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すると、「私はシンクロの五輪メダリストだ」「日本人の小谷実可子という女性だ」といった、まとっていた鎧(よろい)のようなものが一つひとつ剥がれていくような感じがしました。「人生のすべてであるシンクロ」「世の中で最も努力した人がたどり着ける五輪」といった考えもすっ飛んで、「なんだ、地球規模で考えると、私はイルカと同じただの一生命体じゃないか」と、生まれたての赤ん坊に戻ったような気がしました。

イルカと泳ぐうちに、それまでまとっていた鎧が剥がれていくような気がしました

自分を生んでくれた両親に感謝し、生かされていることに感謝し、生きているから誰かの役に立ちたいとも思いました。そして、私は何ができるんだろうと考えたときに、やっぱりシンクロだと。シンクロを通じて、人々がやりがいや喜びを感じられるような場をつくりたいと思ったんです。

こう思えるまで時間はかかりました。でも遠回りしても気持ちを整理して、シンクロに心から携わりたいと思えたことが、原動力となって今の仕事につながっています。

バルセロナ五輪で補欠に終わったことは、やはり私にとって未来の仕事に続いた意味のあることであり、苦しんで悩んだ時間も自分にとって必要な時間でした。ささいなことですが、シンクロを頑張っている娘が補欠になってしまったときに、「分かるよ! その気持ち」と声をかけてあげられたんですよね。それも自分が補欠を経験したからこそです。

シンクロを学ぶ生徒から教わったこと

現在、立教大学では授業で大学生に、スクールやスポーツクラブでは子どもたちや40~60代の女性たちにシンクロを教えています。子どもたちも大学生もおばさまたちも、レッスンの最後は団体演技の発表会を行います。最初は脚が上がらなかった50代の女性も、レッスンを続けるうちにピョンと上がるようになって、その自己成長や達成感に「上がったー!」と素直に大喜びされています。発表会はどの年代も真剣そのものです。そうした姿に鳥肌が立ち、またそれが見ている人の胸を打つんですよね。

私はシンクロというスポーツの魅力ややりがいを、多くの人々に伝えているつもりでしたが、逆に、自己成長による湧き出る喜びや笑顔が、こんなに人を生き生きさせるのだと、あらゆる年代の生徒さんたちから教わりました。それがまた、私が日々を生きる糧となり、活力になっています。

(ライター 高島三幸、カメラマン 鈴木愛子、ヘアメイク 住本由香)

小谷実可子さん
 1966年東京都生まれ。幼少の頃からシンクロナイズドスイミングの才能を開花させ、高校のときに単身米国にシンクロで留学。88年のソウル五輪でソロ・デュエットともに銅メダルを獲得。休養中に長野五輪招致に携わる。92年のバルセロナ五輪日本代表になるが、出場の機会を得ず引退。現在はスポーツコメンテーターや、「東京2020オリンピック・パラリンピック招致アンバサダー」を務めるなど国際的に活動する一方、指導者として、スポーツクラブや大学などでシンクロの魅力を伝える。

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