2018/8/28
「理数女子ワークショップ」で数学を使った問題を作成する子どもら(東京都目黒区の東大駒場キャンパス)

次世代に数学の楽しみを伝えるなどのイベントを通じ、数学を学ぶ女性の交流も始まった。「数学で自分だけの暗号を作ってみよう」。8月、数学に関心がある女性に向けて情報を発信するウェブサイト「数理女子」を運営する大学の研究者らが企画したイベントに、女子小中学生ら29組の母娘が集まった。

「数理女子」世代超え交流

自作の暗号を発表して、互いに解読しあう。小学4年生の山本紗瑛さん(10)は「すぐ解読されないよう、文字を小さくしたりして情報を隠せた」と誇らしげだ。同6年の舟越ちなつさん(11)は「数学は魔法。一つの問題を色々な方法で解けた時が楽しい」と目を輝かせた。

学生や社会人がスタッフとして参加し、その間で世代を超えた女性ネットワークもでき始めた。東京大学3年の田渕あゆさん(20)はイベントを通じ「大学院生や社会人の先輩とつながれる。今後の仕事のことなども気軽に相談できる」と話す。

数理女子を立ち上げたのは、東京大学准教授の佐々田槙子さん(33)。きっかけは自身の体験。大学時代に数学科の女性は佐々田さんだけ。当時は「就職先がない」などのネガティブで特異な印象を抱く人が多く、周囲には親や先生に反対されて進学を諦める人もいたという。

佐々田さんは「偏見をなくしたい」という思いで2013年に数理女子のホームページを作った。イベントのお知らせ掲載から開始し、16年には数学を学んだ女性の活躍をまとめた記事も載せ始めた。佐々田さんは「女性がたくさん活躍していることを知ってほしい」と訴える。

佐々田さんと一緒に数理女子を立ち上げ、運営する慶応義塾大学教授の坂内健一さん(46)は「数学の世界でコミュニケーションがこれまでに比べて重要になっていると感じる」と話す。人工知能など他分野で数学の知識が求められるようになり、専門外の人とアイデアを共有する機会が増えているからだ。

坂内さんが授業で大学院生に助手を頼むと、女性の方が落ちこぼれそうな学生に助言したり、学生の様子を細かく伝えたりと周囲への配慮ができていた。「今後、数学を生かすには、より協調性が求められる。女性が活躍できる場はさらに広がるだろう」と坂内さんは期待する。数学は女性が社会で活躍するための武器になる。

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悩まずに学べる環境を ~取材を終えて~

様々なイベントやウェブサイトを通して、数学が好きな女性に世代を超えたつながりが生まれている。先輩の体験談は数学の世界に飛び込むためのきっかけや支えになるだろう。人工知能(AI)の開発や金融業界など、数学の素養が求められている分野も広がる。学問的な面白さだけでなく、多彩なキャリアにつながるという魅力が伝われば、数学を学ぶ大きな動機になる。

数理女子のパンフレットのデザインは、数学を連想させる図形のほか、赤いワンピースを着た女性やハートマークなどが並ぶ。「女性らしさを押しつけているという声もあった」(佐々田さん)が、まず女性に「活躍できる分野」であるとのアピールを狙った。就職先が無いかもしれないなどと思い悩みながら数学の道へ進むのではなく、誰でも関心があれば学べ、数理女子という言葉を使わずに済むようになればいいと感じた。

(遠藤智之)

[日本経済新聞朝刊2018年8月27日]