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絶品ハンバーグ 肉をこねるほどおいしくなるのか? 男のハンバーグ道(2)

2018/8/26

食べてみると、確かにこれはものすごくジューシーである。一口目で「なにこれ。おいしい!」といわせるだけのインパクトがあった。

ただ、冷静に味わってみると、残念なことに肉そのものの味がかなり薄くなっている。出がらしのだしのような、味のない状態になっているのだ。水を添加しないものと比べると、肉の味に格段の差がある。

確かに、肉を完全にペースト状にしてしまうソーセージであれば、水を入れることは有効かもしれない。ハンバーグのように肉の粒を残し、ジューシーさとともに肉そのものの味も楽しむ料理だと、美点と欠点が共存する形となる。水を添加する場合、ジューシーさと肉のおいしさはトレードオフの関係となる。

ただし、これは53グラムという大量の水を入れた場合の話だ。少量の水を加えるだけなら、ほどほどに肉の味をキープしつつ、ジューシーにできる可能性もある。そこで、また実験である。100グラムのひき肉に対し5グラム、10グラム、15グラムの水を加えて、入れないものと比較してみた。

この4種類の肉だねを焼いて食べ比べたところ、結果は歴然としたものだった。家庭で行った実験でも1人は、0グラム、5グラム、10グラム、15グラムの順で肉の味がし、逆に15グラム、10グラム、5グラム、0グラムの順でジューシーに感じる、と見事なまでのトレードオフ関係だ。

このハンバーグを味わいながら、香味野菜や牛すね肉などからとったフォンドヴォーで肉を煮込む方法に2パターンあることを、私は思い出していた。

1つの方法は、肉が容易にかみ切れる程度に煮込んだら、もう火からおろしてしまう。これだと、肉自体の味もまだ残っており、それにだしの味がからんで、その両方を味わうことになる。

もう1つの方法は、肉の繊維が崩れるまで長時間煮込む方法だ。こちらは肉自体の味はすっかり抜けてしまうが、まるでスポンジのようになり、だしをたっぷり吸い込むことができる。肉自体はうま味を失っても、別途とられたうま味たっぷりのフォンドヴォーがしみ込むことで、食べたときに肉の味のなさを感じさせないのだ。

これをハンバーグに置き換えて考えてみよう。最初に水を多く入れてこねれば、壊れた細胞からうま味たっぷりのだしが流出する。この一部はスポンジ構造に保持されるものの、煮込みと違ってフォンドヴォーなどが添加されることはない。だから、肉の味のなさが目立ってしまうのである。

ジューシーだと人はおいしいと感じる。そしてジューシーにするには肉だねに水を加えるのが非常に効果的である。しかし、水を加えると肉そのものの味が失われる。肉の味が失われたハンバーグは、いくらジューシーでもそれほど美味には感じない。

そういうことだ。ジューシーでもおいしく感じられない以上、最初に水を入れることはしない。やはり、最初に塩を加えてこねる方法を採用したい。

土屋 敦 著 『男のハンバーグ道』(日本経済新聞出版社、2015年)第1章「こねるほどおいしい?」から
土屋 敦(つちや あつし)
ライター 1
969年東京都生まれ。慶応大学経済学部卒業。出版社で週刊誌編集ののち寿退社。京都での主夫生活を経て、中米各国に滞在、ホンジュラスで災害支援NGOを立ち上げる。その後佐渡島で半農生活を送りつつ、情報サイト・オールアバウトの「男の料理」ガイドを務め、雑誌等で書評の執筆を開始。現在は山梨に暮らしながら執筆活動を行うほか、小中学生の教育にも携わる。著書に『なんたって豚の角煮』『男のパスタ道』『男のハンバーグ道』『家飲みを極める』などがある

男のハンバーグ道 (日経プレミアシリーズ)

著者 : 土屋 敦
出版 : 日本経済新聞出版社
価格 : 918円 (税込み)

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