母の就労「子に悪影響なし」 親の充実感が幸福生むダイバーシティ進化論(村上由美子)

2018/8/25
写真はイメージ画像=PIXTA
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学校の夏休みも残りわずか。子供たちには楽しい夏休みだが、働く親には悪戦苦闘の季節でもある。有給休暇、林間学校、実家への里帰りなど、ありとあらゆる手段を最大限に使っても長い休みを全てカバーするのは不可能に近い。

我が家では3人の子供たちが終日、鍵っ子状態にならざるを得ない日もある。仕事に忙殺され、子供と接する時間が限られると親は罪悪感を抱きがち。特に母親は、物理的にも心理的にも葛藤を深めやすい。

そんな状況に一つの光明をもたらした研究がある。3年前、ハーバード・ビジネススクールの教授が発表した調査で「働く母親の娘は専業主婦の娘より高い学歴と報酬を得る可能性が高い」という。普段子供たちの宿題を十分に見るチャンスのない私は、多少なりとも安堵感を覚えた。だが同時に、将来、子供たちが経済的成功を収めたとしても、子供時代まで含めると必ずしも幸福といえないのではとの疑問も残った。

くだんの調査はその後、29カ国の10万人以上に対象を拡大すると同時に内容も大幅に拡充。先月、その最終結果が発表された。「母親の就労の有無は子供の幸福度に無関係であり、母親の就労の子供への精神的悪影響は観察されない」

同調査によると子供が娘だと働く母親はロールモデルとなり、キャリア志向を強める場合が多いとか。一方、息子の学歴や報酬は双方でほぼ違いがなかった。しかし、母親が働く姿を見て育った息子は成人後、性別役割分業の偏見を持つことなく、家事・育児により多くの時間を割く傾向があることも報告された。

母親が働く動機や理由は様々で経済的事情の場合もある。子供の健全な成長に悪影響を及ぼさないなら、働く母親が罪悪感を抱く必要はなさそうだ。母は育児に専念をとの3歳児神話が根強く残る日本社会。だが、実は20年も前に「厚生白書」はその科学的根拠を否定している。専業主婦でもストレスを抱えた状態で家庭で長時間過ごせば、子供の情緒不安定につながる危険が指摘されている。

重要なのは、就業の有無にかかわらず、父母それぞれが自身の人生への充実感で満たされていることかもしれない。育児と仕事の二者択一を迫られることなく、個々の必要性や価値観に基づきライフスタイルを構築できる社会へ。それこそが多くの日本人が幸福を感じられる条件であろう。

村上由美子
経済協力開発機構(OECD)東京センター所長。上智大学外国語学部卒、米スタンフォード大学修士課程修了、米ハーバード大経営学修士課程修了。国際連合、ゴールドマン・サックス証券などを経て2013年9月から現職。米国人の夫と3人の子どもの5人家族。著書に『武器としての人口減社会』がある。

[日本経済新聞朝刊2018年8月20日付]

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