ワイルドで行こう シーフードは「手づかみ」が米国流
食事は箸で食べるもの、手づかみなどもってのほか。これは日本人にとって、当たり前とも言える感覚だろう。だが、そんな既成概念を打ち崩す「手づかみシーフードレストラン」が海外から続々上陸し、話題になっている。その1つ、ダンシングクラブ東京(新宿区)は米国南部ルイジアナスタイルの手づかみでシーフード料理が食べられる店だ。JR新宿駅東南口から徒歩1分で、仕事帰りにパーッと気分転換するのにうってつけだ。
ダンシングクラブでは皿もナイフもフォークも使わず、豪快に手づかみで食べるのが流儀だ。カニ、エビ、貝などのシーフードをスパイシーなソースで調味したものを、皿には盛らずにテーブルに敷いたシートの上に広げる。シーフードだけでなく、サラダもパスタも手づかみで食べる。このように珍しい食体験が評判を呼び、なかなか予約がとれない人気店だ。1号店は2014年4月にシンガポールで誕生し、同年10月に日本に初上陸した。現在は日本第1号店の東京に加え、大阪、福岡にも店舗がある。
手づかみスタイルはもともと、ミシシッピ川に近い米南部で行われていた。その後、海岸沿いの地域に伝わり、ニューヨークやハワイにまで広がったという。だが現地での食べ方は鍋のなかでシーフードにソースをからめ、それを手づかみで食べるというものだ。テーブルの上にそのまま広げるスタイルはエンターテイメント性を高めるために、シンガポールのダンシングクラブで開発された。
店に入ると、「なぜダンシングクラブという店名なのか」の謎がとける。
140席以上ある広い店内には音楽が大音量で流れ、天井にはミラーボール照明が。往年のクラブやディスコを思わせる高揚感が演出されている。
席につくとカニのカチューシャを手渡された。「なんだ、これは」。戸惑いの波が押し寄せてくるが、それを吹き飛ばしてカチューシャを装着してカニに変身する。
ひときわダンサブルな音楽が流れ始めると、店員が集合してはじけるような笑顔で踊り始めた。店内はダンスステージに早変わり、頭にはカニのカチューシャ。まさしくdancing crab。こうなったら楽しむしかない!
さて、手づかみで食べるというけれど、手は洗わなくていいの?ととまどう人もいるだろう。店内には手洗いスペースがあり、ダイソン社製の手洗い機も完備され、手洗いから乾燥まで手を触れずに済ませることができる。
準備が済んだら料理を選ぼう。前菜のお薦めはコールドプラッター。4種類のエビを盛り込んだ「シュリンプカクテル」(3500円、税別)は真っ赤な見た目が鮮やかで、写真映えする一品。「冷製プラッター」(3500円、同)はオマールエビ、ズワイガニ、ホンビノス貝、オーストラリアタイガーなどのシーフードに火を通してから冷やし、塩コショウ、レモンライム、澄ましバターなどの味付けでシンプルにいただく。カニ用はさみを借りて殻を割って、素材のおいしさをそのまま味わおう。
メインは「シーフードコンボバッグ」(価格は組み合わせで異なる)。来店者は必ず注文するという。これを食べなければダンシングクラブに来た意味がないというほどの看板メニューだ。まずは好みの魚介類を選ぶ。ロシア産タラバガニ、ナミビア産丸ズワイガニ、ロシア産トゲズワイガニ、ニューカレドニア産ブルーシュリンプ、アルゼンチン産赤エビなど、季節によって産地を厳選し世界各地から仕入れたシーフードだ。ベーコンやトウモロコシ、オクラなどの野菜も選べる。
迷ったら定番食材がパックになったクラブバッグ(6200円、同)をベースに、好みの魚介類を足していけばいい。よりぜいたくに味わいたい人には国産の紅ズワイガニや車エビなど、新鮮な魚介類がたっぷり入った数量限定の「産地直送フィッシャーマンズコンボ」(9800円、同)もお薦めだ。
次にソースを選ぶ。定番のシグニチャーソースはケイジャンスパイスとトマトピューレを使ったソースで、マイルド、辛口、超辛口から選べる。ほかにレモンガーリックソース、ブラックペッパーソースのほか、8月31日までの季節限定でサルサヴェルデソースもある。こちらは中南米のトマティーヨとガーリック、タマネギを使った酸味のあるソースだ。パクチーの爽快感がきいて、夏向きの味だ。
ついにシーフードコンボバッグが運ばれてきた。テーブルの上にしかれた特製シートの上に、ビニール袋に入った海鮮+ソースを、一気にバシャーと「ぶちまける」。
これを手づかみで? とためらいつつも一口食べれば、未体験の扉が開く。一度手づかみでワシワシ食べることを覚えてしまえば、手づかみ食べが気持ちよくすらなってくる。いい意味で理性もふっとび、モリモリ食べられる。パンチのきいたソースの味付けでシーフードを飽きずに食べられるうえに、メニューには肉料理やパスタもある。
サイドメニューにも名物料理がたくさんある。米国の伝統的な料理であるクラブケーキもその1つ。カニ身がぎっしりつまったフライにソースをつけて食べると、箸ではなく、手がとまらない。
裏ワザとしてはお薦めなのは、テキサスガーリックトースト(ハーフ580円、税別、ホール1100円、同)を頼んで、ソースを絡めながら食べることだ。スパイスがきいた特製ソースが残ったら、バゲットでさらうように味わいつくすといい。
店を運営するミールワークの神事まゆみさんは「ダンシングクラブが目指すのはおいしいだけでなく、おいしくて楽しい食のエンターテイメントです。ここにいる間は非日常を楽しんでほしい」と語る。カニのカチューシャやダンシングタイムの仕掛けは非日常感を演出するために、東京店で誕生したものなのだ。金曜の夜は仕事帰りのビジネスマンも多く、盛り上がる姿もよく見られるという。一気に距離を縮めたい仕事相手との食事にも使えそうだ。
一度、手づかみの楽しさを体験すればきっとハマってしまうはずだ。ぜひ味わってみてほしい。今年の夏はワイルドで行こう。
(日本の旅ライター 吉野りり花)
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