宇宙に「あうんの呼吸」ない 極限で磨いたリーダー力JAXA理事・宇宙飛行士の若田光一氏(上)

――普段は穏やかなのに厳しいですね。

「怒ったとしても、キレてはいけないんですよ。一度、信頼を失う言動をしてしまうと、関係修復にものすごい労力がかかったり、修復できなかったりする。英語で言うと『バーン・ザ・ブリッジ(懸け橋を焼き払う)』。怒りを示すバランスは考えましたね。常に同じパターンのリーダーシップをとっていたら、うまくいかないことが多い。訓練で学んだことを生かしました」

地球にいない地球人は6人だけ

2014年の宇宙ステーション船長時代、若田さんを中心にチームが結束した(JAXA/NASA提供)

――船長を務めたころはロシアがウクライナ南部クリミア半島の併合を宣言し、米国との対立が深刻でした。宇宙ステーションで米ロの飛行士を率いるのは難しかったですか。

「うーん、答えはイエスですね。米ロ政府が宇宙ステーションについては運用を継続する方針を明確にしてくれたので作業はしやすかったです。ただ宇宙ステーションでも、ニュースはライブで見られるんです。米NBCの放送内容と、ロシア・チャンネル1の放送内容は当然、見方が違っています」

「夕食ぐらいは一緒に食べようと言いました。米国人は夕食を早く済ませて早く寝てしまうことがある。ロシア人は朝礼ぎりぎりまで寝て、夜は遅い。心理的な負担を考え、一緒に食事をするのは金曜日と土曜日だけにしました」

「ただ、私は毎日、まず米国の仲間と食事をとり、その後はロシアの居住棟にお茶を飲みに行きました。船長としてパイプ役になろうとしたわけです。メンバーとは『地球にいない地球人は我々6人だけだ。宇宙ステーションの安全な運用と利用のため、きちんと連携しよう』と話しました」

――頼りたくなる理想のリーダーはいますか。

「困ったなあと思ったとき、私の1回目と2回目の宇宙飛行で米スペースシャトル船長だったブライアン・ダフィーさんを思い出します。ダフィーさんならどうやっていたかなと考えると、答えが出てくるんですね」

「一緒に働くと自然に難しい課題を克服できたということがあったんです。部下一人ひとりの能力やモチベーションをきちんと把握しているのです。地上でビールを飲みに行ったときなどにいろいろな質問をしてきて、準備状態を確認しているんですね」

「初めてのフライトで、私はまだひよっこ。それなのにダフィーさんは、日米2基の衛星をスペースシャトルからつかまえる仕事を全部、私に任せたんです。実力よりちょっと上ぐらいの仕事をさせる。次の世代を育てることをものすごく注意してやっている方だった。あの統率力は素晴らしい。檄(げき)を飛ばすわけではないのです。水のように透明な存在。理想のリーダーです」

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