消費者直結、ファッション特化クラウドファンディング
キャンプファイヤーの「CLOSS」
「服が売れない」ともいわれる中、ブランドがエンドユーザーに直接商品を訴えかけることができる場として、クラウドファンディング(CF)が関心を集めている。ファッションに特化したCFサービス「CLOSS(クロス)」を運営するのがキャンプファイヤー(東京・渋谷)だ。CLOSS担当者の恵島さくらさんに事業の狙いと特徴を聞いた。
――キャンプファイヤーはどのようなサービスを行っていますか。
「キャンプファイヤーはCFのプラットフォームを運営している会社です。CFにも寄付型、投資型などいろいろな種類があるのですが、キャンプファイヤーでは基本的に購入型のプラットフォームを運営しています。ただし、条件付きで一部寄付型も提供しています」
「購入型のCFとは、何かやりたいという方が支援を募るプロジェクトを立ち上げ、そのプロジェクトに共感する支援者から資金を募ります。その後、支援者にリターン(返礼品)を戻すかたちになります」
■横並びが気にならない仕組みをつくりたい
――ファッションのみに特化したCLOSSを立ち上げた理由は。
「もともとキャンプファイヤーにもファッションカテゴリーは用意してあったのですが、ファッション業界には見えないヒエラルキーのようなものを感じることが多々ありました。パリやミラノなどに出ているデザイナーズブランドと、マス向けのものでレイヤー(層)が分かれているんです。実際、各ブランドにヒアリングを行っていく中でも『ブランディングにかかわるようなカテゴリーのものと横並びになるのが嫌だ』という意見もありました」
「それはウェブ上だけじゃなく、実際に出店される場所なども同じ考え方。隣に並ぶブランドや店をすごく気にされるんです。ファッション業界の皆さんに使ってもらうとなると、このヒエラルキーのトップであるデザイナーズブランドから取り込まないといけないということで、ファッションに特化させたCLOSSが立ち上がることになりました」
――CLOSSでは横並びを気にしないために何を行っていますか。
「キャンプファイヤーでは誰でもプロジェクトを掲載することができますが、CLOSSではブランド側が並びを気にせず使ってもらえるプラットフォームにするために、掲載するプロジェクトをこちら側で選んでいます」
「ファッション業界ではどんなブランドが参加しているのかがすごく重要です。なので、ANREALAGE(アンリアレイジ)や、FACTOTUM(ファクトタム)、また2017年は109とのインフルエンサー企画など、多くのファッション好きの人が納得するブランドのプロジェクトを掲載するようにしています」
――CFを使うことで、ファッションブランドはどのような課題を解決できるのですか。
「例えば、昔はデザイナー本人がクリエーションを発揮した商品を作ったら、バイヤーが世に紹介したい商品を選ぶという本当の意味でのバイイング(買い付け)ができていたように思います。しかし、服が売れない時代とも言われている中で、今はバイヤーの商品の選別の仕方もすごく変わり、『売りやすい商品かどうか』という判断がフィルターとして掛かりやすいのではないかと」
「そんな中、CFを使えば、バイヤーを通さず、ブランドからエンドユーザーに直接訴えかけることができます。それにより『売りやすい商品』というフィルターは通らなかったけど、実際にはユーザーには需要があったものをブランドが分かるようになるんです」
■大手企業がテストマーケティングとして利用する場合も
――CFを新しい販路として見ている人も多いですね。
「最近では新しい商品を作ったときのテストマーケティングとして利用したり、プロジェクトのリターン(返礼品)を予約販売として見るブランドや企業も多くなり、利用してもらう機会が増えていますね」
――CFと日本のファッション業界との相性はどうですか。
「キャンプファイヤーの方では、ALL YOURS(オールユアーズ)というブランドが24カ月連続の隔月CFプロジェクトを行っているのですが、現在の総支援額が5000万円を超えているんです(8月19日現在)」
「それだけの支援額を獲得するほど多くのユーザーの共感を得て、CFを通したブランドのファンづくりにも成功している。こういった成功例とも言えるブランドが出ているという意味では日本のファッション業界とCFの相性は良いのではないでしょうか」
――CLOSSで、これまでに最も成功した事例を教えてください。
「CLOSSの中で一番反響があったのは、実の兄弟2人が手掛けるデニムブランド『EVERY DENIM(エブリデニム)』のキャラバンでデニムの移動販売をしたいというプロジェクトです。最終的に、700万円以上の支援が集まりました」
「前述のALL YOURSと同じく、EVERY DENIMもCFには積極的で、今までにも数回プロジェクトを実施しています。このプロジェクト実施期間のPRの組み方も非常にうまくやっていて、テレビ出演などもしたので、目標金額よりずっと高く集めることができたように思います」
■ブランドの発信力が鍵になる
――そうした事例もある中、ファッションのCFをもっと広めるために、どのような課題がありますか。
「サービスを開始した2年前よりハードルは下がったとは思いつつも、デザイナーズブランドがそこに率先して入ってくるかというと、そうではありません。加えて、CFは企画からリターン(返礼品)履行までプロジェクトが細分化されるので、プロジェクトの組み方や発信する力が非常に大事。しかし、クリエーションだけでなくそこまでしっかりできる方はまだ少ないように思います」
「だから、今後はよりサービスを利用してもらうためには我々はサポートの仕方を考えなければいけません。プロジェクトオーナーの声をしっかりと届けることが重要なので、CLOSS側で一から十までやってしまうと、本来のCFと本質が違ってしまう。ブランドがクリエーション以外の部分もうまくできるようなサポートをもっとできないかと日々模索中です」
――CLOSSの今後の目標は。
「立ち上げのころから言っていることではありますが、『ファッションの民主化』をうたっているので、今後ブランドを立ち上げたとき、新しい商品を作ったときの販路の一つとして挙がるようになりたいです」
「今ようやくEC(電子商取引)がそこまできたレベルだと思いますが、新しいブランドを立ち上げたとき、販路のひとつとしてCFもやる、という選択肢を一般的にしたいですね。そして、ファッションだったら一番にCLOSSがイメージされるような立ち位置になりたいなと思っています」
《会社概要》
社名:キャンプファイヤー 設立:2011年1月 所在地:東京都渋谷区 資本金:約19億円 事業内容:クラウドファンディングプラットフォーム「CAMPFIRE」「polca」、評価型与信モデル融資「CAMPFIREレンディング」、アパレル製造プラットフォーム「STARted」などの企画・開発・運営
文:FACY編集部 岩崎佑哉(https://facy.jp/) 写真:加藤潤
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