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野菜・ワイン… 仲間と味わう田園の快楽 玉村豊男氏

エッセイスト・画家 玉村豊男氏(下)

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NIKKEI STYLE

玉村豊男氏は、パリ留学を経て料理や食文化に深い関心を抱くようになる。人気エッセイストとして多忙な日々を送るが、1991年より長野県で農園生活を始め、2003年に「ヴィラデスト ガーデンファーム アンド ワイナリー」をオープン。2014年には日本ワイン農業研究所を創立するなど、地域活性化にも尽力。すべてのきっかけは、40歳で襲われた突然の病だった(前回の記事は「南仏貧乏旅行、宿で天ぷら作って人生一変 玉村豊男氏」)。

――1986年、当時お住まいだった軽井沢で過労とストレスで大量の吐血をされたことなどを契機に、91年現在の長野県東御市に転居され農園を作り、ワイン作りも始められました。再び大きな食と人生の転機が訪れたということでしょうか。

東京のマンションから軽井沢に引っ越したのは38歳のとき。テニスに熱中してその本を書いたりして、ここで農業をしようとは全く考えていませんでした。ところが、数え年で42歳の厄年に血を吐いて、さらに輸血で肝炎になった。それで、妻が田舎に行きましょうと現在の土地に転居することになったんです。今、ワインを作っていると言うと、たいていの人が「学生の頃からこうしたことを考えていたんですか」と質問しますが、そんな考えは東御市に来るまでまるでありませんでした。

田舎暮らしをするようになり、野菜を採ってすぐ食べるおいしさに目覚めました。ズッキーニなどは、1日2、3回畑を見回って収穫する。採ってから半日以内に食べるのと1日たったものでは、全く味が違うんです。タマネギも採れたては切ったときに白い汁がどっと流れるぐらいの鮮度がある。トマトは尻腐れ病といって、高温で干ばつみたいに乾燥するとき発生しやすい病気があり、お尻の部分が黒くなる。でも、病気になった果物はこれを修復しようとする作用が働くからものすごく甘くなるんです。だから、尻腐れ病にかかると、こんなトマトはないってぐらいおいしい。自分で作っているからこその醍醐味です。

僕ならではのレシピがある料理の一つが麻婆豆腐なんですが、これも最近は採れたての生サンショウを使っています。本場四川の麻婆豆腐は、びりびり舌がしびれる花椒(ホワジャオ、中国のサンショウ)をたっぷり使うんですが、きれいな緑色のものを使うと本当にフレッシュでおいしい。6月に2週間ぐらい採れる時期があり、放っておくとすぐ茶色になるので冷凍保存もするんですが、一番おいしいのは採ったばかりのもの。だから、僕の麻婆豆腐は「季節料理」です。四川で花椒をたくさん使うのは湿度が高い土地なので湿気払いをするため。だから、日本でも6月の梅雨の時期に採れるサンショウを使うのは、理にかなっているんですよね。

ワインも最初、自分たちで飲む分だけ作っていて、収穫したブドウは長野のワインメーカーで醸造してもらっていました。そうしたら、宝酒造のTaKaRa酒生活文化研究所の所長を務めているとき、同社でもワインを作ろうという話が持ち上がったんです。結局話はとん挫してしまうのですが、その頃僕も畑を増やしていたので、同社でこのプロジェクトに取り組んでいた小西超(とおる)さんと一緒にワイナリーを作ろうということになった。ワイン作りが本当に面白くなったのはそれからでした。

ブドウを潰して発酵させ置いておく――ワイン作りの基本はとてもシンプルなんですが、細かい選択肢が無数にある。例えば、普通は潰すときに梗(こう、ブドウの粒がついている小さな枝)を取りますが、半分とか全部付いたままにするという選択肢もある。梗が付いたまま潰すと青くさいような野趣がでるんだけど、それがあった方がいい場合もあるわけです。ワインの味は半年後、1年後と変わりますから、瓶詰めのタイミングも随分たってから「あの時、もう少し待てばよかった」というのが分かる。毎年選択に次ぐ選択の繰り返しで、今年はどうしようかと考えるのが面白い。

ワイナリーを設立してから3回目に醸造したワインが洞爺湖サミットのワインに選ばれ、5回目で国産ワインコンクール(現・日本ワインコンクール)で金賞をいただいた。ワイン作りは1年に1回しかできませんから、とても恵まれていました。

大学生のときフランスに留学し、ニースのユースホステルで天ぷらを作りみんなにふるまったことがきっかけとなり、料理がすごく面白くなった。それが、僕の今の仕事につながる「出世メシ」だと言えます。食べ物や料理に加え、人が集まって食事をするシーンに興味があって、ユースホステルのイベントはそんなシーンに積極的にかかわる最初の機会でした。そして今は農家となり、作った野菜やワインをワイナリーに併設したカフェレストランで提供し、人々の食のシーンに取り囲まれるようになっている。意図したわけではないのに、結果的にそうしたシーンを引き寄せ、自分の居場所が「出世メシ」の原点と重なる場になっていった。不思議ですね。

――病気をされてから、召し上がる料理は変わったのでしょうか。

変わりません(笑)。でも、田舎暮らしをするようになって洋食が増えました。ご飯とみそ汁のような和食はほとんど作らない。畑仕事をするからエネルギーを補給するため、昼間はご飯やうどんなど炭水化物を食べる。野菜がふんだんに採れますから夕食はたくさんの野菜に肉や魚。たんぱく質がないと次の日に向けたエネルギー補給ができないので、しっかり食べる。大抵、野菜を煮たり焼いたりサラダにしたりして、肉の塊を焼く。魚より肉を食べることが多いですね。

パリにいた頃1カ月に1度ぐらい安いビストロに行って、実感したことがあります。フランスのレストランで食事をすると、食べている最中からどんどん元気になってくるんです。フランス人は日本人に比べ食べる回数が少ない。もともと狩猟民族で肉食文化だから、日本人のように間食はしないんです。だから、食べるときはがっつり食べる。

日本の会席料理などは少しずつ何品も料理が出てきて器もばらばらですが、フランス料理はセット物のお皿で料理が出て皿数も少ない。最初から最後まで集中してエネルギーを取り込むシステムの料理なんですね。最近では、フランス料理にもデギュスタシオン(少量多皿で出すコース料理)などがありますが、フランス人は基本的にちょこちょこ食べてお腹がいっぱいにならない料理は嫌なんです。

――ご自宅には大きなキッチンがあり、玉村さんのライフスタイルを初めて紹介する開催中の展覧会「田園の快楽 玉村豊男展」(松屋銀座)で、それを再現されているそうですね。

キッチンの様子と、そこにある暖炉を再現しています。

暖炉は軽井沢に住んでいたときも作ったのですが、これがほとんど燃えなかった。ある高名なインテリアデザイナーの別荘の暖炉を写真で見てまねをしたのですが、後でご本人にお会いしたら「そうなんだよ、あれ燃えなくてさ」と言われた(笑)。だから、今の住まいでは「暖炉名人」に頼みました。暖炉屋さんを訪ねたら目の前の暖炉でサンマを焼いてくれたんですが、煙がすうっと煙突に吸い込まれていった。居間とキッチン、2つの暖炉があるのですが、どちらも本当によく燃えます。

キッチンにあるのは小さな暖炉ですが、串刺しにした肉を焼くなど度々使用します。牛や豚の塊肉を薪で焼くんですが、木の種類にはこだわらない。ブドウの枝を使うと香りが付いていいと言う人がいるんだけど、あれは気のせいですね。

――最近は、お住まいの長野県東御市和(かのう)・田沢地区の地域活動に積極的に取り組まれています。同地区では2018年6月にかつての村の酒屋が復活、地元住民が参加して運営する「関酒店」がオープンし、8月には築90年の民家を利用した民泊施設「清水さんの家」もオープン。いずれのプロジェクトも旗振り役となってこられました。

田沢地区はプレミアムワインの産地として注目されるようになっていて、ワイナリーも増えています。でも、外から来た人だけじゃなくて、地元の人がワインを飲める場所を作らなくてはと思った。「ここらへんでいいワインができているんだよね」などと話していても、気軽に飲める場所がないから飲んだことがない。「関酒店」はワインだけではなく、日本酒やビールもあって、酒屋で買ったものをその場で飲める「角打ち」になっています。

近くに民泊施設もオープンし、外から訪れた人と地元の人との交流が深められるようになりました。日帰りでは地元の人たちとつながらないんです。民泊施設があれば、そこで村の人と一緒にワインを飲むこともできるし、女性たちが集まって料理会をやるなど交流の場がさらに広がる。これからもこうした交流の場を増やしたいと思っています。

玉村豊男
1945年、東京にて日本画家・玉村方久斗(たまむら・ほくと)の末子として生まれる。東京大学仏文科在学中にパリ大学言語学研究所に留学。通訳、翻訳業を経て、文筆業へ。1983年軽井沢町に移住。1991年より長野県東部町(現・東御市)に移り、農園を始める。2003年「ヴィラデスト ガーデンファーム アンド ワイナリー」をオープン。2014年日本ワイン農業研究所を創立。旅、料理、田舎暮らしなど幅広い分野で執筆活動を続けるほか、画家としても活躍。著書は最新エッセー『新 田園の快楽』(世界文化社)など。

(ライター 大塚千春)

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