントまでを広く並べ(=横糸)、歴史の座標軸(=縦糸)も打ち出す。それぞれシンガーソングライター、ダンサー、アーティストなど多くの引き出しをそなえ、存在感や歌のうまさを競い合う。観客はたて続けに体験することで、ジャンル全体の豊穣(ほうじょう)を理解する仕掛けだ。

中でも「出世魚」、ジークリッドのステージにはトルコ、ロシア、エストニアなど多くの国の音楽ジャーナリストが集まった。そんな中、ファーストアルバムを今年リリースしたばかりのフィンランドの新人シンガーソングライターのヴェスタがメインステージに抜てきされ、地元の盛大な声援を浴びていたのがほほ笑ましい。

テクノやミニマルミュージックでも時系列を踏まえ、フィンランドへの展開もみせる教科書風のプログラムポリシーが明快。ミニマルのグル(教祖)で83歳の米国人テリー・ライリーはピアノ、鍵盤ハーモニカ、さらに歌でギタリストの息子ギャン・ライリーとからみながらジャンルの枠を楽々と超え、エスニックの領域をも取り込んだような融通無碍(むげ)の境地で魅了した。そういえば、同じく米国から来たパティ・スミスもギタリストの息子、ジャクソン・スミスとの共演。ここにも、世代間の継承という縦糸が垣間見えた。

ドイツから訪れた1967年結成のタンジェリン・ドリーム、78年結成のDAF(ドイッチュ-アメリカーニッシェ・フロイントシャフト)もエレクトロミュージックの始祖の貫禄と、現在なお強烈な表現精神の切れ味で気を吐いた。オリジナルメンバーが何人か亡くなったタンジェリンでは2011年以降、日本人バイオリン奏者の山根星子が加わっていて、即興演奏を披露した。背筋がゾッとするほど驚いたのは、明らかにドイツ系の影響下でスタートしたと思われるフィンランドの2人組(ドラムとシンセサイザー、ベース、ボイス)、K-X-Pの凶暴なサウンドだ。カルト集団かヒョウの群れを思わせる黒装束と頭巾、情け容赦の一切ないクールな大音量で聴き手を金縛りにする。合わせて踊るうち耳も完全にマヒ、メカの一部になったような錯覚に陥り、見事、彼らの術中にはまってしまった。

 初日のパティ・スミス以外にも、メインステージには外来の大物アーティストが次々に現れた。2日目はニューヨークのフォーク風ロックバンド、グリズリー・ベアが初のフィンランド公演にもかかわらず自分たちの信じる音楽をじっくりと聴かせ、感心した。隣りでは記者と同世代とおぼしき小太りのフィンランド人女性が楽しそうに踊り、最後に「このグループ、好きなの?」と尋ねたら、「もちろんよ! あなたも好きそうに見えたわ」と返してきて、感動のハイタッチ。中高年にも優しいフェスティバルだ、と涙した。次のステージには一転してイングランドのバリバリ一線、アークティック・モンキーズが現れ、シニカルで力強い英国サウンドで若者たちを熱狂させた。リードヴォーカルのアレックス・ターナーは、にこりともしないポーカーフェース。それがまた、クールに決まる。

だが彼らの誰にも増して見事、最多の観客から最大の歓声を浴びたのは最終日の最終メインステージを飾ったカリフォルニア出身のラッパー、ケンドリック・ラマ-だった。中国のカンフー映画風のビデオで雰囲気をなごませながら、今を生きるアフリカ系アメリカ人の複雑な思いを歌に託す。「動」よりは「静」の姿勢で切々と訴える姿には並外れた求心力があり、総立ちの観客の多くが歌詞をそらんじていて一緒に歌い、手を上げる。人口550万人の小国ながら、教育水準は世界で最も高いとされるフィンランドの面目が躍如とした瞬間でもあった。ケンドリックは今年4月、ラッパーとして初めてピューリッツァー賞の音楽部門を受けた。その勢い、アーティストとしての威力はフィンランドでも何ら減じることなく、フェスティバル全体を見渡しても、輝きの頂点に立っていた。

一方、他のステージと逆方向、正面ゲート近くに設けられた円形ステージ「バルーン360度」では、フィンランド独自の音楽をいくつか聴けた。民族楽器のカンテレを交互に弾きながら歌う女性4人組、カルデミンミットはちょっと日本の歌謡曲風でもあり、昼下がりのまったりした雰囲気に合っていた。トランペット奏者のユッカ・エスコラ率いるジャズのビッグバンド、UMOは個々の奏者の技量も高く、古典からフュージョン、創作まで多彩なレパートリーを巧みにこなす。北欧の「白いジャズ」の魅力を久しぶりに堪能した。

随所に設けられたDJブースでも終日、多彩な音楽が分け隔ても切れ目もなく流れ、大勢が踊り続ける。最終日の「お開き」間近に、自身がLGBT(レズビアン・ゲイ・バイセクシュアル・トランスジェンダー)である事実をカミングアウト(公表)しているセイント・ヴィンセント、アフリカ系アメリカ人の立場を強く主張するケンドリック・ラマ-の2人を「トランプ時代のアメリカ」から迎え、人権擁護や軍縮の分野で世界の先頭を走ってきたフィンランドの人々の社会意識、視点をフェスティバルの場でも鮮明に表した。

 コンセプトの徹底は飲食、環境対応においても際立ち、単なる音楽イベントに終わらせまい、現代のライフスタイル全体に刺激を与えたい……との強い意思を感じた。

公共交通機関の利用を繰り返し勧め、会場内の電力はクリーンエネルギー、飲食の皿は紙製、ナイフやフォークは木製ですべて回収、再生が前提だ。ビール缶、プラスチック製ワイングラスには1ユーロのデポジットを設定、回収ブースで空き缶・グラスと引き換えに返金する。ゴミ箱も4種類の分別を指定。フェスティバルの幹部がヘルシンキ市内を食べ歩き、直接出店を要請するという飲食店の数々も健康志向、エスニック風味で異彩を放つ。記者も日ごと、「メキシコと北欧、韓国が融合した革命のタコス」「鶏肉の代わりに豆腐を使ったタイカレー」「焼きチーズとクスクス、サフランパンのフムス」など、日本ではなかなか味わえない「持続可能食(サステイナブルミール)」の数々を楽しみ、大いに飲んだ。

 ◇   ◇   ◇

フェスティバルの仕掛け人、カッリオ会長に聞く 「日本からも聴きに来て!」

フローの創立者で芸術監督、「オーナー」と呼ばれる3人組の筆頭に立つトゥオマス・カッリオ会長を会場内のプレステントでつかまえ、10分ほどのインタビューを試みた。

--アーティストから料飲店に至るまで、独自の美意識で選んでいますね。

「自分たちは自分たちのために何ができるか、が根本です。音楽プロモーターであれば聴衆の獲得を最優先するでしょうし、(背後で動かしている)自分たちの顔も見せない。私たちは前面に出て、信じる価値観をきちんと示します。音楽から食べものまで、似た思いを共有する人々のため、最もわかりやすいものを大量に提供する基本さえ見すえれば、何でもありだと考えてきました。7人の企画チームはアーティストを選ぶのと同じ感覚でヘルシンキの街中を歩き回り、自分たちが好きになれる飲食店だけを選びます。それが有名どころから実験的なものまで、ダイバーシティー(多様性)に富むプログラムを可能にしているのです」

--主な来場者はヘルシンキ中心、フィンランド人ですか? 国外への発信は?

「昨年の来場者の83%がフィンランド国内、残り17%が英国、ロシア、スウェーデン、エストニアなど国外でした。オーストラリアや米国からもぼちぼち。日本人はまだ少ないですね。年齢は子どもから高齢者まで分散していますが、中心は25~34歳です。国外ではロンドン、ベルリン、パリ、サンクトペテルブルクの広告代理店と契約して広報宣伝活動を行い、欧州域内での知名度はかなり上がってきました。過去にベルリン、タリン、英国内などで小規模のイベントを打ったほか、15年にはスロベニアで、かなり大規模な姉妹フェスティバルを行ってはみたものの、レギュラー開催には発展していません。将来的には欧州の外でも、もっとよく知られたフェスティバルに成長させたいです」

--来年(2019年)はフィンランドと日本が外交関係を結んでから100周年に当たり、いくつかの記念イベントも企画されています。ただムーミン、サウナなど定番への回帰が目立ち、フロー・フェスティバル・ヘルシンキ2019はまったく表に出ていません。

「残念! フィンランドの航空会社、フィンエアーは東京(成田)、名古屋(中部)、大阪(関西)などから毎日、ヘルシンキに直行便を運行しています。同社は近年、1枚の搭乗券で乗り継ぎ地に最大5泊できる『ストップオーバー』を積極的に導入してヘルシンキ滞在を強く勧めています。今後は日本の皆さんもぜひヘルシンキの滞在を延ばし、フロー・フェスティバルを体験していただきたいです。日本にはフジロックフェスティバルをはじめ、素晴らしい音楽の夏季イベントがあると聞いています。フローにもきっと、ご満足いただけるでしょう」

--最後にフェスティバルの年間予算規模をご教示ください。

「総予算は約700万ユーロです。チケットセールスで3分の2をまかない、後は企業スポンサー、物販や料飲の売り上げなどです。ヘルシンキ市からの補助金は3万ユーロにとどまり、ほぼ完全な民営と言っていいでしょう。ただ市は公共交通機関の深夜運転延長をはじめ全面的な協力態勢で臨んでおり、絶えず共同歩調をとって来たとの思いはあります」

◇   ◇   ◇

「夏の欧州音楽祭」の定番離れ、未知との遭遇を ~取材記者の雑感~

記者は長くクラシックやオペラ、ミュージカルの音楽取材を続け、夏の欧州ではオーストリアのザルツブルク音楽祭、ワーグナー楽劇の聖地であるドイツのバイロイト音楽祭など主にドイツ語圏の老舗音楽祭を訪れる機会にも恵まれてきた。そこは日本のホールや劇場で顔見知りのコアなファン、同業者らと互いの熱意を確かめる場でもあった。だが60歳還暦を目前に控えた今年は突如、未知のフェスティバル2つと遭遇するはめに……。

最初は7月7~13日、フランスのボルドー西方70キロに位置するリゾート地のレージュ・キャップ・フェレ市で開かれた「第8回キャップ・フェレ音楽祭」。大阪国際音楽コンクールの提携先でもあり、同コンクールの審査に毎年来日するフランス人の女性ピアニストでプロデューサーのエレーヌ・ベルジュが主宰している。

世界から集まった音楽学生、教師を兼ねた名演奏家が1週間にわたり演奏会、講習会に参加すること自体は国際教育音楽祭の定番だが、滞在スタイルが全く異なる。大西洋に続くアルカション湾に隆起した砂地の半島、キャップ・フェレは日本からも養殖技術を導入したカキの大産地。レセプションでもランチでも、山ほどの生カキと地元産ワインが振る舞われる。ホテルがほとんどないので、宿泊はボランティア宅へのホームステイで対応。どの家もビーチに近い。徒歩数分で海水浴が楽しめ、人数がまとまれば湾内クルーズにも繰り出せる。カキが苦手な人には禁忌という点でも、「選ばれた」音楽祭だった。

そして、フロー・フェスティバル・ヘルシンキ2018。フィンランド外務省が本格プロモーションに乗り出し、世界各国から総勢60人のプレスツアーを企画した。最年少はロンドン在住の20歳で、記者が最年長。最先端の音楽を報道する主体が紙媒体から電子媒体へと完全に移行した実態を思い知らされる顔ぶれだ。個人の動画サイトから情報を拡散するインフルエンサー、ユーチューバーと呼ばれるライターたちも多く参加していた。

最初は「音楽から食までのライフスタイル型イベント」の実態が見えず、当惑したものの、いざ現場に身を置けば、世界一流のアーティストが夏に北欧ツアーに出かけるトレンドをとらえ、たった3日間で「良いところ取り」が可能な企画の素晴らしさに感心した。個人的には過去25年間で7度目のフィンランド訪問だったが、今までのヘルシンキ滞在で見落としてきた別の文化のありさま、市民意識の一端に触れた。絶え間なく新しい刺激を受けるだけの好奇心、体力、分析力を磨く必要を痛感したのだった。(敬称略)

(NIKKEI STYLE編集部 池田卓夫=ヘルシンキにて)

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