検索朝刊・夕刊LIVEMyニュース日経会社情報人事ウオッチ
NIKKEI Prime

朝夕刊や電子版ではお伝えしきれない情報をお届けします。今後も様々な切り口でサービスを開始予定です。

検索朝刊・夕刊LIVEMyニュース日経会社情報人事ウオッチ
NIKKEI Prime

朝夕刊や電子版ではお伝えしきれない情報をお届けします。今後も様々な切り口でサービスを開始予定です。

検索朝刊・夕刊LIVEMyニュース日経会社情報人事ウオッチ
NIKKEI Prime

朝夕刊や電子版ではお伝えしきれない情報をお届けします。今後も様々な切り口でサービスを開始予定です。

NIKKEI Primeについて

朝夕刊や電子版ではお伝えしきれない情報をお届けします。今後も様々な切り口でサービスを開始予定です。

/

絶品ハンバーグ 肉をこねるほどおいしくなるのか?

男のハンバーグ道(2)

詳しくはこちら

NIKKEI STYLE

日本経済新聞出版社の新書、日経プレミアシリーズ『男のハンバーグ道』からの第2回。ハンバーグ作りのキモはこね方にあり、こねればこれるほどおいしくなる――。日本人にそんな「こね神話」があるという。著者は、ハンバーグのこね方について検証を始めた。

こね方が、ハンバーグのおいしさを決める――。よく耳にする言葉だ。

本稿を書くに当たり多数のレシピを調べたが、焼く前の工程、つまりひき肉に副材料を加えた「肉だね」の作り方に文字数を割いているものが多かった。

「こねる前に肉をしっかり冷やす」と書いてあったり、「手で粘りが出るまでこねる」、あるいは「手で○回ほど握るように練る」と具体的な数字で示していたり、「このような状態になるまで練る」と写真を提示していたりと、かなり細かく描写されている。やはり「こね方」こそがキモである印象を受ける。

ハンバーグは、肉だねを作って焼くだけ、というシンプルな料理だ(煮込みハンバーグなどもあるが、ここでは「焼きハンバーグ」を対象にする)。シンプルだからこそ、こね方の違いが如実に味に反映される。それゆえレシピでもこね方への言及が多くなる、ということだろうか。

そこで、まずはこねの問題を考えてみたい。最初にキモの部分をおさえておけば、ハンバーグとはいかなる料理かが見えてきて、それにふさわしい肉や副材料も考えやすくなるだろう、との読みである。では、なんのためにこねるのかを調べよう。その目的を知れば、いかなるこね方がベストか、どれぐらいの時間こねるべきか、といった課題に取り組みやすくなるはずだ。

ハンバーグはジューシーなほうがおいしく感じられるが、それを実現するには、2つのことが求められる。肉からたっぷり水分を引き出すことと、その水分をできるだけハンバーグ内に閉じ込めることだ。

たっぶり水分を引き出すには、一番最初に塩を入れる必要がある。

水分を閉じ込めるスポンジ構造を作るには、こねる必要があるが、食感が悪くなるのでこねすぎてはいけない。肉だねの温度が上がると、しっかりした構造にならず、またジューシーさに貢献する脂も溶けてしまう。だから、低温に保つことが最重要だ。そういう意味でも、手でこねないほうがいい――。

と結論づけて終わろうとしたところで、これとは違うやり方を推奨している本を見つけてしまった。小倉明彦・大阪大学元教授は『実況 料理生物学』(大阪大学出版会)で、「塩よりも先に水を入れろ」と教えている。

細胞液の塩分濃度は真水より高い。細胞が真水と接すると、細胞の内外は同じ濃度になろうとして真水は細胞内に流れ込む。いわゆる「浸透圧」というやつだ。その結果、細胞はパンパンに膨らみ、肉をこねたときに破裂する。細胞からDNAが出てきて絡み合い、のりの役割を果たしてくれるので、粘りやすい、というのだ。

もし水より先に塩を入れてしまうと、細胞の外の濃度のほうが高くなる。すると、浸透圧によって。逆に細胞から水が流れ出るので、こねても簡単には破裂しない。だから塩より先に水を加えろ、という理屈である。

まず塩を入れてこねるのを常識だと思っていた私には、「まず水を入れろ」という教えは衝撃的だった。

これはソーセージを作る実習で出てくるエピソードなのだが、教授は「ハンバーグもギョーザも同じことをするんだよ。水を入れてこねる」と発言している。「ハンバーグ求道者」としては試してみなければならない。

この本には分量の記述はなかったが、実際にやってみると、ひき肉は面白いように水を吸っていく。どれくらい吸うのか試したが、100グラムの肉に対し、なんと53グラムほどの水を吸った。

ひき肉をこねると、確かに粘ってくる。しばらくすると、薄い血の色をした液体がひき肉からにじみ出てきた。かまわずこね続け、塩を加えてさらにこねる。肉だねからは水分がにじみ出し、大変軟らかく、形が崩れそうだ。ただし、ぷるぷるとした独自の粘りがあるせいで、なんとか成形できる。

この肉だねを焼いてみたが、焼いているあいだもどんどん水分が出てくる。形も少し崩れ出した。肉がボロボロと崩れるというのではなく、重力で全体がゆがんでくる感じだ。焼く前は150グラムで、仕上がりは96グラムだから、焼く過程で約36パーセントの水分が失われたことになる。

食べてみると、確かにこれはものすごくジューシーである。一口目で「なにこれ。おいしい!」といわせるだけのインパクトがあった。

ただ、冷静に味わってみると、残念なことに肉そのものの味がかなり薄くなっている。出がらしのだしのような、味のない状態になっているのだ。水を添加しないものと比べると、肉の味に格段の差がある。

確かに、肉を完全にペースト状にしてしまうソーセージであれば、水を入れることは有効かもしれない。ハンバーグのように肉の粒を残し、ジューシーさとともに肉そのものの味も楽しむ料理だと、美点と欠点が共存する形となる。水を添加する場合、ジューシーさと肉のおいしさはトレードオフの関係となる。

ただし、これは53グラムという大量の水を入れた場合の話だ。少量の水を加えるだけなら、ほどほどに肉の味をキープしつつ、ジューシーにできる可能性もある。そこで、また実験である。100グラムのひき肉に対し5グラム、10グラム、15グラムの水を加えて、入れないものと比較してみた。

この4種類の肉だねを焼いて食べ比べたところ、結果は歴然としたものだった。家庭で行った実験でも1人は、0グラム、5グラム、10グラム、15グラムの順で肉の味がし、逆に15グラム、10グラム、5グラム、0グラムの順でジューシーに感じる、と見事なまでのトレードオフ関係だ。

このハンバーグを味わいながら、香味野菜や牛すね肉などからとったフォンドヴォーで肉を煮込む方法に2パターンあることを、私は思い出していた。

1つの方法は、肉が容易にかみ切れる程度に煮込んだら、もう火からおろしてしまう。これだと、肉自体の味もまだ残っており、それにだしの味がからんで、その両方を味わうことになる。

もう1つの方法は、肉の繊維が崩れるまで長時間煮込む方法だ。こちらは肉自体の味はすっかり抜けてしまうが、まるでスポンジのようになり、だしをたっぷり吸い込むことができる。肉自体はうま味を失っても、別途とられたうま味たっぷりのフォンドヴォーがしみ込むことで、食べたときに肉の味のなさを感じさせないのだ。

これをハンバーグに置き換えて考えてみよう。最初に水を多く入れてこねれば、壊れた細胞からうま味たっぷりのだしが流出する。この一部はスポンジ構造に保持されるものの、煮込みと違ってフォンドヴォーなどが添加されることはない。だから、肉の味のなさが目立ってしまうのである。

ジューシーだと人はおいしいと感じる。そしてジューシーにするには肉だねに水を加えるのが非常に効果的である。しかし、水を加えると肉そのものの味が失われる。肉の味が失われたハンバーグは、いくらジューシーでもそれほど美味には感じない。

そういうことだ。ジューシーでもおいしく感じられない以上、最初に水を入れることはしない。やはり、最初に塩を加えてこねる方法を採用したい。

土屋 敦 著 『男のハンバーグ道』(日本経済新聞出版社、2015年)第1章「こねるほどおいしい?」から
土屋 敦(つちや あつし)
ライター 1
969年東京都生まれ。慶応大学経済学部卒業。出版社で週刊誌編集ののち寿退社。京都での主夫生活を経て、中米各国に滞在、ホンジュラスで災害支援NGOを立ち上げる。その後佐渡島で半農生活を送りつつ、情報サイト・オールアバウトの「男の料理」ガイドを務め、雑誌等で書評の執筆を開始。現在は山梨に暮らしながら執筆活動を行うほか、小中学生の教育にも携わる。著書に『なんたって豚の角煮』『男のパスタ道』『男のハンバーグ道』『家飲みを極める』などがある

男のハンバーグ道 (日経プレミアシリーズ)

著者 : 土屋 敦
出版 : 日本経済新聞出版社
価格 : 918円 (税込み)

春割ですべての記事が読み放題
有料会員が2カ月無料

有料会員限定
キーワード登録であなたの
重要なニュースを
ハイライト
登録したキーワードに該当する記事が紙面ビューアー上で赤い線に囲まれて表示されている画面例
日経電子版 紙面ビューアー
詳しくはこちら

ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
※ NIKKEI STYLE は2023年にリニューアルしました。これまでに公開したコンテンツのほとんどは日経電子版などで引き続きご覧いただけます。

セレクション

トレンドウオッチ

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

フォローする
有料会員の方のみご利用になれます。気になる連載・コラム・キーワードをフォローすると、「Myニュース」でまとめよみができます。
春割で無料体験するログイン
記事を保存する
有料会員の方のみご利用になれます。保存した記事はスマホやタブレットでもご覧いただけます。
春割で無料体験するログイン
Think! の投稿を読む
記事と併せて、エキスパート(専門家)のひとこと解説や分析を読むことができます。会員の方のみご利用になれます。
春割で無料体験するログイン
図表を保存する
有料会員の方のみご利用になれます。保存した図表はスマホやタブレットでもご覧いただけます。
春割で無料体験するログイン

権限不足のため、フォローできません

ニュースレターを登録すると続きが読めます(無料)

ご登録いただいたメールアドレス宛てにニュースレターの配信と日経電子版のキャンペーン情報などをお送りします(登録後の配信解除も可能です)。これらメール配信の目的に限りメールアドレスを利用します。日経IDなどその他のサービスに自動で登録されることはありません。

ご登録ありがとうございました。

入力いただいたメールアドレスにメールを送付しました。メールのリンクをクリックすると記事全文をお読みいただけます。

登録できませんでした。

エラーが発生し、登録できませんでした。

登録できませんでした。

ニュースレターの登録に失敗しました。ご覧頂いている記事は、対象外になっています。

登録済みです。

入力いただきましたメールアドレスは既に登録済みとなっております。ニュースレターの配信をお待ち下さい。

_

_

_