運動部経験ある男性 心筋梗塞などの死亡リスク低く
ただし成人後も運動習慣がある場合に限る
中学校と高校での部活動は、日本独特の文化の1つといえるでしょう。では、中学・高校時代に運動部で活動していたことは、中高年になってからの健康に影響を及ぼすでしょうか。このほど報告された研究で、中高年になっても週に5時間以上運動している男性の場合、中学・高校時代に運動部での活動歴がある人の方が、冠動脈疾患(心筋梗塞、狭心症など)による死亡リスクが低いことが明らかになりました。
これまでの研究で、運動系の部活動への参加が、日本の思春期世代の血中脂質(コレステロールや中性脂肪)量や血圧などに好ましい影響を及ぼすことは示されていました。しかし、思春期の運動経験と成人後の運動レベルを組み合わせて、その後の循環器疾患(心筋梗塞や狭心症、脳卒中など)のリスクとの関係を調べた研究はほとんどありませんでした。そこで、ハーバード公衆衛生大学院のKrisztina Gero氏ら日米の研究者は、日本の大規模な集団のデータを分析することにしました。
日本人の40歳以上の男女7万人のデータを分析
JACC Study[注1]という大規模疫学研究に参加している40~79歳の11万585人のうち、日常的な運動の頻度、中学と高校で運動部の活動に参加していたかどうかが明らかだった7万569人(男性2万9526人、女性4万1043人)を分析対象にしました。
2009年末までの中央値16.4年で、4230人が循環器疾患によって死亡していました。このうち、870人が冠動脈疾患、1859人が脳卒中による死亡でした。
(1)冠動脈疾患(心筋梗塞、狭心症など)
(2)脳卒中(脳梗塞、脳出血、くも膜下出血など)
(3)その他(心不全、動脈瘤など)
運動習慣と循環器疾患による死亡の関係の分析は、結果に影響する可能性がある、年齢、高血圧、糖尿病、BMI(体格指数)、飲酒習慣、喫煙習慣、睡眠時間、雇用状況、学歴、精神的なストレスの程度、魚の摂取頻度、1日の歩行時間などを考慮して行いました。
「中高時代に運動部+成人後も運動」が良い結果に
分析の結果、調査時点で積極的に運動していた人の循環器疾患による死亡リスクは、男性では明らかに低くなっていました。
[注1] The Japan Collaborative Cohort Study:日本人の生活習慣ががんとどのように関連しているかを調べる目的で、1988年から1990年までの間に40~79歳の男女11万585人を登録し、追跡している研究
運動時間が週に1~2時間の人々を参照群として(1時間未満の人は何らかの病気を抱えている可能性があるために参照群とせず)、循環器疾患による死亡リスクを比べると、運動時間が週5時間以上の人々のリスクは、男性では23%低くなっていました。一方女性では、リスクは18%低い傾向が見られましたが、統計学的に意味のある差(有意差)には至りませんでした。
循環器疾患のうち、冠動脈疾患に絞って死亡リスクをみたところ、運動時間が週5時間以上の男性では35%低い傾向を示し(有意差はなし)、同様の女性では60%低下していました。脳卒中による死亡のリスクは、男性では差は見られませんでしたが、女性では35%低い傾向が認められました(有意差はなし)。
続いて、思春期の部活歴も組み合わせて分析しました。この分析では、男女をそれぞれ、調査時点で週に5時間以上運動していた集団と、5時間未満だった集団に分け、さらに、運動部での活動歴がある人々とない人々に分けました。「週5時間以上運動していた、部活歴のない集団」を参照群とし、比較したところ、週5時間未満のグループでは、部活歴の有無にかかわらず、循環器疾患死亡のリスクは男女ともに上昇、または上昇傾向を示しました。
一方、「週5時間以上運動していた、部活歴のある集団」では、男性では、参照群と比較して循環器疾患による死亡と脳卒中による死亡には差は見られませんでしたが、冠動脈疾患死亡のリスクは76%低下していました。女性では、循環器疾患死亡、冠動脈疾患死亡、脳卒中死亡の全てに差は見られませんでした。ただし女性の場合、それら死亡を経験した患者が少なかったため、精度の高い推定は行えませんでした。
今回の研究結果は、男性で、成人後も積極的に運動をしている人では、思春期の部活参加が、循環器疾患による死亡リスクの低下をより大きくする可能性を示しています。
論文は、2018年5月16日付のPreventive Medicine誌オンライン版に掲載されました[注2]。
[注2] Gero K, et al. Prev Med. 2018 Aug;113:102-108. doi: 10.1016/j.ypmed.2018.05.012. Epub 2018 May 16.
医学ジャーナリスト。筑波大学(第二学群・生物学類・医生物学専攻)卒、同大学大学院博士課程(生物科学研究科・生物物理化学専攻)修了。理学博士。公益財団法人エイズ予防財団のリサーチ・レジデントを経てフリーライター、現在に至る。研究者や医療従事者向けの専門的な記事から、科学や健康に関する一般向けの読み物まで、幅広く執筆。
[日経Gooday2018年8月1日付記事を再構成]
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