
南北アメリカ大陸で定番化しているこのソース、発祥はアルゼンチンとのこと。
この国は日本から見てほとんど地球の真裏に位置するゆえ、多くの日本人にとって「タンゴ」や「サッカー」のイメージしかないかもしれない。しかし、中南米にいると、アルゼンチンは「牛肉のうまい国」という位置付けである(サッカーが盛んなのはどの国も同じ)。
この国には「アサード」という、スペイン語で「焼く」という意味を持つ伝統料理がある。簡単に言えばバーベキューのこと。牛肉をメインに、鶏・豚など塊肉を岩塩だけで味付けし、弱火でじっくりと1~2時間かけて焼いて食べる。
「ガウチョ」と呼ばれるカウボーイたちが草原で牛肉を焼いて食べていたのが始まり。荒くれ男のバーベキューだから、味つけもスタイルもシンプルで豪快なのが特徴だ。
大阪の「一家に一台たこ焼き器」ではないが、アルゼンチンも一軒家には必ずアサードの炉がついている。そして、毎週日曜日になると家族や友人が集まり、一家のお父さんがアサードをふるまうのだと、私のスペイン語の先生であるアルゼンチン人が教えてくれた。

アルゼンチン以外の南米や中米の国にもたいていアサードのレストランがあり、誕生日などのハレの日や景気をつけたいときには「よし、アルゼンチンの牛肉を食いに行こうぜ!」という話になる。世界的にも有名なアルゼンチンのワイン産地・メンドーサの赤ワインと合わせれば最高のディナーだ。
ブラジル式バーベキュー「シュラスコ」の店も見かけなくはないが、アサードのレストランのほうが多い。日本で「和牛=高級、おいしい」と思われているように、中南米ではアルゼンチン産牛肉がひとつのブランド、ごちそうなのだ。
OECD(経済協力開発機構)によれば、アルゼンチンは1人当たりの牛肉の年間消費量が約41キログラムで、ウルグアイの約43キログラムに次いで世界第2位。3位はブラジルで約26キログラム、日本は22位で約7キログラムなので、上位2カ国は飛びぬけて「肉食」だということがわかる。
世界的にも桁外れに牛肉を食う国民が牛肉のおいしい食べ方を知らないはずがない。チミチュリはアサードに欠かせないソースであり、ということは牛肉を最もおいしく食べるために編み出されたと言えるかもしれない。